第14話:不発のトラップと奈落の絵画③
ーー場所は移動し、洞窟のように暗い通路。
奥に進むにつれ窓から石壁へと変わる。
まだ玄関口に近かった通路には、魔道ランタンもかけられている場所はあった。しかし、誰かがケチったのか魔石は空っぽ。
少し進んでは光源がなくなりリトニア号を操縦し前方へ進む。そして通路の調査を行い、またリトニア号へ乗り込み……
「まどろっこしいことこの上ないですわ!そんな非効率なやり方、性に合わなくてよ!!」
私は思わず地団駄を踏みたくなったが、それは淑女らしさを損なう。代わりにぐっと唇を噛み締める。
この暗闇の中で、唯一の光源であるのはリトニア号の前方についているライトだけ。そもそもそれが間違いなのだ。無いなら増やせば、より作業効率が上がる。
「そうだわ、クロード。アレを出しますわよ!」
「アレで御座いますか。畏まりました。すぐに用意を」
閃きにパッと笑顔が溢れる。こういう時こそ、便利な魔道具を使うべき時だろう。
クロードがリトニア号の格納庫から取り出したのは、リトニア重工製の広角魔道ランタン『ルミナス・ワイド』
「……お嬢様、これ、光を拡散させすぎて魔力のロスが激しい代物ですよ? 遺跡探索用というより、夜間工事の工期を無理やり間に合わせるための『ブラック現場仕様』です」
「構いませんわ! 手持ちランプのような狭い視界では、横から来る罠に対応できませんもの!」
スイッチを入れた瞬間、私の周囲数メートルが、まるで「真昼の工事現場」のような均一な光で満たされた。 実用的な輝き。壁の質感から床の隅々までが、鮮明に浮き彫りになる。
「お嬢様、この拡散仕様のせいで、魔石の減りが通常の1.5倍速です。……あと三十分もすれば、ここはまた元の静かな暗闇に戻りますよ。電池切れにご注意を」
「ふふ、クロードったら心配性ですわね。この視認性の良さこそが、まさに安全の要ですわっ!!」
クロードの説明を聞き流しながら、私は満足げに頷いた。
(……まあ、本音を言ってしまえば、これも単なる出力調整のミスなのだけれど……失敗は成功の元と言いますし、前向きに解釈した方がいいでしょう)
私は心の中でそっと言い訳をし、再び行動を起こした。
ーー地道な点検作業を続けて一時間。
(流石にちょっと疲れましたわね……。でも皆はさすが、肉体労働派ね。疲れた様子が一切なくて、私こそは見習うべきところだわ)
作業を続ける彼らを横目に、ちょっとだけ休憩しようと壁にそっと手をついた。その時。
ーーカチッ
「ひゃっ!!?」
私が短い悲鳴を上げ、レオンが電光石火の速さで剣を抜く――が。
………
「……あら?」
こういう時のお約束である、無数の矢は、一本たりとも飛んでこなかった。それ所か、矢の飛んでくる音すらなかった。
「……どうやら不備のようですね。お嬢様の魔導具ならばもっとド派手に自己主張激しく、時に物悲しい鳴き声を放つというのに……。さて、私の出番はこれだけですか?」
トラップであっただろう仕掛けの不調に何を悲しんでいるのか、それとも呆気なさに思わず肩を落としてしまったのか。退屈さを嫌うこの騎士はよく物騒な言葉ばかり放つ。
そんな中、吸い寄せられるように、矢の発射台であっただろう壁の隙間へと駆け寄る。
「見てくださいまし! このトリガーのバネ、ミスリル合金の初期型プロトタイプですわ! ……ああっ、機能したくてもできなかったなんて、なんて不憫で不遇な設計ですの……っ!」
「お嬢様、不発トラップに同情している暇はありません。……錆びた罠よりも、貴女自身の『不注意』という最大級の罠を警戒してください」
ノアの淡々とした制止に、私は「まさか、そんなことがあるはずないでしょう」と鼻で笑い飛ばした。 現場作業ならリトニアでは日常茶飯事に行っている。
(安全点検こそが技術者の基本の『基』。この道数年のプロが、石ころ一つに躓くなどという、そんな三流の喜劇の失態を演じるはず、ありえませんことよ!)
「ええ、そうね、気をつけますわ! けれど、作業慣れした私を誰だと思ってーー」
宣言した直後。岩壁に刻まれた古代の配線跡に意識を奪われた私の足先が、出っ張った石に引っかかる。
(あっ、これ、明らかにマズイものですわ……)
足を縺れさせ前方へとよろけ、耐えきれず転ぶ。
「あぶべっ!?」
「お嬢様っ!」
誰かの叫ぶ声と同時に、私の手足は地についた。完璧すぎるフラグ回収を完遂した。
「あいたた……」
じくりと痛み出す打った膝。しかし、その痛みを感じている暇もなく、地面からはゴゴゴと腹に響く音が鳴る。
「な、何が動いて……?!」
ずりっと音を立て尻餅をついたまま、後ずさる。すると、私が当初転んだ地面が左右に割れる。
ーー眼下には底の見えない、”暗闇”が広がった。
「ひぃっ!!」
頭の中でザッと一気に血の引く音、強張る私の身。
「な、奈落!奈落ですわーーっ!!」
情けない声で絶叫した瞬間、カイルが私の肩を片手で引き止める。
ジタバタと”奈落の上”で暴れる私。
大きな溜息と共に呆れ混じりの言葉を放ち、パッと手を離す。
「……落ち着け。よく見ろ。ただのトリックアートだ」
カイルが冷たく指差した先。私が「底なし」と信じた奈落の正体は、ただの「驚くほどリアルに描かれた床の絵」だった。
「この透視図法……解析の結果、既存のものではないようです。錯視を利用した、非常に高度な芸術的価値がありますね。……つまり、『安上がりなハッタリ』を極めた一品ということです」
私の隣でノアは解析を進める。無機質な瞳の中には、もはや冷ややかな温度さえ混じっていた。
その言葉を聞いた護衛たちからの憐れみの視線。
「「「……」」」
ーー気まずい沈黙。
「……くうっ! 予算不足でトラップを絵で済ませるなんて、技術者の挑戦に対するなんたる冒涜……っ!
現場では常にコストを考えて動くものですわ!
私も技術者として気持ちがよーーく分かりますわよ!!ああ、何ということ……涙が出ますわ!!」
無意味に暴れた羞恥心を誤魔化すように、私は勢いと演技力で乗り切る。
だが、そこは皆も大人だ。どこか生温いが暖かな視線でそっと笑みを贈ってくれた。一部は肩を揺らしていたが。
その後も、情緒が安定しない私は不覚にも、「カチッ(不発)」「スカッ(空振り)」というトラップを次々と起動。まさに毎分立ち上がり続けるフラグを、音速の勢いで回収していったのである。
「古代遺跡とは!? 神秘でもっとこう、凄い何かがありますでしょ!? なんでこう、老朽化バグと絵画トリックだらけなんですのーー!!」
遺跡の奥底に、私の「ロマンの葬送曲」が虚しく、どこまでも虚しく響き渡った。
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ノアの観測記録(Log-014-C)
【観測】 通路探索において、お嬢様自らによる連続フラグ起動を確認。
【分析】 古代トラップの不作動原因は「経年劣化バグ」と断定。 床の奈落の正体は「極めて低コストな錯視絵画」であることを解析。
【結論】 古代文明も末期には「予算不足」に悩まされていた可能性が高い。お嬢様のロマンは現在、瓦礫と共に堆積中。
……引き続き、この「低予算な神秘」を観測します。
【活動報告 / 後書き用】
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(※この物語は作者の妄想・パッション・ロマンにて世界観や魔導具が構築されております。多少のご都合主義は、技術屋の愛嬌としてご理解いただけますと幸いです!)




