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不憫な悪役令嬢は、ドリルで常識を穿つ! 〜国家一級魔導具師が、古代遺跡を調査しますわ!〜  作者: 雪見もち子


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第14話:遺跡の「現実」と「ロマン」の衝突②

リトニア号の重厚な歯車輪が、かつては数多の不法侵入者を拒んだであろう石扉の「残骸」を、無慈悲に踏み越えていく。




「……無残ですわね。歴史的建造物が、物理(爆薬)でここまで無造作に破壊デバッグされるなんて……」



私は窓の外を眺め、深い溜息をつく。



そこにあったのは幻想的な古代の門ではない。王立調査団に「通行の邪魔」として粉砕され、産業廃棄物と化した瓦礫の山だった。



数千年の時を止めた神秘の空間――と思いきや、道は驚くほどフラットに整備されていた。



崩落箇所は丁寧にも通路の端へ寄せられ、苔むした壁の前には、

【足元ツルンと滑る。注意されたし】という適当かつ雑な手書きの白いフォントで、蛍光色の立派な立て札が立っている。



「着きましたわね。でしたら一旦こちらにカイルも呼んで、作戦会議としましょうか」



私は看板の前に降り立ち、クロードとカトレアが場を整える。簡易テーブルと人工的な光源の魔道ランタンを設置した。



操縦席からカイルも出てきた頃には、全員がテーブルを囲み、作戦会議が始まる。



「……これだと未知の古代遺跡というよりも、もはや廃墟の解体工事現場ですわ……」



「まるでレオンが通った後の、破壊された森のような侘しさを感じます……」



「現実だと、この瓦礫の残骸なんて可愛いもんだろ。この3倍はいつも破壊されるぞ」



「3倍!? ちょっと、そんな破壊報告聞いておりませんわよ!! まさか、修繕費に我が家の予算が……!?」



「ご心配には及びません、お嬢様。破壊されるのは鬱蒼とした森……つまり、合法的な道の整備となっています」



(木こりも魔道重機もいらずだなんて、とんだ奇跡ね! 道が一歩逸れたらただの覇王だけれど、それなら人助けにもなっているのかしら……?)



天井の崩落箇所から差し込む陽光は、神秘性を高めるどころか、単に屋根の修繕予算が足りなかった質素な空き家の侘しさを強調していた。



落胆する私に対し、クロードが眼鏡のブリッジを押し上げ、冷徹な事実データを突きつける。



「お嬢様、この遺跡は既に隣国の地学チームが隅々まで踏破済みです。我々の任務は、既知の道をリトニアの最新レーダーで再確認するだけの『最終点検』に過ぎません。……もっとも、点検というよりは、文官へ提出するための『アリバイ作り』に近いですがね」



机上の地図に視線を落とす。安全なルートは赤い線で、目的地は丸印でなぞられていた。



(でも見た感じ、心躍るような魔導具のカケラも、ましてや古代魔導人形のパーツがあるようには到底思えませんわ……こうも空虚な空間を見た後では、説得力も情緒もありませんもの……)



期待値が高すぎたせいだろう。少しばかり気落ちしていた私に、カトレアがすぐさま声をかける。



「お嬢様、落胆するのはまだ早いですよ。王立調査団が残した記録によれば、この遺跡は『崖の地層に沿った横長二層構造』になっています」



カトレアが指し示した地図には、今私たちがいる広大な1階部分と、その頭上に広がる未知の2階部分が描かれていた。



「現在、私たちいるこの1階は、かつての『搬入路』や『生活圏』。そして、あの吹き抜けの最奥に『広大なダンスフロア』があるようです。女神像が建っているだけの広大なフロアだとも言われますが……」



「あら?どうしてそんなものがここに……?でも、最奥のダンスフロアだと、外観から察するに、そこって崖の中ではないの?」



地図で見ると明らかに建物と通路の地図の長さがあっていないのだ。私は疑問を口にすると、クロードがすかさず補足を入れる。



「ええ、元はこの遺跡は崖をくり抜いて造られたようですね。ですから洞窟に近い形状になっているのだと記載されております」



「そして今回のメイン調査を行うのはこのダンスフロア。お嬢様の『ボーラードリル』なら、こんな脆い崩落、紙同然に穿ち抜けますわ! あの逞しい本体、凄まじい回転力……ああっ、早くお嬢様の活躍する姿を拝みたいものです……っ!」



安定のカトレア節だ。一体どうしてこんな変人に成長してしまったのか。彼女と出会った頃は、まだそんな片鱗などなかったはずなのに。



「先が分かっているなら安全安心ですわね。……まあ、少しだけ、その……冒険的なロマンというものが……盛り上がりが些か足りないのでは……?」



私の心は技術者として「未知の機構」に挑む、心湧き踊るワクワク感が、この整備されすぎた現場には微塵もなかった。



「お嬢、ロマンより安全だ。勝手にあっちこっち飛び出すな。……レオン、お前もだ。お嬢の求める『ロマン』を探しに行って、本物の『遭難』になる可能性の方が大きい」



カイルは普段通り銃を点検しながら安全を至極真っ当に説き、レオンはいつも通りの何やら含みのある不穏な予感をもたらす笑みを浮かべる。



「未知の探索というより『大掃除』ですからね。気負う必要はありませんが……、お嬢様の出番は、嫌でもやってくるでしょう。リトニアの血が、ただの散歩で終わるはずがありませんから」



「レオン!!その不穏なフラグを建設しないでくださいまし!!

……こほんっ、それでは、ここからは私が現場を取り仕切りますわ!!何が命取りになるか分かりませんもの、油断は禁物!

さあ、皆様、行きますわよっ!!」



意気込みの声を高らかに、私たち『リトニア調査団』としての本格的な調査が始まる。



ーーーーーーー

ノアの観測記録(Log-014B)


【観測】 古代遺跡「搬入路」へ到着。先行調査団による過剰な整備(および破壊)を確認。


【分析】 遺跡の神秘性が「看板」と「予算不足の空き家感」により著しく毀損。


【結論】 散歩という名目の「最終点検」を開始。


……なお、カトレアのドリルに対する言動が、技術的評価を逸脱し「官能的」な領域に達していることを深刻なバグとして記録。観測を継続。


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