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不憫な悪役令嬢は、ドリルで常識を穿つ! 〜国家一級魔導具師が、古代遺跡を調査しますわ!〜  作者: 雪見もち子


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第14話:未知なる古代都市へ到着①

古代都市までの道程は、拍子抜けするほどに平穏だった。


移動中にさくっと食べられるサンドイッチ。レオンとそれを頬張りながら、窓の外を見遣った。


この辺境伯領は、定期的に魔物の「自浄(武力制圧)」が行われている。技術者一本で生きてきた非力な私でも、お茶を楽しみながら進めるほど安全なのだ。


「そういえば以前、ここの討伐に来た際は大した魔物もいませんでしたよ。街中の公園と変わらないくらい平穏でしたので、お嬢様のようなか若干方でも問題ないでしょう。少なくとも、私がいる限りは」


爽やかな笑み。だが、その言葉にカトレアが静かにティーカップを置く音が重なった。


「大体貴方の一振りで魔物や木々も吹き飛び、新たな道を作ったとか。お嬢様、この歩く災害の言う平穏や普通など、信じてはいけませんわ」


「さすがの私でもそれくらいの常識は分かっていますわ!! ……と言うより、この地は安全ではなかったの!?」


「ええ、勿論安全ですよ。私がいれば、安全かつ最短ルートで、目的地までお届けする事は可能ですので」


(それは貴方が規格外だからに決まっているでしょう!? そもそも、この男の規格《仕様》自体がバグですもの!! 神の設計ミスもいい加減にしてくださいまし!!)


自然までも破壊し続けるこの方向音痴な魔王は、今日も好調だった。


いつも通りの光景、穏やかな日常。

そんな賑やかなひと時を過ごしていれば、通信が入る。


「もうすぐ古代都市付近だ。各自、準備を怠るなよ」


操縦室にいるカイルの声が、スピーカーから響く。


――空気が引き締まる。


各自装備を整え終えた頃――予定通り、昼前には古代都市の入り口へ到着した。


目の前に現れたのは、崖に埋め込まれるように佇む、二階建ての四角い石造りの門。

陽光を浴びて神聖さを誇示していたそれは、失われた時代の「秘境」の入り口。


リトニア号は建物から離れた石畳の通路手前、森側に停止させた。


「まずは馬車が通れるルートがあるか、先行調査して参りますわ」


「お嬢様、どうか車内で大人しくしていて下さいね。……ノア、留守を任せます」


「私はいつだって大人しくしていてよ?」


クロードのやや失礼な物言いに思わずしかめ面を浮かべるも、内心では不安を抱えながら二人を見送った。


「……大丈夫かしら」


「彼らならば問題ないでしょう。……お嬢様、紅茶をお淹れしますか?」


「ええ、そうですわね。落ち着いて待ちましょう」


言いようのない胸騒ぎ。しかし言いつけ通りにノアと二人、車内で静かに過ごす。


それはもう、何事もなく平穏に。――そう、あまりにも、平穏すぎたのが問題だった。


数分後……その予感は的中する。


広大な森に囲われた神秘的な空間。木々の隙間から覗く、穏やかな木漏れ日。

自然由来の澄み渡る空気。そして……


――ドォォォォォォン!!


大地を削る轟音と、車体を揺るがす大きな振動。

揺れが収まると同時に慌てて窓の外を見ると、目の前には派手な火柱が上がっていた。


「って、これは異常ですわ! 一体何事ですの!? 戦闘開始の合図ですのっ!?」


そんな作戦は聞いていないと、私は慌ててリトニア号を飛び出した。

しかし私の気苦労とは裏腹に、笑みを浮かべるクロードが煙の中から現れた。


「お嬢様、朗報です。入り口の扉が少し狭かったので、道を作るべく車体が入る程度に『最適化ばくは』が完了しました」


汚れも解れもなく、何一つとして変わらぬ姿。爆弾など使っていませんよ、と言わんばかりの涼やかな顔。

しかし、空気に乗ってわずかに漂う火薬の匂いだけは誤魔化せない。


「貴方、最近少しばかり短慮すぎじゃなくて!? これでは隠密の『お』の字もありませんわっ!」


調査ならば隠密行動が鉄則ではなかっただろうか。

危機感が足りなすぎる。いくら安全地帯寄りとはいえ、限度というものはあるだろう。

私は彼の危機感のなさに呆れと同時に嘆きの声を上げる。


「それに、こんな派手な音をあげておいて、また魔物たちが現れたりでもしたらどうしますの!?」


「……お嬢様、報告です。予測通り、西の方から魔物の生体反応有り。……群が来ます」


案の定、その爆音は周辺の魔物たちへの『昼食ランチタイム』の合図となった。


地響きと共に魔物の群れが姿を現す。やがて、私達を中心にぐるりと囲いだした。


「あああ! もうっ! 言わんこっちゃないですわよ! どうしますの!?」


――絶体絶命の危機。


けれどやはりと言うべきか、護衛の彼らはそんな焦りも見せず、普段通りだと言うように配置についた。


「さて、非力で戦闘に不向きなお嬢様は前線からは遠のいて頂きましょうか。……ノア、お嬢様を頼みますよ」


レオンがノアの肩を叩くと、ノアは小さく頷き返し、私の身を守るよう隣へ控える。

レオンは私たちの前へ立つと大剣の柄に手をかけ、カイルは魔導ライフルのスコープを覗き込んだ。


「――さて」


無造作に振り抜いた大剣。レオンの魔力を乗せられた衝撃波は空気を切り、断末魔を上げる間もなく魔物を討伐していく。


「私はこちらをやりますから、貴方はそちらを。……どちらが多く狩れるか、夕食を賭けて競争といきましょうか」


「……チッ。レオン、俺の射線を塞ぐなよ。お嬢の安全確保が最優先だ……さっさと片付けるぞ」


カチリーー。


魔導ライフルの安全装置が外れる音。

同時に撃ち放たれた魔弾は、魔物の群れのうちの一体の急所を的確に貫いた。

――それが、本格的な駆除開始の合図となった。


次々と軌道上にいるすべての標的を最速で打ち倒す。銃口から立ち昇る白煙。

戦場に居ても二人は軽い調子のまま、普段通りの様子で、私はぽかりと口を開ける。


「……レオンも相当でしたけれど、カイルもなかなか凄いですわね」


そんな私を一瞥するノアが肩を軽く叩き、「今の内に退避しましょう」と告げた。

それにハッと意識を取り戻し、私たちはリトニア号の屋上デッキへ避難する。


「ねえ、あの二人やり過ぎではなくて? なんでこうなりますの!? 皆、戦いを楽しんでませんこと!?」


凶暴なオークの群れ、鋭い牙を剥き出しに唸る狼型の魔物たちに、情けない声を上げる私。

すると、ノアが改良済みの『とりもちくん・改』を震える私へ差し出す。


「落ち着いてくださいお嬢様。……感情ノイズを捨て、真実コレクトを見つめて。僕がトリガーのタイミングを指示します」


「今ここでやりますの!?」


「改良された弾丸の実戦を行い、検証をするには今が最適でしょう。……ですが、お嬢様の意思にお任せします」


「や、やりますわ。せっかく実戦で試せるんですもの。今なら安全に分析も出来るでしょうし……よし、今こそ汚名返上リベンジの時ですわ! ノア、行きますわよ……!」


覚悟を見せた私。恐怖よりも、改良されたこの魔導具『とりもちくん・改』のデータを集めたいという好奇心がやや上回ったのだ。

ここならば飛行する魔物も、カトレアの毒薬散布やノアの魔力障壁のお陰で、危険はない。


「……お嬢様。魔力の出力は40%。……そのまま、呼吸を合わせれば綺麗に『捕獲』できます」


ノアの魔力が可視化され、私の身体が操られる。そしていつものように、私は『生体固定台マウント』となる。


「……調整完了。――今です、お嬢様」


「いっけぇぇぇ! 改良版『粘着弾』! 敵は全て、ねっちょねちょにして差し上げますわあぁぁあ!!!」


ぱんっ、と可愛らしい音がして発射される白い粘着弾。

以前よりも安定した軌道に乗り、真っ直ぐと目標へ飛び出し、ついぞ魔物の動きを封じる。


「っ! 一発目で成功ですわ!」


「お嬢様、油断は命取りです。安全第一に行きましょう」


「ええ! もちろん分かっていますわよ!」


ノアの忠告に頷き返しながらも、実験が成功した事に浮かれだす。


「さあ、捕獲の時間ですわ!!」


この後も続けて捕獲を次々と成功させて行く。

精度が高まり更に粘着性の上がった執念の粘着弾、あるいは私たちの連携により、次々と足止めが成功する。

その隙を、レオンの『物理証明』とカイルの『緻密で最速』な攻撃、クロードとカトレアのサポートによる制圧により、魔物たちは抗う間もなく素早く狩られていく。


こうして戦闘は、危なげなく終えた。


だが、残されたのは焼け焦げた地面と抉れた地形。『安全地帯』という言葉とはかけ離れた、一部の地獄絵図だった。


「……街中でなくて、本当によかったですわ……」


流石に調子に乗りすぎたと、各々思ったのだろう。顔を見合わせれば、渋い顔をする護衛や、我関せずと言った顔を見せるバラバラの反応。

――締まりが悪い空気感に、私は両手を鳴らす。


「……消火活動はきちんと行いなさい。それが現場の基本ですわ……」


だが、私の声に覇気は乗らなかった。続いて出した解散の合図に、各々が動きだす。

特に消火に当たるのは侍従コンビ。バケツで近場の水を汲み、せっせと活動する姿を眺めた。


「以前よりも魔物が強くなっている気がしますが……。まあ、この程度で演算は狂いません」


レオンが何気なく呟いた言葉に、私はぎょっとして思わず振り返る。


「強いって、それって危険ではなくて? 貴方たちが有能なのは知っていますけれど……」


「ああ、ご心配なく、誤差の範囲ですよ。この戦力なら問題ありません。それに、クロードがせっかく『広げて』くれたんです。遺跡の中へ入りましょうか」


その言葉と目の前の惨事を見て、この過剰武力ならば大丈夫だろうと過信した。

レオンたち護衛がいるのならば、このくらいの戦闘など安全圏内なのだと、私はどこか楽観していたのだ。


――それに気づくのは、まだずっと後のこと。


私たちはこの奇妙な平穏の中、いつも通り変わらぬまま過ごす。

そして、リトニア号は古代遺跡の入り口へと進んでいった。



―――――――


ノアの観測記録:(Log-011A)


【事象】:古代都市到達直前、入口が随伴従僕クロードにより最適化ばくは。同時に周辺魔物の大規模誘引ヘイトギャザーを確認。


【判定】:戦闘は短時間で終了。戦力的問題なし。『とりもちくん・改』の出力40%における捕縛精度は向上。問題は、周辺環境の不自然な活性化、および発生要因にあります。


【報告】:入口は開きました。周辺環境は閉じました。お嬢様の精神も若干閉じ気味です。以上です。


【警告ログ】

「……周辺魔物の深度異常を検測。警戒度、12%上昇を観測しました。……まだ予測の範囲内――の、筈です」


【次回予告】

『第14話:遺跡の「現実」と「ロマン」の衝突②』

お嬢「ドリルで穿ってハンマーで叩き直しますわ!!」


【活動報告 / 後書き用】

定期更新:水・金 18時


【※調査団のパトロンになりませんか?】

「面白い」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、

ぜひブックマークや【星】での評価をお願いしますわ!


作者の魔力は、皆様の評価でチャージされます。

どうかエヴリンたちの物語を応援してください!


ご意見・ご感想も、ドリルを止めてお待ちしております。


※本作は作者の妄想・パッション・ロマンで構築されています。

多少のご都合主義は、技術屋の愛嬌としてご理解いただけますと幸いです。

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