第11話:戦力外通告。
街での1日目は、魔導ドックで私とカイルが『リトニア号』の修理を、クロードとカトレアが不足していた食材や資材の調達を、レオンとノアがお母様からのお使いを無事に済ませた。
2日目は武器の調整やら細かな用事を片付けた。
ノアによるお母様への定期報告に対し、今のところお叱りの言葉はなく、無事に着いて安心したという父と母からの言葉や、兄からはまるで古代文字かと言わんばかりの極小の文字を受け取った。
それとは別の、魔道鳩で運べる小さな紙いっぱいに、インクで真っ黒になるほど、ぎゅっと濃縮された手紙(?)を受け取り、ホッとしたのと同時に、少しだけ家が恋しくなった頃。
ーーそして3日目の今日。私はさらなるピンチに直面する。
準備万端で宿を出発し、いよいよ古代遺跡へと向かうのだと思うと、緊張と同時にわくわくと湧き上がる期待に心が躍る。
(やっと、念願の古代遺跡の調査が出来ますわ! 今までは、何だかんだと両親……特に過保護なお兄様からは、調査を引き留められることが多くて、なかなか叶わなかったのだけれど……。
それが今、やっと解禁されましたわよ!一体どんな未知なる古代技術を、私に見せてくれるのかしらね?
……うふふ、楽しみですわ!)
期待に胸を膨らませ、ゆらゆら揺れる私の縦ロール。そわそわと落ち着かない私は、カトレアが淹れてくれた紅茶を飲みつつ、あとは客室でのんびり優雅な移動を……という時だった。宿を出てほんの数分、それこそ街からは目と鼻の先にある、開けた草原で不意にリトニア号が停車した。
「……あら? まだ出たばかりですのに……何か予定外のトラブルでもありまして?」
「いいえ、お嬢様。本日の目的地はこちらになります」
「本日の目的地……? って、あなた、ここはまだ街のすぐそこですわよ。それこそ、ちょっと先には管理小屋が見えるくらいの、一歩先じゃありませんの」
目的地に関する情報など聞いておらず、報連相を抜かすなんて一体何が起きているのか。外へエスコートするクロードに、私は困惑の視線を向ける。だが、どうやら何かしたいことでもあるらしい。私は彼の思惑が分からないながらも、後に続いた。
そうして全員が魔導車から出て、木々に囲われた広い草原の中央までやって来た。すると、クロードはいつものように、眼鏡のブリッジを中指で押し上げ、レンズを白く発光させた。
その手にはいつの間にか「リスク管理チェックリスト」なるものが握られていた。そして、スッと細められた冷徹な瞳が文字を追いながら、彼は迷いなく口を開く。
「古代遺跡という『未知のバグ』に挑む前に、一つ確認しておくべき重大な事項がございます。それは、お嬢様の戦闘能力です。あちらへ行く前に、今ここで計測を行いましょう。基準値として記録します」
「 ……は?なんですの、前提条件を無視した提案は。私はただの現場監督……つまり指揮者であり、技術者ですわ!直接の戦闘はプロであるレオンやカイル、対人特化のカトレアや貴方、それに鉄壁防衛のノアがいれば十分ではなくて?」
ーー私の脳内で、この街に着く前のあの忌まわしい記憶がふと蘇る。
爆走するリトニア号、物理法則との聖戦の敗戦、それを隣で介抱するヒロイン力の高い従僕の献身。遠くから聞こえる爆発音や断末魔、無音ながらも積み上がる魔物の残骸。そして……絶対的な『物理証明』ですべてを無に帰した男の凶悪な背ーー悪夢の数々。
(……なんだか一部、思い出してはいけない記憶が混じったような……いえ、気にしたら負けよ。そんなことよりも、一番大事なのは、今!そう、現状の把握ですわ!)
「そもそも、貴方たちの破壊力が過剰なだけですわ!特にレオン!!貴方……魔物を『掃除』した時に、岩山どころか地形まで破壊するなんて規格外な力、あそこで発揮する必要はありまして?
あれが常時なのは知っていますけれど。貴方たちと比べたら、私の戦闘力なんて誤差……コンマ以下の微々たる数値!
つまりーー私の戦闘力なんて不要ですわ!」
自信満々にドンと胸を張り、情けない本心をさも正論のように高らかに告げる私。だが、そこへ音もなくクロードがさらに一歩詰め寄ってきた。
ーー無言の圧。
向けられる温度のない瞳、見つめ合う私。その気まずさに反射的に背を仰け反らせつつ、私は萎縮する。やがて、無言の圧に耐えきれなくなった私は、おずおずとクロードを見上げる。
「無責任に放置をする、という事ではなく……適材適所である、という事を言いたい訳で……」
私の意図は分かっているだろう。それに対して特に反論はないと彼は一つ小さな肯定を見せた。だが。
「お嬢様を傷一つなくお返しするのが我らリトニア調査団、護衛部門の仕様です。しかし、万が一、億が一でも敵の演算がお嬢様にまで及んだ際、お嬢様の『危機回避能力』がどの程度なのかを知らねば、私の護衛計画にバグが生じます」
声のトーンを落としたクロードの真剣な顔。それに感化されたのか、周囲には「リスク対策」という名の重圧が広がる。
(理詰め……圧倒的な理詰めですわ……! くっ、これほどまでの正論を言われてしまえば、私に反論の余地はなくてよ……)
理屈と感情に揺れる私、そんな内心を表すかのように渋い顔を見せるも、クロードは尚も引く姿勢を見せない。当たり前だ、彼の言うことは何も間違っていない。私は降参だと言うように肩を落とした。ついでに縦ロールもへにょりと力を無くす。
「……そ、それなら、まあ……やりますけども……」
(これでは、どちらが指揮系統を持っているのか、分かりませんわね……)
クロードは私を一瞥するに留め、了承の言葉に納得したのか身を引き元の位置に戻る。彼と入れ替わるように私達を囲む面々の中から、カトレアが優雅な足取りで私の隣に控えた。そして慰めるかのように、私の手をそっと握る。
だがその瞳は、確実に「餌」をぶら下げていた。獲物を逃さないという不穏な熱を宿していたが、私はその気配に気づく事はなかった。
「……あら、お嬢様。ちょうど良い機会ではありませんか。先日開発した例の『バズーカ砲』。材料費を極限まで削り、お嬢様の涙(と予算への悲鳴)が詰め込まれたあの試作機………。あれを『お蔵入り』のままにするのは、開発者として忍びないでしょう?
……それにまだ、実戦テストが済んでいませんわ」
その言葉にぴくり、と肩を小さく跳ねさせて反応する私。
「テスト」という言葉を聞いた瞬間、私の瞳には諦めの色から燃えるような情熱の色が宿る。先ほどまでの拒絶が嘘のように、目の前がパッと晴れるのを感じた。落ち込んでいたのがまるで嘘のように、霧散していく胸のわだかまり。緩む口元と疼く好奇心。
顔を上げてカトレアをじっと見つめると、彼女はいつの間にか、先ほどの不穏さなど欠片もない、慈愛に満ちた女神のような微笑みと、甘やかな瞳で見つめ返してきた。
「 ……そう、それよ!ああ、それがあったわ!さすが、私の専属侍女!!この旅でバタバタと忙しくてつい忘れてしまっていたけれど……
開発者の義務として、私自ら計測して差し上げますわ!!」
「よろしい。……ついでに、その魔導具『ボーラー』様、でしたか。そちらの検証も併せて致しましょう。その魔導具のドリル起動テストを怠り、いざという時にスタックするなどという無様は許されませんからね」
はしゃぐ私と、それを褒め称えるカトレア。しかし、その奥では、まるで新しい玩具を目にした子供のような顔で私を見るレオンの不穏な姿があったのも、私はまだ知らなかったのだ。
「お嬢様がバズーカを……ですか。……フッ、それはこの大地……いえ、全大陸を再構築する、新たな伝説を刻む、輝かしい幕開けの第一歩になりそうですね」
物騒なことを告げるレオン。その隣ではカイルが「やれやれ」と肩を竦ませて鼻を小さく鳴らす。そして、射撃ポイントを見繕うノアは、静かにモノクルを調整して弾道演算の準備を整えていた。
「ふふふ……、見てなさいっ。リトニア家の最新技術を改良した、私の努力と汗と血の滲んだ愛憎の結晶で、このあたりの魔物を、ねっちょねちょのべっとべとにコーティングして差し上げますわー!!」
各々が配置につき、魔導車の格納庫から重厚なバズーカを、ノアがクロードと共に引きずり出すのを背景に、私は外見通りの悪役令嬢らしい高笑いの三段活用を披露していた。
(これさえあれば、私の非力な戦闘力も、僅かとは言えど、確実に上方修正されるはずですわ!
これでやっと、国家一級魔導具らしい、私の華々しい活躍が見せられますわ!!
さあ、皆々様の脳内回路をこの魔導具で、見事、焼き尽くして差し上げますわよっ!!)
情熱に燃える私の心と同時期、リボンに飾られたカメオが、薄らと怪しく点滅していたことには、私は気づかなかった。
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ノアの観測記録(Log-011)
【戦力評価:外部基準換算】
レオン:S
――前衛。高出力戦闘。耐久・攻撃ともに規格外。
カイル:A(条件次第でS)
――後衛狙撃。高精度射撃。
ノア:S
――防御・解析担当。全体支援。
クロード:A
――撹乱・強化支援。
カトレア:B
――状態操作・補助。
※備考:実測値との乖離を確認
【補足】お嬢様の戦闘能力値の計測……開始します。
……なお、カメオの異常点滅を確認。これを「致命的なバグ」の予兆と定義。監視を継続。
【次回予告】
『第12話:とりもちバズーカの試射』
お嬢「ドリルで穿ってハンマーで叩き直しますわ!!」
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