第8話:最速の絶望①
やっぱり長くなったので、前編後編で投稿します。
ちょっとお待たせします。
辺境伯の領地内。
シギルの古代遺跡へ向かう道中は、魔物の気配が漂う危険な地帯。広大な森の中を魔導車が駆けていた。
「この馬車……いえ、『リトニア号』でしたね。お嬢様が拘った内装は素敵ですし、乗り心地も良くて快適ですわ」
「ええ、吟味を重ねたもの。特にこのスプリングの効いたソファが最高でしょう?」
拘りぬいた内装をカトレアに褒められ、私は気分よく頷く。ソファは特に旅の疲れが出ないようにと配慮したもので、座り心地に私はとても満足していた。
「……残量値、想定内。あと四時間は持続可能です」
紅茶を飲みつつカトレアと談笑していれば、後方の扉が開いた。制御室から出てきたノアからの、淡々とした報告が耳に入る。
「お疲れ様、ノア。もう少し魔力を削減出来たら良かったのだけれど……」
「いえ、問題ありません」
この『リトニア号』の燃料となっているのは、魔石に込められた魔力。ひとえにノアの膨大な魔力供給のおかげで、このリトニア号は稼働出来ていた。
(大きな不具合はありませんけれど、まだ改良不足ですわね……)
改良とは別で、標準装備としては更に拘りがある。物理限界まで詰め込んだ『高密度収容機能』、これだけは譲れなかった。
(私の身体的な安全性と引き換えに、精神までもが高密度に収納されている気分ですわ……)
気持ちを切り替えるように私は首を振り、左隣で優雅に紅茶を注いでいる男に目を向けた。
「……おや、どうかしましたか?私の顔の方が、外の泥臭い森よりは鑑賞に堪えますか?」
「貴方の顔を鑑賞しても、私の技術力が負けたことを実感するだけですわ!」
冗談混じりに微笑むのは、『仕分け人』こと、クロード。死角のない完璧な収納技術の持ち主。彼の技術の高さには感心を覚える。
(クロードお陰で車内はだいぶ空間が保てていて快適ですけど……。一部、不安がありますわね……)
――チラリ。
私は向かい側で座っているレオンへと顔を向ける。暇さえあれば腕慣らしにと、領内の森の奥に入り休暇すらも物騒な暇つぶしを行うと聞いている。大人しくしているか、それだけが不安だった。
「……レオン。退屈だからと言って、急に外へ飛び出したりしないでしょうね」
「ご心配なく。この私が、お嬢様の安息の時間を乱すはずがないでしょう?」
「全く信用がないから、わざわざ聞いていましてよ!」
先日はカイルの運転する魔導二輪で移動する際には、急に降りて飛行型の魔物に喧嘩を売りに行ったらしい。私が凡人だからなのか、それともレオンが戦闘狂なのか。
「 ……それにしてもこのソファ、一体これにはどんな仕掛けが? 危機が迫ると座席が飛んでいくとか、そんな非凡なものじゃないですよね」
「そんな改良、出来ませんわよ! 開発費に一体いくらかかると思って!?それに、お母様から許可が降りていたら、他の開発費に予算を注ぎ込みたいところですわ!!」
(出発の直前にカトレアの「痺れ香」を振りかけられていた気がするのだけれど、この屈強さ……一体どうなっていますの!?)
妙に会話の噛み合わない私たち。レオンは含み笑いをしているが、大人しくしてくれているなら、問題はない。
レオンとのやり取りにやや疲れを感じ私が溜息を零していると、ノアはレオンの隣に腰をかけ密かに手帳へとメモをしていた。
「……ノ、ノア。つかぬ事を聞くのだけれど」
「はい、何でしょうか、お嬢様」
「そちらの手帳。一体何を記載しているのか聞いてもよろしくて……?」
「……ご心配なく。ただの報告書ですので」
(だから、その報告書の内容を教えてくださる!? もしや予算報告書?ソファなら買い置きだから魔導具ではないですわよ!とんだ誤解ですわ!!)
この魔導車自体に相当な予算をかけているし、私用の開発予算だって毎度カツカツだった。予算管理は年々厳しくなっている。
(それに好き勝手していたら、来月の魔導具開発費は、間違いなく消滅してしまいますわ……!)
せめて調査をしている間は清く正しく堅実にいこう。改めて心を引き締めた。
――だがしかし、やはり平和な時間は長くは続かなかった。
「……前方、キラーウルフの群れを確認。……遮断、回避。これより手動介入に入る」
突如、壁掛形放送設備からカイルの声が響いた。その瞬間内、車内の空気が一変し、逃げ場のない緊張感が走る。
それと共に、全員の脳裏に「終わりの始まり」を告げる嫌な予感が走った。
――私の本能が「最大級の警報」を鳴らしていた。
(な、何なのかしら、この嫌な予感……というよりも、身の危険しか感じない気配は……っ!)
――ガタン!
「ひっ、な、何ですの!?」
車輪から伝う強い振動音に、ビクリと肩が跳ね過敏にも反応する。
「お嬢様、伏せて下さいませ。カイルの『最速』が……始まります」
「『最速』……?『最速』って何ですの!?」
「カイルは『最速を射抜く』と形容される、操縦技術を持っているのです」
「つまり……?」
「……動力の過剰出力で、文字通り駆け抜けます」
各々から聞く武勇伝。反射でぞわりと背筋に悪寒が這う。クロードの助言に護衛たちは各々警戒し、私は混乱しつつも身を伏せた。
「総員、舌を噛まないよう身を固定しろ。……『超低空魔導噴射』点火。リトニア号、加速する……!」
――ブォン!
車体に見合わぬ外装のマフラーから、ボウッと灰色の煙が吹き溢れる。
「カイル!!ちょっと、待ち……っ!」
――キキィーッ!! ブォオア!!!
ブレーキを踏み、エンジンを噴かす異常な音。静けさの残る広大な森に、けたたましく唸りを上げる。
「ひゃあっ!?な、なな……!!」
ブレーキ音とタイヤの擦れる音。直後、物理法則を無視した急旋回を見せた。タイヤの片脚が浮き、左に大きく傾いていた。
「浮いて……! 車体が、浮いてますわぁあ!!」
――ガタン!!!
再び車輪が地に着く音。その直後――飴玉二十キロが雪崩となって襲いかかる。
レオンがすかさず袋ごと抱え込む。
――ゴトッ!!!
続いてティーカップが宙を舞い、クロードが気合いと根性で即座にキャッチする。
――しかし、時差でティースプーンだけ私の額に当たった。
「あだっ!!」
――ガガガガガッ!!
「早く、早く止まって下さいましぃぃい!!」
常識人が常識的な運転をする訳ではなかったのだと、この日の私は学ぶ事となった。
―――――――
ノアの観測記録:(Log-008A)
【観測】: 『リトニア号』、カイルの操縦により物理法則の破壊フェーズへ移行。
【警告】: 客室内の高密度収容により、お嬢様の精神的余裕(空き容量)がゼロを突破。
【判定】: お嬢様の絶叫出力、計測不能。
……これより、全生命維持を「根性」に委任します。
【活動報告 / 後書き用】
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(※この物語は作者の妄想・パッション・ロマンにて世界観や魔導具が構築されております。多少のご都合主義は、技術屋の愛嬌としてご理解いただけますと幸いです!)




