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不憫な悪役令嬢は、ドリルで常識を穿つ!   作者: 雪見もち子


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第8話:最速の絶望①

やっぱり長くなったので、前編後編で投稿します。

ちょっとお待たせします。



ガタゴトという情緒ある揺れなど、ここには存在しない。



鬱蒼とした木々と魔物の気配が漂う森の中。そんな未開の地を、銀色の装甲に、咆哮するマフラー。もはや走る大型要塞、『リトニア号』が蹂躙していく。



「それにしても乗り心地が良いですわ。お嬢様の情熱が詰まったこの内装、とても過ごしやすくて」

「……残量値、想定内。あと四時間は持続可能です」



カトレアの惚れ惚れとした吐息と、ノアの淡々とした報告。

馬もいないのにこの鉄塊が爆走できるのは、ひとえにノアの膨大な魔力供給ロジスティクスのおかげ。改めて感謝しなくてはね。



しかし、客室には一分の隙間もない、物理限界まで機能を詰め込んだ【高密度収容パッキング】仕様。まるで精巧なパズルのようだ。お母様は「安全な旅に最適よ」と微笑んで送り出してくれたけれど。



(……お母様、これ、私の身体的な安全性と引き換えに、私の精神までもが高密度に収納パッキングされている気分ですわ)



自分以外の誰かの手で、一分の隙もなく「正解」を固定されてしまった空間。私が普段使っている工房なら、適当に放り出したレンチの一本や二本が、あちこちに散らばっているので、綺麗すぎる配置は妙な圧迫感を感じてしまう。



(私からすると、自分が使いやすい位置に、ちゃんと保管しているつもりなのだけれども。側から見ればただ散らかった状態なのよね……)



気持ちを切り替えるように私は小さく溜息をこぼし、左隣で優雅に紅茶を注いでいる男に目を向けた。



「お嬢様、あまりそんな目で見つめないでください。……私の顔の方が、外の泥臭い森よりは鑑賞に堪えますか?」



そう言って微笑むのは、この積載パズルを完璧に管理する「マスター・パッカー」こと、執事のクロードだ。彼があらゆる収納スペースへ死角なく完璧な荷詰パッキングめ技術のおかげだ。



(もっとも、彼が「いつ外の魔物を微笑み一つで呪い殺しに行くか」という恐怖の方が強いのですけど……)



それ以外にも私には心配ごとがまだまだある。



「レオン、大人しくしていますか? お嬢様に無駄な気苦労をかけさせてはいなくて?」



カトレアが、向かい側で背筋を伸ばして座っているレオンへと問いかけた。



「ご心配なく。この私が、お嬢様の安息の時間を乱すはずがないでしょう? ……それにしてもこのソファ、一体これにはどんな仕掛けが?危機が迫ると座席が飛んでいくとか…そんな非凡なものじゃないですよね」



「そんなわけないでしょう!開発費に一体いくらかかると思って!?そんなのお母様から許可が降りていたら、他の開発費に予算を注ぎ込みたいところですわ!!」



狂気じみた発言を朗らかに返答するレオンだが、出発の直前、カトレアの手により「痺れ香」を全身に振りかけられていた気が、非常に屈強タフだという事がよく分かる。今この男が今は大人しくしているのなら、大きく平穏は崩れることがないだろう。先日の遠征でこの辺境伯領地でやらかしてきたのだ。



(静かにそのまま大人しく座っている状態なら平穏は続くでしょう……多分)



妙に会話の噛み合わない私たちを他所に、ノアはただ一人、そんな光景を目にしつつ、レオンの隣で密かに手帳へと何やらメモをしていた。



「ノ、ノア……そちらの手帳には一体何を記載しているのかしら……?」



「ご心配なく。……ただの報告書ですので」



(だから、その報告書の内容が知りたいのよ!ソファなら買い置きだから魔道具ではないですわよ!?どこにも飛ばないですし、そもそも誤解ですわ!!期待を裏切ってしまってごめんあそばせ!!)



この魔導車自体に相当な予算かけているし、私用の開発予算だって毎度カツカツだった。流石にそこは冒険出来るほどの余裕はない。



( 予算管理は年々厳しくなっているのよね。本能の赴くまま、好き勝手に行動していたら、私の来月の魔導具開発費は、間違いなく消滅しまうわ……!)



せめて調査をしている間は清く正しく堅実にいこう、と改めて心を引き締めた。





ーーだがしかし、やはり平和な時間はそう長くは続かなかった。

リトニア家の最新技術をもってしても、不規則な魔物の襲撃や複雑な地形への完全自動対応はまだ不完全な部分もあり、開発途上の段階。



「……前方、キラーウルフの群れを確認。……遮断、回避。これより手動介入マニュアルに入る」



突如、壁掛形放送設備スピーカーから、カイルの声が響く。そして、重厚なステアリングハンドルを握った瞬間、車内の空気が一変し、逃げ場のない凍てつくような緊張感が走る。



――それと同時に、全員の脳裏に「終わりの始まり」を告げる嫌な予感が走った。



以前カイルの魔導二輪車アース・ストライカーに同乗したことのある面々は、彼の「最速を射抜く」と形容される殺人的な操縦技術を身をもって知っている。

私は彼らから漏れ聞こえる武勇伝という被害届を耳にしていただけだが、今、操縦席でハンドルを握るカイルの無機質であろう背中を想像しただけで、私の本能が「最大級の警報」を鳴らしていた。



(な、何なのかしら、この嫌な予感……というよりも、身の危険しか感じない気配……っ)



私は反射的にソファの背を指が白くなるほど掴み、クロードは眼鏡の位置を微調整して重心を低く構え、カトレアは「……っ」と短く息を呑んでソファに深く身を沈める。

対照的に、ノアは主電源としての魔力供給を安定させるべく、指先から壁へと魔力を糸上に注いだまま、すっと無機質な瞳を細めるのみ。レオンだけが「おや、演算のフェーズが変わりましたか?」と言わんばかりの余裕の表情を見せていた。



「総員、舌を噛まないよう固定しろ。……『超低空魔導噴射ブースト』点火。リトニア号、加速する……!」



ーーブォン!

車体に見合わぬ背後に積まれたマフラーからは灰色の煙がよりボウッと立ち上がる。



「カイル? ちょっと待ち……っ!」



ーーキキィーッ!!ブォオア!!!



エンジンの咆哮が森の中に異常事態を知らしめるかのように辺りに警告音を鳴らした。



「 いいぃやあああああぁぁーー!!!」



ーーギュルルルルッ!!



返事の代わりに、リトニア号が物理法則を無視した急旋回を見せた。



左に大きく傾くと、今度は衣装を詰めたトランクが再び襲いかかるも、私に直撃する前にレオンの逞しい腕に遮られる。



それと同時に空に舞う、ティーカップ。苦悶の顔を浮かべるクロードが、私にあたる前に気合いと根性ですかさずキャッチ。



しかし、時差でティースプーンだけ私の額に当たる。



「あだっ!」



今度は反対側からノアの『飴玉20キロ』が雪崩となって襲いかかる。甘い匂いと鉄錆の匂いが、遠心力でミックスされる。



「ひ、ひぇえっ!?」



「!お嬢様、失礼……っ!!」



レオンが袋をガッと掴み、侍従兄妹が身を盾にし私を抱える。

縛り口の甘かった袋から、3つの飴が飛び出し、私の頭にぽてぽて落ちる。



「あいたたっ!」



軽微な被害、こんなものは誤差である。



阿鼻叫喚にならないのは、口を開けぬほどの揺れと衝撃による運転技術ゆえ。

しがみつくだけで精一杯の私。車内の様子を見る余裕さえなくなってくる頃、無情な報告けいこくは次なる試練を与える。



スピーカーから「……左後方、魔物の脳漿を確認。清掃費用は経費に計上しろ。次、さらに沈むぞ」という冷徹なアナウンスが響く。



頼れる護衛達の献身により、外傷的には地味な被害のみ。しかし、か弱い私の中身には、大きな被害を出していた。



(聞いてた以上のデスドラテクニック……っ!う、うう……目が……胃が……っ!)



急旋回による胃へのクリティカルヒット。重力と加速の二重奏に、私の三半規管は車内よりもぐちゃぐちゃに乱されている。




ーーガガガガガッ!!



装甲が巨木を削る不快な音と共に、客室が情報の暴力的なまでの角度で傾く。カイルのドラテクはもはや「格闘」だ。

群れをなして襲い掛かる魔物を紙一重でかわし、巨木の間を重厚装甲が摩擦火花を散らしながら、慣性すらねじ伏せる殺人的なドリフトで爆走する。




もはや視界は緑と銀色の混濁カクテル。私はこれから売られる子牛ではなく、ミキサーにかけられる果実の気分だった。




ーーーーーーー

ノアの観測記録:(Log-008-A)

【観測】 『リトニア号』、カイルの操縦により物理法則のデバッグ(破壊)フェーズへ移行。

【警告】 客室内の高密度収容パッキングにより、お嬢様の精神的余裕(空き容量)がゼロを突破。

【判定】 お嬢様の絶叫出力、計測不能。


……これより、全生命維持を「根性きあい」に委任します。



【活動報告 / 後書き用】

定期更新日は水・金の18時です。


【※調査団のパトロンになりませんか?】

「面白い」「続きが気になる!」と思ってくださった皆様、ぜひブックマークや【星】での評価をお願いしますわ!作者のモチベーションという名の魔力は、皆様の評価でチャージされます。どうかエヴリンたちの物語を応援してください!

ご意見・ご感想も、ドリルを止めてお待ちしております。


(※この物語は作者の妄想・パッション・ロマンにて世界観や魔導具が構築されております。多少のご都合主義は、技術屋の愛嬌としてご理解いただけますと幸いです!)

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