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不憫な悪役令嬢は、ドリルで常識を穿つ!   作者: 雪見もち子


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22/30

間幕③:リトニア号換装ログ、あるいは常識人の敗北(家令リチャード視点)

視点:家令リチャード

この物語唯一の常識人。





出発前夜。

屋敷の巨大な魔導ドックには、家令リチャードの重い溜息だけが白く消えていった。彼の前には、完成したばかりの魔導車まどうしゃ、制式名称『リトニア号-Markマーク.0(ゼロ)-』、通称『リトニア号』が、月光を浴びて鈍い銀色の光沢を放っている。



「……これを『馬車』と呼ぶには、私の人生経験が少なすぎるようですな」



リチャードは銀盆の上の書類――山をなす領収書の束を見つめ、静かにこめかみを押さえた。

先代様と御当主様が外装を主とした開発の8割を担当し、ヴィンセント様が中心となり魔導回路を組み、そしてエヴリンお嬢様が内装を整えた、リトニア家の男たちのロマンと熱い涙、さらに膨大な予算が投じられた『幌馬車』とは見せかけだけ。


「魔導車はまだ領内と辺境地に数台しかない貴重品、王家へも献上したものだったが……この仕様は明らかにその域を超えた「怪物モンスター」ですね……」


リトニア家とは代々ちょっと毛色の変わった人柄だとは知っていた事だが、それにしてもやはり己の持つ常識でも、考えうる常識外でも理解に苦しむ場面が多い。



例えば、窓を見れば「多層遮蔽装甲マジックミラー」と呼ばれる、外からは中を反射しない特殊なガラスなのだとか。お嬢様は「個人保護プライバシーのため」と仰るが、設計図を見れば「対魔導術式用の物理障壁」に他ならない。つまり、開発費をふんだんに使用した過剰防衛の極みという事である。

魔導具師としての「お転婆」さは如何様にもならなかったーー「淑女教育の敗北」である。



そして、最も理解に苦しむのが、エヴリンお嬢様が心血を注いで調整された「二畳の精密緩衝コンテナ」。実際は国宝級の劇物を振動から守り抜く、超高性能サスペンション付きの鋼鉄金庫だ。



「……エヴリンお嬢様。これにかかった魔導回路の費用、私はどのような顔で王宮へ報告すればよいのですか? 『お嬢様の大切なお土産まどうぐ入れ』と、正直に書けとでも?」



王家から借り受けた特大の高純度魔石4つをリトニア号の動力は、従僕のノアが毎日1時間以上も魔力を充填し続けてようやく目を覚ます、陸を走る『暴走馬車じゃじゃうま』仕様。カイルが「相棒」として操縦桿を握り、クロードがサブを務めるその爆走速度は、常人の感覚からすれば「自殺行為」以外の何物でもなかった。

ちくちくと痛む胃を抑え、リチャードはその苦労をそっと溜息と共に溢す。



そこへ、奥様より選抜された護衛たちが次々と自身の「私物おもちゃ」を運び込んでくる。



「リチャード殿。この『拡声器デスヴォイス・アンプ・改』を、屋根に固定してもよろしいでしょうか? 辺境の賊に、お嬢様の『福音』を大音量で届けるために、是非とも搭載したく」



レオンが、拡声器というよりは音響兵器にしか見えない白い筐体を抱えて現れた。その背には、普段彼が愛用している大剣『無骨』の半分にも満たない大きさだというのに、何故だか異様な威圧感を放つ得物が、レオンの逞しい肩へ装備されている。



「却下です。それは音響兵器であって、調査備品ではありません。エヴリンお嬢様の『福音』は、貴方のその無駄に良い声だけで十分でしょう」



「おや、私の声を褒めて頂けるとは。リチャード殿にそう褒められるのは悪い気がしませんね。それならば、尚更搭載の許可を……」



「なりません。そちらの『拡声器』は、お嬢様の工房横に設置されている倉庫へと、迅速にお戻しを」



レオンはリチャードの言葉に納得はいかないものの、「今回は収容出来るスペースもまだ狭いとのことです」と追加して伝えると、渋々とと言った体で倉庫へ引き返す。その背に存在する『無骨』は、リトニア領の熟練職人が打ち出し、若様とお嬢様のお二方が心血を注ぎ「調整」を施した、最新鋭の魔導武器。

多彩なギミックを秘めているようだが、未だ改良中のその「牙」は、持ち主であるレオンとの馴染みも完全ではなく、時折不穏な魔力の火花を散らしている。



「……それとレオン殿、その得体の知れない『牙』は、くれぐれも加減を。リトニア号の修理費の領収書など、私は二度と見たくありませんので」



「はは、善処します。……まあ、こいつがヘソを曲げた時のために、いつもの大剣も予備として積み込んでありますから、ご安心を」



未知なる遺跡への「保険」という名目で、『拡声器』ではなければ良いのだろうと、さらなる重量物を積み込もうとするレオン。リチャードは、もはや荷台の耐荷重を計算する気力さえ失い、ただ静かにこめかみを押さえた。



「……食材用の魔道保冷庫。あと、俺のライフルのコンテナだが、ここに設置していいか?」



カイルが淡々と、巨大な保冷庫と、自身の身長ほどもあるスナイパーライフル用のコンテナを持ち込んできた。



「保冷庫は許可しましょう。エヴリンお嬢様の栄養管理のためですから。……ライフルについては『身の安全のため』の必要経費として、特例で認めます。ただし、装甲に傷をつけぬよう、専用の固定結合部品マウントを使用してください」



「……予備のレンチ、100本。……あと、ぶどう味の飴玉、20キロ。……積み込みます」



ノアが、自身の体重よりも重そうな飴玉の袋と、鉄錆の匂いがする工具の山を引きずってきた。



「……ノア。飴玉は、エヴリンお嬢様の魔力安定剤として計上しましょう。ですが、レンチ100本は……。まあ、この車が爆走中に空中分解した場合の修理用として、許可せざるを得ませんな」



さらにドックの奥では、カイルがもう一台の怪物を最終調整していた。魔導二輪車バイク『アース・ストライカー』。 先代様、御当主様、ヴィンセント様が開発し、エヴリンお嬢様が調律を行った、リトニア家のロマンの結晶。



エヴリンお嬢様は「移動の際やレオンの運搬に便利ですわ!」と喜ばれているが、周囲の評価は「森の中をあの速度で走るのは自殺行為」の一点に尽きる。本来は「隠密ステルス」用のはずが、爆走すれば魔導エンジンが物理的な咆哮を上げ、魔物を引き寄せるデメリット仕様。未だに静音機能は調整中の「集敵チャイム」である。



「……リチャード。このサスペンション、いくらか硬くしていいか? 悪路走破性を極限まで高めたい」



普段から無愛想なカイルの口元が僅かに緩んでいた。バイクのフォークを撫でながら、リチャードに尋ねる。



「……お好きになさい。貴方がその怪物で、エヴリンお嬢様を置き去りにして消え去らないのであれば。――ちなみに、その魔導二輪車については、今回はお預けになりますので、ご承知を」



「……そう、なのか。……承知した」



カイルは心なしか小さく項垂れた。愛車を奪われた大型犬のようなその哀愁は不憫ですらあった。対するリチャードは怒るでもなく、ただ深々と、魂の深淵から漏れ出るような溜息を溢した。



(クロード様やカトレア様の教育だけでも、私の胃壁は既に限界値に達しているというのに……。これほどまでに『個性の質量』が過剰な方々を、エヴリンお嬢様の御傍に揃えられるとは。

御当主様の采配とはいえ、もはや私の常識という名の秤では、計測不能な事態ですな)



リチャードはしくしくと痛む胃に手をあて、穏やかな瞳で天を仰いだ。何事もなく、平和に調査が出来るといいが……。




その祈りは、夜風に乗って静かに消えていった。



【活動報告 / 後書き用】

ストックがある限り、水・金の18時に投稿を行う予定です。

閑話は朝投稿、本編は夜投稿です。



【※調査団のパトロンになりませんか?】

「面白い」「続きが気になる!」と思ってくださった皆様、ぜひブックマークや【星】での評価をお願いしますわ!作者のモチベーションという名の魔力は、皆様の評価でチャージされます。どうかエヴリンたちの物語を応援してください!

ご意見・ご感想も、ドリルを止めてお待ちしております。


(※この物語は作者の妄想・パッション・ロマンにて世界観や魔導具が構築されております。多少のご都合主義は、技術屋の愛嬌としてご理解いただけますと幸いです!)

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