第7話:完璧な悪役令嬢(ドリル)爆誕①
……というわけで、ここからタイトル回収ですわ。
肝心のドリルの仕様については、後ほど補足いたしますわね。
「私、決断を早まったのかもしれないですわ……。ごめんなさい、お母様。やっぱり、この旅やめていいですか……?」
旅立ちの朝。自室の大きな鏡の前で、私はズシャリ、と不様に崩れ落ち膝をつく。
重力と共に力なく揺れるストレートな左側頭部のツインテール。輝くようなシャンパンゴールドも健在。
けれど、右側頭部だけが物理法則を完全に無視し、華麗にして凶悪な螺旋を描き続けていた。
頭頂部のリボンの結び目から、私の肘のあたりまでを鋭く貫くかのような『金髪の螺旋』、
つまり縦ロールが、私の右隣ではドーンと異彩を放っていたのである。
元凶は家宝の『聖なる螺旋』元を辿れば、採掘者だったご先祖様が「岩盤を粉砕できる最強のドリル」を求めたのが悲劇の始まり。
そこから歴代の技術者たちが貫通威力と採掘速度を追求し、魔改造を重ね続けてきたリトニア家の「狂気の遺産」が完成された。
それを昨晩、お母様が自衛用のお守りとして渡してくれたのだ。
「これはただの装飾品ではなくてね、本来は掘削用のドリル、家宝の『魔導具』なのよ」
「ドリルがお守り!?えっ、見た目はただの装飾品ですわよ!?っていうか、何故、掘削用ドリルなんですの!?」
見た目は一般的なカメオより一回り大きいくらいのサイズ感なのに、まさかのドリルに形状変化する事に驚きを隠せない。
ただの装飾品をお守りとして渡すより、魔導具というのは実に理に適っている。
だが、世間一般的な母からの贈り物ではないことは確かだ。
お母様がいうには、古代遺跡という調査にうってつけな道具だろうとのことで、確かに遺跡の調査をする際にもしかしたらドリルが必要な時が来るかもしれない。
護衛はいるが、咄嗟の時にはドリルで穿つくらいは私にも出来るだろう。掌サイズくらいの魔物ならば非力とてそう問題ない。
母の決定には大人しく、イエスかハイで答えておけばいいのだ。それ以上深く考えず、私は有難くも受け取ったのが昨晩のこと。
そして、今朝。
仕様書をノアに確認しに行ってもらっている間に、カトレアに身支度を整えてもらった私は、「あとは自分でやるから」と彼女を他の仕事へと向かわせた。
一人になった私は、私室内の最終チェックを済ませ、仕上げにと早速この装飾品をチェックしていたその時、人生史上、最大最悪な悲劇が起きる。
「このカメオの擬態機能は確か、何代目かのご先祖様の奥様が、『こんなに目立つ巨大ドリルを女性が常に持ってるなんて、エレガントじゃない』
なんて、言ってたのが始まりだとか、お母様が言ってましたわね……」
そこは同意する。女性の装備品として頭頂部から肘先まである巨大な掘削ドリルを背負うなんて、女性としてはちょっとね、という心はとてもよく分かる。
しかし、「本来は魔導具の掘削用ドリル」だ。
カメオへの擬態機能なんて後付けの付与された技術はオマケ程度のものである。
「本当なら、こんな擬態性能がついているだなんて驚くところなんでしょうけど……元がドリルっていう衝撃の方が大きいですわよ……」
本来の機能である「掘削用ドリル」について、これは一定の魔力をカメオに注ぐと、頭頂部から肘先ほどの巨大ドリルに形状変化するという代物。
そう、「カメオに一定の魔力量を通して初めて掘削用のドリルに形状変化する」のだ。
ーーピクリ、と疼く私の浪漫センサーがここに来て発動した。
「……仕様書の確認も大事ですけれど、ほんのちょっと、動作確認するくらいならば、ね?」
ーー愚かな私は、つい技術者としての好奇心で、歴代の技術のつまった装飾品に触れ、くまなく点検を開始する。
「でも、ご先祖様も変わった美学をお持ちよね。髪の結び目にしか結合されないなんて……。
まあ、リトニア家って誰しも謎の拘りがあるものね……。
でもこの魔導回路を刺繍したリボンなら、いけそうですわ」
一人ごちながら、鏡の前でカメオをツインテールの結び目になるリボンへと当てていた。
突如、私の手から微かに漏れる魔力に反応したのか、カメオが熱を帯び、視界を塞ぐほどの黄金の光が私の視界一面に広がった。
「まっ!!まぶし…っ!!目が、目がぁあああああ!!!」
パニックになった私はうっかりと「仕様よりも魔力を多め」に流してしまった。
そして、魔力に反応し、手にあったはずの装飾品はリボンに見事結合してしまっていた。
「あっつ!!今度は熱いですわ!!」
一瞬だけ熱くなるカメオに驚き、温度を確認するようそっと指先で触れる。
しかし、つるりとした滑らかな感触しないことに疑問を覚えながらもほっと安堵の溜息を溢した。
「ふう……魔導具の熱暴走かしら?……っ、えっ……?」
ーー史上最悪の誤認が発生した。
ようやく顔を上げ、鏡に視線を向けた時、視界に映るツインテールの形状に、私は驚愕に目を見開く。
『くるん』、と巻かれた右側の、ツインテール。
あろうことかこの遺物は、『金髪のドリル形状こそが最適解』だと計算違いを起こしていた。
ーーその結果、見事なまでの『縦ロール』が正であると形状登録し、強制上書きしてしまったのである。
後に知ることになるが、この魔導具は一度魔力を登録すると、向こう三十年は他者の干渉(魔力)を受け付けないという、何とも我儘なお嬢様仕様。
……傍迷惑な機能満載の、呪物の完成である。
「ご先祖様のおばかぁぁあ!! 一度外しても地毛が熱アイロンで巻いたみたいに、見事なまでの縦ロールになっていますわぁぁあ!!」
ノアが持ってきた仕様書を私の隣で確認するが、私の絶叫などお構いなしに手元の書類を、ぺらり、ぺらりと一枚ずつ確認する。相変わらずの平常運転だ。
私はあまりの恐ろしさに、一度はリボンからカメオを外したのだ。
だがしかし、ご先祖様たちは天才ゆえに、過剰なまでの『擬態能力・採掘上昇・回転速度』等……。
これでもかと言わんばかりに、あらゆる機能を搭載していた。
それ故に魔導具としての機能はとっくに限界を超えており、さまざまな不具合が出てしまったのだ。
細心の注意を払い、魔力を遮断し魔導具を外したにも関わらず、
ーー地毛までもが縦ロール、『ドリル型』に固定されていた。
「お嬢様のように一般的な魔力持ちの方は、常時微細な魔力を垂れ流しているものです。
その結果、その魔導具は微量な魔力による半覚醒状態。……半睡眠状態で意識だけを、起こすという作用が働くようです」
「つまりは何ですの、私が毎回これを髪につける度、魔導具がその僅かの間だけ、熱暴走を起こして、
この縦ロールを作ってしまう、っていう認識でいいのかしら!?」
「肯定、98%の確率で、魔力量が5以下の場合に、起きる現象だそうです」
中途半端な不具合による弊害らしい。
それで何故縦ロールなんて髪型になってしまったのかは不明だが、きっとこれもご先祖様の、何かしらの力が働いているに違いない。
私は魔導具の神様を、今なら少しだけ恨んでしまいそうになる。
「……確認しました。お嬢様のその髪型は不具合で間違いありません。ですが、ウェーブをストレートに形状変化された方の記述によりますと……。
『お湯で三分きっちりと浸せば元に戻った』という記録があります」
つまり、この縦ロールを元に戻すには、ウェーブ以上にきっと至難の業……
ーー最低でもお湯に三分以上浸さなければならないと言う事だろう。
(……お湯で三分。
……ええ、知っていますわ。この「熱湯に三分浸して戻す」という工程。
軍用に開発された、あのカッチカチの魔物肉の携帯食品と、全く同じ仕様ですわ……!)
どうやら私の髪は、淑女の嗜みなどではなく、野営地で食される『保存食』と同じカテゴリーに分類されていた。
「……リトニア家らしい、といえばらしいですわね……」
釈然とはしないものの、妙に納得してしまう自分が、何より最高に悔しい。そしてこの血が恨めしい。
その結果、右側頭部の『強制固定縦ロール』に合わせて、
左側頭部の地毛も毎朝アイロンで髪型をセットしなければならなくなった。
(ツインテールにしなければいいのでは?と言われそうだが、そこは私の拘りなので却下ですわ。)
ーーまさに、美学と二度手間の極みである。
この異常事態の中でも平然とするノアは、私に本来の機能であるドリルを起動するよう促す。ささくれ立った私の心を華麗にスルーするのも、らしいと言えばらしいのだが。
私は作業用のエプロンのポケットから軍手を装備する。そしてドリルに形状変化させ持ち上げた。
「お嬢様、正式名称を再確認しました。開発コード名は、
『超絶回転・螺旋穿孔V-IIIー極ー』。
……現在、スタンバイモード。ドリルの出力、安定しています」
「ノア。この『ぶいすりー』?という記号はなんですの?」
ノアの持つ仕様書を覗き込む。そこには見慣れない記号の文字が列をなしていた。一部は見覚えはあるものの、どこで見たのか、私は腕を組み小さく唸る。
「記録によると、古代文字の一種のようです。まだほんの一部しか、解明出来ていませんが、
当時命名された3代目のリトニア当主、所持者であるアイロニー様が、古代文字にいたく関心が高かったようです」
古代文字はロマンがあるが、私はそちらの勉強はあまり強くはない。研究学者たちすらも、全く研究が進まぬほどに、複雑怪奇な文字列らしい。
しかし、祖父はそちらにも関心があるとかで、昔にちょっとだけ教えてもらった事がある。だが、私にとってはその程度の認識だ。
「というか、そのいかつい響きの正式名称で呼ぶのはやめてくださる? ご先祖様たちの熱い鼓動と油の匂いが漂ってくるようですわっ!!
せめて『ボーラー様』と、エレガントに呼んでくださる!?」
「承知しました。今後こちらの魔導具、
『超絶回転・螺旋穿孔V-IIIー極ー』は
『ボーラー様』である、と記録します……」
(……あら?もしかしたらノア、制式名称の方が気に入っている……?少しだけ語尾がしょんぼりしたような?……気のせいかしらね)
私は巨大ドリルを片手に持ち上げた。
通常両手で持ち上げるのすら至難の業だが、その問題を解決するのはこの『魔道軍手』の出番である。
これを装着すれば、引き上げられる筋力補正は通常の1.5倍。瞬間最大出力にいたっては200%(2倍)を叩き出す。
主に運搬作業で使われる魔道具なので、我が商会で正式に販売している純正品。
だからこそ、非力な私でも持ち上げられるという親切設定なのである。しかし、それでも補えない欠点はある。
「……数値上は完璧ですわね。ええ、理論上は。
ですが、いくらこの軍手があろうとも、この巨大な鉄塊を、この細い腕で長時間振り回せば、
明日の朝には全身が筋肉痛で悲鳴を上げ、絶叫する未来が確定していますわ。
ーーまさに、宝の持ち腐れ(オーバーエンジニアリング)ですわね!!」
せめてもの救いは、この暴力的なまでの武器に、ある「制限」が設けられていたこと。
ーードリル形状時の活動限界はわずか三分。
それ以降は過剰設計故に熱暴走を起こし、強制的にカメオに戻る、というちょっと不便な制限であった。
しかも終了三十秒前になると、「ピコッ、ピコーン…」という不規則かつ、やる気の出ない警告音とともに、
開発に携わったご先祖様の野太くやかましい音声ガイドが響き渡るのだ。
『回せ! 回し続けろ! オーバーヒートしようと、力の限り穿ち、回転数を上げるのだぁぁぁ!!!
限界を超えたその先に、真の回転がーーー』
「っ、うるさいですわよ、何代目かのご先祖様っ!!」
張り合うかのように『ボーラー様』へと怒声を放つ。何か言っている最中ではあったものの、動作確認のために実体化させていたドリルから魔力を強制遮断する。
何事もなかったかのように静まるそれが、元の装飾品である無機質なカメオ型に戻り、私はそれを再度リボンと髪の結び目にカチリと定着させた。
ご先祖様の声が聞こえるなど、明らかに異常な技術力だが、今更こんな微細な技術では、感動も何も出来やしない。
朝から絶叫を上げ続けていたので、明日の今頃には声帯が掠れているだろう。
私は、鏡の中の完璧無欠な悪役令嬢(自分)を見つめ、心から深いため息をついた。だが、嘆いていても始まらない。
ーー全てはここから始まるのだ。
「お嬢様の本日の声帯音量は、平時より120%ほど増加……こちらを、お召し上がりください」
「ぶどう味の飴……ふふ、ありがとう、ノア。貴方の好物なのに、いいのかしら」
「問題ありません。既に予備も確保済み……あとで紅茶も、お持ちいたします」
「ええ、楽しみにしていますわ」
ノアに慰められ、こうして好物の飴までお裾分けされたのだ。
彼よりも年長者である私がくよくよとし続けるのは矜持に反するし、人生における最大の機会損失だ。
「無駄なコストは削減する、しかしロマンだけは忘れてはいけない。」これが我が家の家訓。
そして国家一級魔導具師である私の『設計思想』だ。
そして私達は旅へと出る為に、玄関へと向かった。
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ノアの観測記録:(Log-007A)
【対象】:(お嬢様)の「悪役令嬢化(ドリル換装)」を観測。
【武装】:『超絶回転・螺旋穿孔V-IIIー極ー』、実体化による質量負荷を懸念。
【補足】:お嬢様がドリルを「ボーラー様」と呼び始めました。
現実逃避の一種と推測されますが、愛着によるシンクロ率上昇の可能性も捨てきれません。……記録、継続。
本編では語りきれなかったため、
簡易版ボーラー様仕様書を補足として置いておきます。
【リトニア重工:魔導具『ボーラー様』技術補足】
▪️スリープモード(日常/自動ドリル化)
・お嬢様から自然に漏れ出す微量魔力を『カメオ』が自動吸収。
・吸収された魔力は「熱」に変換され、リボンを通じて髪へと伝導。
・結果: 髪は自動的に「縦ロール」へと強制固定。
※装備しているだけでドリル化が進行しますの。
▪️完全覚醒モード(戦闘)
・お嬢様が意図的に魔力をブースト。
・カメオ本体が物理形状変化を起こし、掘削ドリルへ変形。
・結果: 『ボーラー様(装飾)』→『ボーラー様(武装)』へ移行。対象を粉砕・掘削。
▪️シャットダウン&メンテナンス(夜)
・カメオを外し、魔力供給を完全遮断。
・お湯に三分浸すことで、熱固定された髪の結合をリセット。
・結果: 清楚なストレートへ復元。
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【活動報告 / 後書き用】
本作は全力ギャグコメにつき、恋愛要素はほぼ0です。
愉快な護衛と不憫な現場監督(令嬢)が主人公の物語です。
基本的に、あらすじ通りに爆走します。
【※調査団のパトロンになりませんか?】
「面白い」「続きが気になる!」と思ってくださった皆様、
ぜひブックマークや【星】での評価をお願いしますわ!
作者のモチベーションという名の魔力は、皆様の評価でチャージされます。
どうかエヴリンたちの物語を応援してください!
ご意見・ご感想も、ドリルを止めてお待ちしております。
(※この物語は作者の妄想・パッション・ロマンにて世界観や魔導具が構築されております。
多少のご都合主義は、技術屋の愛嬌としてご理解いただけますと幸いです!)




