第7話:完璧な悪役令嬢(ドリル)爆誕①
……というわけで、ここからタイトル回収ですわ。
肝心のドリルの仕様については、後ほど補足いたしますわね。
旅立ちの朝。
自室の姿見の前で、私はズシャリと崩れ落ち膝をつく。
「私、決断を早まったのかもしれないですわ……。お母様、やっぱりこの旅、やめていいですか……?」
左側頭部のストレートなツインテール。右側頭部だけが螺旋のような縦ロール。
金髪のアシンメトリーなツインテールが、そこに完成していた。
事の経緯は、先日の夜に遡る――。
――昨晩、出発の前に渡したいものがあると言われ、私はお母様の部屋を訪れていた。そこで手渡されたのは、一つの『お守り』。
「これはただの装飾品ではなくてね、本来は掘削用のドリル。我が家に伝わる家宝の『魔導具』なのよ」
「ドリルがお守り!? え、でも見た目はただのカメオですわよ!?」
私の手の中にあるのは、何の変哲もない普通の装飾品。
「これには魔導回路が組み込まれた特別仕様なの。カメオに魔力を注げば、ドリルに形状変化するという優れものなのよ」
まさかのドリルに形状変化するという事実に、驚きを隠せない。
「ですが何故、掘削用ドリルなんですの!?」
元を辿れば、掘削人だったご先祖様が「岩盤を粉砕できる最強のドリル」を求めたのが悲劇の始まり。
そこから歴代の技術者たちが貫通威力と採掘速度を追求し、魔改造を重ね続けてきた結果――。
『狂気の遺産』が完成された。
ただの装飾品のお守りではなく、魔導具というのは我が家らしく実用的。しかし、世間一般的な母親からの贈り物ではないことは確かだろう。
お母様が言うには、古代遺跡の調査にうってつけな道具だろうとのことで、確かに遺跡を調査する際に必要な時が来るかもしれない
。
(それに、咄嗟の時はドリルで自衛、というのもアリかもしれませんわね……?)
お母様の決定には大人しく、イエスかハイで答えておけばいいのだ。
それ以上深く考えず、私は有り難く受け取った。それが昨晩のこと。
――そして、今朝。
私室で一人になった時のこと。人生史上、最大最悪の悲劇が起きる。
「『こんなに目立つ巨大ドリルを女性が常に持ってるなんて、エレガントじゃない。』と言って、ドリルをカメオに形状変化させるなんて。ご先祖様の奥様もなかなかの無茶を言いますわね……」
女性としてはちょっとね、という心はとてもよく分かる。しかし、カメオへの擬態機能なんて、なんという無茶をしたのだか。
「擬態性能が驚くべきポイントなのでしょうけど……。元がドリルっていう衝撃の方が大きいですわよ……」
本来の機能である『掘削用ドリル』。これは一定の魔力をカメオに注ぐと、巨大ドリルに形状変化するという代物。。
そう、「カメオに一定の魔力量を通して、初めて掘削用のドリルに形状変化する」のだ。
――ピクリ、と疼く好奇心。
「……仕様書の確認も大事ですけれど、ほんのちょっと、動作確認するくらいならば、ね?」
ノアが後で持ってくると言っていた詳細な仕様書。だが、それを待っている時間が惜しいと、ほんの少しだけ確認をすることにした。
「このカメオ、髪の結び目に固定するようにってお母様が言ってましたわね。そうでないと機能しないとか……。まあ、リトニア家って変わった美学をお持ちのご先祖様が多いですものね……」
一人ごちながら、鏡の前に立つ。
「リボンの上にカメオっていうのも、可愛いのではなくて……? これならシンプルで邪魔にもならないですし、良いかもしれないですわね」
リボンの結び目へ、カメオをそっと当てる。――突如、カメオから視界を塞ぐほどの黄金の光が私の視界一面に広がった。
「まっ!! まぶし……っ!!」
パニックになった私は、うっかりと「魔力を多め」に流してしまった。
「目が、目が――ッ! 光が痛いですわぁあああああ!!!」
魔力に反応したカメオは、いつの間にかリボンに結合してしまっていた。
「あっっっつ!! 今度は熱いですわ!!」
一瞬だけ熱くなるカメオに驚き、慌てて手を離す。――だが、指先は火傷のあともなかった。それにほっと安堵の溜息を漏らす。
「ふう……魔導具の熱暴走かしら?」
私は顔を上げ、前方の鏡に映る違和感にピシリと固まる。
「…………は?」
左側は普段と変わらぬ、ストレートなツインテール。
だが右側だけが、『くるん』と巻かれた縦巻きロール――。
通称、ドリルヘアに変化していた。
「な、何ですのこの髪型はっ!!」
――コンコン。
私は信じられない光景に騒ぎつつ、ドアのノック音に気づくとすかさず扉を開く。
「お嬢様、先程から何やら騒がしいようだと通りがかりの使用人から聞きましたが、何かありましたか」
――そこにいたのは、仕様書を両手に抱え持つノアの姿。
「ノア! 見て! 見てくださいまし!! この髪型!!」
「………仕様書を読む前に、魔導具の勝手な使用はお控え下さい。今、お調べします」
ノアが持ってきた仕様書を私の隣で確認する。そこで、様々な恐るべき事実が発見された。
家宝の魔導具は、一度魔力を登録すると向こう三十年間、他者の干渉《魔力》を一切受け付けないという、我儘なお嬢様仕様であった。
「んなっ!?そんな理不尽な不具合、聞いた事もありませんわよ!?」
つまり、私の魔力に反応してロックがかかった今、私の右髪は――強制的な上書きをされてしまった。傍迷惑な、機能満載の『呪物』であった。
「ご先祖様のおばかぁぁあ!!」
しかし、まだまだこれだけでは終わらないのがリトニア家の業。
この時の私は、さらなる「家系の闇」……過剰なロマンと情熱によって、絶望を与えられるとは露ほども思っていなかったのである――。
――――――――
ノアの観測記録:(Log-007A)
【観測】: お嬢様の「悪役令嬢化(ドリル換装)」を認。
【武装】: 『超絶回転・螺旋穿孔V-III―極―』、実体化による質量負荷を懸念。
【補足】: お嬢様がドリルを「ボーラー様」と呼び始めました。
……現実逃避の一種と推測されますが、愛着によるシンクロ率上昇の可能性も捨てきれません。記録、継続。
本編では語りきれなかったため、
簡易版ボーラー様仕様書を補足として置いておきます。
【リトニア重工:魔導具『ボーラー様』技術補足】
▪️スリープモード(日常/自動ドリル化)
・お嬢様から自然に漏れ出す微量魔力を『カメオ』が自動吸収。
・吸収された魔力は「熱」に変換され、リボンを通じて髪へと伝導。
・結果: 髪は自動的に「縦ロール」へと強制固定。
※装備しているだけでドリル化が進行しますの。
▪️完全覚醒モード(戦闘)
・お嬢様が意図的に魔力をブースト。
・カメオ本体が物理形状変化を起こし、掘削ドリルへ変形。
・結果: 『ボーラー様(装飾)』→『ボーラー様(武装)』へ移行。対象を粉砕・掘削。
▪️シャットダウン&メンテナンス(夜)
・カメオを外し、魔力供給を完全遮断。
・お湯に三分浸すことで、熱固定された髪の結合をリセット。
・結果: 清楚なストレートへ復元。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【活動報告 / 後書き用】
本作は全力ギャグコメにつき、恋愛要素はほぼ0です。
愉快な護衛と不憫な現場監督(令嬢)が主人公の物語です。
基本的に、あらすじ通りに爆走します。
【※調査団のパトロンになりませんか?】
「面白い」「続きが気になる!」と思ってくださった皆様、
ぜひブックマークや【星】での評価をお願いしますわ!
作者のモチベーションという名の魔力は、皆様の評価でチャージされます。
どうかエヴリンたちの物語を応援してください!
ご意見・ご感想も、ドリルを止めてお待ちしております。
(※この物語は作者の妄想・パッション・ロマンにて世界観や魔導具が構築されております。
多少のご都合主義は、技術屋の愛嬌としてご理解いただけますと幸いです!)




