間幕②:家族の平穏なる(過保護な)会議 (リトニア夫人視点)
※リトニア子爵夫人視点
これが魔王を倒す勇者のような冒険譚ならば、私は決して許可しなかったでしょう。
あの子は技術者であり、私の可愛い娘。普通の女の子なのですから。
「……やはり考え直すべきでしょうか。エヴリンを勇者のような危うい立ち位置に置くなど。いくら危険が少ない地とは言え、調査など……やはり、軽率な判断だったでしょうか」
深夜の書斎に響いたのは、長男であるヴィンセントの苦悩でした。私と同じプラチナゴールドは項垂れ、短い髪は僅かに目元へ影を作る。
鋭さを持つ目元は父親と同じだが、今はその意思の強さをどこかへと置き去りにし、不安げにルビー色の瞳を曇らせる。
魔回路の図面を直前まで描いていたのか、インクで汚れた両手の拳を膝の上で握りしめる。その姿を見れば分かるように、妹であるエヴリンをとても大事に思う優しい兄そのもの。
学生の頃にご縁が出来た、王太子アルフレート殿下に妹のことで相談ごとをしたのは、他ならぬ彼自身。
しかし、それが、王家から『国家一級魔導具師』としての公式依頼を出すというここまでの急展開は、彼にとっても想定外だったに違いない。
「……落ち着け。エヴリンの目的は魔物の討伐や戦闘ではない。これは調査団の責任者だ」
夫の地を這うような低い声が、息子の動揺を遮った。シンプルな平民寄りの質素な作業着、貴族らしからぬ身なり。けれど、生地は上質なもの。
エヴリンと同じシャンパンゴールドの髪色。しかし髪質はあの子とは違い、今日も無造作に跳ねていた。エヴリンとヴィンセントに継承された、強面と称される厳しい顔つき。
しかし、それは決して他者を害するものではなく技術者としての誇りを表す、職人由来のものである。
夫の瞳は子供達よりも色が濃くより硬質な印象を持たれるものの、内側はとても繊細で、そして大らかな懐をもつ愛情深い父親。
そんな夫のハンスは寡黙な為に言葉は数は少なく、不器用な為に行動も子供達には見せなかったでしょう。しかし、内心では誰よりもこの依頼について重く受け止めていたのです。
「今回の『リトニア調査団』は、数少ないメンバーですが、現時点で我が家が出せる最高戦力を揃えました。護衛としては明らかに過剰なものです。……心配はあれど、大きな不安はないはずよ」
「けれど、あの子を守るためならこれでも足りないくらいです……」
根回しに奔走した夫の目も、不安を溢す息子に負けず劣らず深刻なものだった。
これは飽くまでも現地調査、つまり、遺跡攻略の為に戦力を揃えという事ではない。危険があったのなら、それこそ逃げ帰ればいい。
それだけの戦力のある護衛は揃えた。その上、魔導車という逃げる足も用意してある。
「そうよ。あの子は『国家一級魔導具師』として優秀なだけでなく、一流の『調律師』なの。……王太子殿下も、おそらくはそうお考えなのでしょう。あの方は、実に優秀な方です」
私は、二人の男たちを宥めるように言葉を添えた。
「これまで王家が主導してきた遺跡調査は、ことごとく空振りに終わっています。だからこそ、あえて『国家一級魔導具師』という公的な名目を用意し、王家の面子を潰さない形でリトニア家に依頼を出したのでしょう」
それに、今回の調査はあくまでも追加調査、王家にとっては「空振り」も想定内のこと。
「どうせ不発に終わるのなら、他に無駄な人材を割くよりも、ヴィンセントの頼みを聞き届ける形で我が家を使う方がよほど効果がある。……あの方はそう考えたのかもしれないわ」
王太子殿下の考えは読みにくい、あくまでも私の予想に過ぎないけれど。
「ですが、もしエヴリンの身に何かあれば、と。……いえ、過剰に守るだけではダメだと頭では分かっているのです。それでも、あの子はあまりにも非力過ぎる……」
頭を抱えるヴィンセントを余所に、夫は静かに書類を捲る。
事前に根回しを済ませ、万全のバックアップを得られるよう手配は済ませてある。有難いことに、辺境伯自身もあの子を気に入っている。……全力の協力を約束してくれたわ。
母として、そしてリトニア家の子爵夫人としての縁も立場も使えるものはなんでも使う。それが、私の生き方。
「……調査だと言うのなら、危険もそう多くはないでしょう。それに、あの子ったら一度言い出したら聞きやしないもの。だから、行かせるって決めたのよ」
「あの子は冒険者ではなく、戦闘力など皆無です……」
「ええ、だからこそ、その為の護衛はつけたのだし、戦闘は極力回避の方針は変わらないわ。……それとは別で、ご先祖様から受け継いできた『魔導具』を持たせるわ」
「母上、まさか、我が家家宝の『聖なる螺旋』をあの子に?」
「万が一の自衛のための『リトニアの家宝』です。……少しばかり個性が強い品だけれど、あの子を守るためですもの。少々の『形状の不一致』くらい、誤差の範囲でしょう」
驚愕する息子に、私はただ微笑みを返しました。 本来ならば、ただの装飾品に見えるはずの代物。
あの子の美しさを損なうことなく、万が一の際にはあらゆる障壁を貫く最強の矛へと姿を変えるのです。
「……『お守り』だ。あの子の淑やかな髪を彩る、ただの装飾品であってほしいが……」
夫の呟きは、もはや祈りに近いものでした。 けれど、私は確信しています。リトニアの娘ならば、どんな苦難にも立ち向かえるでしょう。
何せ、私の子ですもの。 自分の進む道は、自分で切り開いてごらんなさい。
【活動報告 / 後書き用】
7話まで、毎日18時に投稿を行う予定です!
しばらくは「タイトル詐欺(?)」のような展開が続くかもしれませんが、ぜひその変化もお楽しみください!
【※調査団のパトロンになりませんか?】
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(※この物語は作者の妄想・パッション・ロマンにて世界観や魔導具が構築されております。多少のご都合主義は、技術屋の愛嬌としてご理解いただけますと幸いです!)




