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不憫な悪役令嬢は、ドリルで常識を穿つ!   作者: 雪見もち子


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第6話:地下工房の邂逅、あるいは古代の【声】

団欒室での決意表明から数刻後。



私とノアはおじい様に連れられ、リトニア家の地下深く、厳重な結界に守られた「特別工房」へと足を踏み入れていた。




壁の魔電灯が投げかける光は、足元を月明かりのように優しく照らしている。

だが、その先に鎮座する扉は、一見しただけで他人が立ち入るのを拒むほどに酷く冷たく、重厚だ。



もっとも、リトニアの人間にとってそれは恐れるものではない。



おじい様がその冷徹な鉄板にそっと指先で触れる。すると、何の変哲もなかった扉の表面に、触れた箇所から波紋のように設計図が描き出された。



淡く光る魔導回路が脈動し、精密な認識プログラムがセキュリティを静かに、かつ確実に解いていく。



――カチャリ



歯車の噛み合いロックが外れた音が、無機質に響く。重々しい金属音を奏でながら、数千年先を歩む技術への扉が、今、ゆっくりと開かれた。



そこはリトニア家の「秘密しんじつ」が詰まった、まさに叡智そのものと言える空間。冷えた空気の中、見知らぬ球体はすでに精密解析用の台座の上へと鎮座していた。



噂でしか聞いたことのなかった、おとぎ話の中だけの遺物。



古代魔導人形アーティ・ファクト・ドール』は、確かにそこに圧倒的な実体を持って存在していたのだ。



「ここは我が家で最も魔導耐性の高い部屋じゃ。……ノア、ここでなら遠慮はいらん。存分にその力で視てみるがよい」



おじい様が合図を送ると、ノアは台座の前へと静かに歩む。今回、彼が呼ばれた理由はただ一つ。



私やおじい様の微弱な魔力――「4」や「5」という出力では、この沈黙した遺物の深層にまで魔力を届かせ、その反応を引き出すことすら叶わないからだ。



ノアは右目に装着した魔導具のモノクルの奥、無機質に輝く淡墨青色の瞳が微かに光る。



魔力が緩やかに立ち上がるのを見守る。自身の膨大な魔力を「意味のある数値」へと変換する、その瞬間を。



モノクルの魔回路が魔力を吸い回転速度を加速させる。レンズ越しに彼の青い瞳が一際強く、鋭く光る。



通常よりも夥しい量の演算が流れる中、ノアは球体にそっと触れ、その回路へと膨大な魔力を流し込む。



混じり気のない純粋な魔力の奔流が、モノクルの回路を通じて「解析の光」へと姿を変え、彼の指先からは目に見えないほど細く鋭い糸が、

血管のように球体全体へと広がっていく。



「…………モノクルの計測値に、異常なノイズが走っています。深い、そして暗く不明瞭です」



ノアはレンズに映し出される魔力波形の数値を淡々と読み上げていく。



「お嬢様、このコアは完全に欠落しています。ですが、回路の隅々に『強制帰還』のプログラムが焼き付いています。

……どうやらこの頭部は、自身の『身体パーツ』が眠る場所を、明確に記憶しているようです」



「なんですって……!? そんなバカなことが……動力源もないのに? 一体どうやって……?

……まさか、指向性データが生きているとでもいうの……?」



その言葉に私は戸惑いと驚愕で上擦る声を漏らす。いくつもの数値が、私の脳裏を無意味な羅列となって駆け巡る。



魔導調律師チューナーとしての本能が血液を瞬時に沸騰させる。未知なる解析結果を覗き込もうと、おじい様よりも前へ、勢い殺さず身を乗り出した、その時。



――チリッ



動力源もないはずの球体から、小さくビリビリとした青白い光が走った。 途端、一気にバシンッ! と激しい音を響かせ、スパークが徐々に大きくなる。



その閃光は止まることなく広がりを見せる。

すると、空っぽの頭部から伸びる一筋の光が私に触れた。途端に走る猛烈な衝撃、熱さ。



ーーばちり



正体不明の『ナニか』が私の中を暴くように、補足し、ハッキングする。逆流するように接続してくる『ナニか』の強い『意思』が入り込む。



「自分の魔導回路プライバシーを、土足で踏み荒らされ、中身をスキャンされている」という気味の悪さに肌が粟立つ。



「ーーっ!エヴリン!!」



自身の身を両腕で抱え蹲る私の元へ、おじい様は駆け寄ろうとするも、見えざる壁によって防がれる。ノアの魔力による障壁だ。

小さなノアの身では自身よりも大柄な大人であるおじい様を止める術はないと判断し、展開したのだろう。



障壁はおじい様を傷つけることなく、ただの足止めだ。



「……なりません、先代様。今は……お嬢様にも、古代魔導人形アーティ・ファクト・ドールに触れることも危険です。……どうか、身の安全を」



「しかし……っ!くそっ、どうにかならんのか!!」



いつになく聞いた事のない必死なおじい様の声が遠くで聞こえる。孫娘を助けようと懸命な顔で辺りに何かヒントはないかと、血眼になり視線を巡らせる。



その間もノアも私とおじい様の間で何かを探るようにモノクル越しに観測を続けた。



その間も光は素知らぬ顔で、導線を辿り私自身の中を暴く、そして魔力を検知スキャンする。



強引に引き寄せるための「増幅器アンプ」として私を利用し始めたのだ。



それは、失われたコアを求める器側の、執念にも似た「残留思念」の暴走だった。



『……適合者接続。――警告、コア未検出……。代替動力…源ヲ捕捉。……座標未踏、古代遺跡……封印ヲ解除セヨ』



「!? 今、私の頭の中に直接響いたわ! 座標? それに、封印ですって!?」



だが、この球体は私の乏しい魔力を「呼び水」にして、周囲の魔力を強引に吸引し始めるという暴挙に出た。



内側からごっそりと、空っぽになるまで吸い尽くしてやるという、器側の空虚な意志を感じた。



「エヴリン!!」



冷や汗が背に伝う、おじい様が私の名前を悲痛な顔で呼ぶ。けれど、言葉を返す余裕もなかった。



「……っぐ、凄い吸引力…! っ、こんなの、私の魔力じゃ一瞬で干からびてしまうわっ…!」



急速に体温が失われ、魔力という血液を抜かれるような感覚に、ざあ、ざあ、と轟音が響く。



意識はあるのに身体が硬直していく。視界までが、魔力切れの電灯のようにちかちかと白く点滅し始めていた。



「お嬢様、僕の魔力を経由パスしてください…。……出力固定。放出します……」



その瞬間、私の肩にノアの手がそっと添えられた。



彼自身も導線に繋がれ不快さを感じている筈なのに、そんな顔は一切見せず、器を片腕でしっかりと抱えたまま、私の傍へと控える。



そして、私の身体を「媒体」にして、彼の魔力が新たな「導線」のように内側へと滑り込んでくる。



(ああ、これならいける。 私の魔力を「触媒」にすることで、ノアの荒々しい魔力を、器が認識できる私の魔力へと変換パッキングしていく)



凍りついた毛細血管の隅々までを潤す春のそよ風のように、あまりに温かく、心地よい奔流だった。



断線しかけていた意識がふたたび接続され、不快なノイズを響かせていた轟音が、嘘のように澄み渡った静寂へと変わっていく。



ノアの「10」という、この世界の測定器では計測することさえ叶わない膨大な魔力が濁流となって球体へ流れ込んだ。



私の「4」の魔力が扉を開ける鍵となり、ノアの「10」の魔力がエンジンとなって、数千年ぶりに古代の回路が悲鳴を上げる。



閃光が工房全体を包み込み、石壁には幾何学的な座標軸が投影された。



光が収まり静寂が戻った工房で、ノアは涼しい顔でペンを走らせ、投影された座標をすべて手帳に書き写していく。



私は並々ならぬ疲労にどさり、と膝を突き、肩を上下に揺らし呼吸を乱していた。いつの間にかノアの障壁も消え、おじい様が駆け寄って来ては私の身を抱き寄せる。



「エヴリン、ああ、すまぬ、わしがついておりながら……」



「大丈夫ですわ、おじい様……ノアが助けてくれましたら……」



息も絶え絶えに、私は疲労により脱力したままであるが、大切な祖父にそんな悲しい顔をいつまでもさせてはいられない。



おじい様に身を預けつつ、震え冷たくなったおじい様の手をぎゅっと握る。やがて、私の拙い笑みを見て、ほっとしたようにおじい様は安堵の息を溢した。



「……先代様、お嬢様。解析が終了しました。……場所は北北西……。王太子殿下シギル辺境の古代遺跡地で確定です」



「シギル……ああ、あの古代遺跡か…………」



頭部を発見したのもあの地であると聞いた覚えはあるが、そんなに近くに内部のパーツもあったのか。



おじい様は何処か悩ましげな顔をしていたが、何か納得したのかそれ以上の言葉を紡ぐことはなかった。



「お嬢様、この球体は確かに貴方の魔力を『適合者の鍵』として認識し、眠っていた座標データを出力しました」



「……鍵。使い勝手のいい道具扱いなのは、一部の貴族連中と同じなのね。……けれど、そんなことはどうだっていいわ、その挑戦、どーんと受けて立って差し上げますわっ!!」



荒々しい息を整え、すくりと立ち上がる。私は暴れん坊で、無機質な、空っぽの頭部を見つめ直した。魔力が「4」しかない私だからこそ、



この「10」の怪物たちや、古代の遺物を解明するために「技術レンチ」が必要なのだ。



「さあ、出発の準備を急ぐわよ! ……絶対に、ぜーったいにこの子の心臓コアを見つけ出して、私の手で再起動セットアップしてあげますわよっ!」



これが、私が失われた心臓を奪還する旅を運命づけられた、最初の夜の出来事である。





ーーーーーーー

ノアの観測記録(Log-006)


【事象】お嬢様の微弱魔力(4)による古代遺物の起動と、僕の魔力のパスを確認。


【判定】お嬢様は、僕の暴走する魔力を制御できる唯一の「精密弁バルブ」である。


【結果】お嬢様は「セットアップ」の宣言を完了。




……とりあえず、予備のレンチを100本パッキングします。




【活動報告 / 後書き用】

7話まで、毎日18時に投稿を行う予定です!

しばらくは「タイトル詐欺(?)」のような展開が続くかもしれませんが、ぜひその変化もお楽しみください!


【※調査団のパトロンになりませんか?】

「面白い」「続きが気になる!」と思ってくださった皆様、ぜひブックマークや【星】での評価をお願いしますわ!作者のモチベーションという名の魔力は、皆様の評価でチャージされます。どうかエヴリンたちの物語を応援してください!

ご意見・ご感想も、ドリルを止めてお待ちしております。


(※この物語は作者の妄想・パッション・ロマンにて世界観や魔導具が構築されております。多少のご都合主義は、技術屋の愛嬌としてご理解いただけますと幸いです!)

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