表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不憫な悪役令嬢は、ドリルで常識を穿つ!   作者: 雪見もち子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/30

第4話:ガレージの双璧、そして屋敷の鼠③

食堂での騒ぎがひと段落した後――




解散の言葉を受け、カイルとレオンは屋敷裏手のガレージへと移動していた。



「――で、カイル。私が出ている間、お嬢様に変わりはなかったか?」



レオンは誰もが認める好青年のような笑みを浮かべ、前方にいるカイルへと問いかけた。

カイルの前方には、リトニア家の男衆が作った情熱的でロマン溢れる移動車『魔導二輪車アース・シェイカー』が鎮座していた。



その点検を行うカイルの前髪はクリップで止められており、視界は良好そうだ。まだ真新しさの残るハンドルのグリップを労るように撫でつつ、「ああ」と愛想のない小さな頷きで肯定を示す。




道がなかろうと、そこが己の進む道であるならば、レオンは迷わず前に進む。目の前に壁があろうと、森があろうと関係なく、不遜な態度で「我が道」を笑顔で行く。非常に迷惑で傲慢なタイプの迷子だ。



「道がないなら作れば良い」と当たり前のように逆方向へ歩き出す。暴走気味なレオンを止めるのは、自然災害を止めるよりも至難の業だ。




そこへ真っ当な人間の代表である、リトニア家唯一の『最後のストッパー』のカイルがレオンの引率者として選ばれた。


体力的にも通常の歩行では敵わないとされ、この二輪車を使い「即座は帰還時にこれで連れ戻せ」と厳命を受けた際、使える足として、この操縦士という役割まで与えられた。


屋敷の防衛と護衛のうちの一人であっただけのカイルだが、主にその仕事ぶりや、性格故に選ばれたのは何ら不思議ではない。



カイルの『胃痛ログ』は、常に右肩上がりーー胃薬の常備薬がそろそろ底をつきそうだ。




「……普段通り絶好調だ。厨房の魔導器具を『調律』しながら、本人曰く『淑女らしい』高笑いを上げて火花を散らしていたぞ。強面で屈強な元Aランクの斧使いの料理長すらドン引きして、火力の上がりすぎたコンロで肉を焼いてたな……」



「そうか、それなら『普段通りに元気』という事か。お嬢様の安定感には毎度のことながら恐れ入る」



レオンは軽く相槌を打ち、満足気に笑みを深める。彼にとってこれは心配というより、主という「高性能エンジンの稼働確認せいじょうかくにん」に近い。


元気がなければとりあえず煽って怒らせる。そして「うるさいですわっ!」と程よくも切れの味のあるツッコミが飛んでくれば、彼は「ああ、今日も出力バイタルは正常だな」と確信してやっと安心するのだ。



歪な感性を持ちながら、思考は至ってシンプルであった。



「そう言えば、今回の遠征先で改めて思った事だが……『普通の貴族令嬢』なら、火花を見たら不快な悲鳴を上げ、肉の油の焦げついた匂いに顔を顰める生き物だったが。


あれが一般的な令嬢の標準装備デフォルトなのだと久々に実感したな。


お嬢様のように、コンロの火力を最大限まで引き上げ、エネルギー源を効率化し、火花を上げて青白い炎を噴き出させたりはしないのが、非常に残念でならない……」



「……お前、外でそれ言うなよ?また、お嬢が誤解されるだろ……」



「けれど、おかげでお嬢様の普通が恋しくなる、ある意味では『依存性の高いポーション』のような存在だ。

それに、あの怒号を聞かないと、どうも出力バイタルが安定せず、一時は予定の半数も討伐を逃したんだが……」



「それで良く予定通りに帰還出来たな。……っ!まさか、お前……!」



「ああ。早く討伐を終えようと、あの『魔道拡声器デスヴォイスアンプ』を使ったんだが、辺境伯にはお嬢様の技術の素晴らしさをいたくお気に召したようだ。


……やはりお嬢様の魔導具は、この世の真理すら覆せる、非常に可能性を秘めた、特殊な威力を持つ技術を持つ女性なのだと、改めて感じた所だ」



やはりコイツは手に負えないと、カイルが腹の底から深く重いため息をつく。その際に、ズレ落ちかけたスパナ型のピンで前髪を留め直しズレを修正する。



ここで放置するには護衛対象でもある彼女の胃痛はさらに加速するだろう。

ほんの少しの同情心と、認知の歪みを正すべく、カイルは重い口を開いた。



「お前がお嬢を煽って怒らせる度に、周囲の胃壁がどれだけ削れるか考えた事があるか……? ナデア街に行った時だってそうだ。……覚えているだろ?」



「ナデア街?ああ、あの時は確か、俺の剣に使う新しい素材があるからと向かった時だったか。……ふむ、特筆すべきことは何も無かったと思うが?」



「お前、それ本気で言ってるのか……?……あの日、お前が護衛任務についた時、わざとお嬢を煽って怒らせただろう。


おかげで周囲からは、『あの麗人の騎士様を道端であんなに怒鳴るなんて、やっぱりあの噂は本当だった』と、通りすがりの令嬢たちさえ震え上がってたぞ」



これはカイルが伝え聞いた話だが、当日護衛として影に潜んでいた仲間からの確かな情報筋。

そして、ただの推測にすぎないが、きっとお嬢はまた勘違いの波に流され、とんでもない所業を行った、とでも噂されるだろう。



あまりにも不憫極まりない。



「それに、やれ顔つきが怖いだの、傍若無人な振る舞いだの。……挙句の果てには『リトニアの猛犬を飼い慣らす悪の女帝』だなんて大層な二つ名までついてたらしいな」



「『女帝』か。……悪くない響きだな」



レオンは悪びれるどころ誇らしげであり、都合よく前の言葉も拾わず、自分の耳障りが良い箇所だけを抜粋するのも彼らしい。エヴリンが世間にどう怯えられようがまるで関係がない。



自分が煽り、それにお嬢様が全力の怒号と理屈じみた正論で応えてくれる――その「応答速度ツッコミせいど」こそが、レオンにとっての信頼の証だ。



「……はあ。お嬢は『普通の令嬢』らしく、一般的な友達が欲しいって言ってるんだ。もう少し周囲の視線を気にしてやれ」



「……友人?」



レオンはそこで、先ほどまでの人好きのする笑みから一変し、不敵な笑みを浮かべた。



「彼女のあの異様な技術力と、並々ならぬ魔導具への情熱という執念深き業……あれらを持っていたら、お嬢様の求める『普通のお友達』とやらは、隣に立った瞬間に己の不出来さを自覚し嘆き喚くのでは?」



「……事実だな。俺はそこまでは言わんが。……まあ、あのお嬢の隣で笑っていられるのは、不意の爆発に耐えられる俺たちみたいな『変態バグ』だけだ」



カイルは肩を竦めつつも、休憩は終わりだと言うようにレオンへと手を振り背を向ける。





ーー屋敷内の一室でのこと。



一方その頃の私は、ノア、クロードと別れ各自散らばっておじい様の行方を探していた。


敷地外に出るのはあまり褒められた行為ではないため、今も屋敷内での捜索に限定されていた。護衛の目は常に光っているものの、一人で出歩くのは感心はされない。



(ちょっとした要塞のような造りになっているのだから、私だって敷地内ならば自由に動き回ってもいいと思うのだけれど。


ただ、徘徊するおじい様を捕まえるのには一苦労するのよね……)



護衛の苦労を考えたら、大人しく共に行動するのが一番安心だろう。

私はカトレアを伴い、一階を探索していたが、もしかしたら裏側のガレージまで逃げ込んだのかもしれないと、そちらに意識を向けた瞬間ーー



「お嬢様、こちらに居ましたか」



不意に現れたクロードに私の肩は驚きで小さく跳ねた。裏側のガレージを視界に収めた私は、すぐに視線を逸らし、窓を背に扉へと振り返った。



「さあ、昨夜の爆発で生じた物理演算のバグを修正しつつ、ダクトに逃げ込んだ先代様を『技術的に』捕獲しに行きましょう。先代様はこちらの廊下の突き当たり、空き部屋に居るようです」



そして私は、淑女らしい満面の笑みを浮かべたまま、工具の『レンチ』を握り直した。



「あら、おじい様をもう見つけたの?それなら早速、向かいましょうか」



私は一級魔導具師であると同時に、微細な魔力の不協和音を聞き分ける魔導調律師チューナーとしての自負がある。



ーーバグを放置するなど、エンジニアとしての私の矜持プライドが許さないのだ。



「さあ、おじい様!観念なさいな!!予算を電光石火の速度でシュレッダーにかけられたくないのなら、速やかに投降し、出てきなさいっ!!」



クロードによるエスコートで、導かれた先にある扉をバーン!と勢いよく開く。

そして、室内を見渡せば、

通気口の奥――



「ひえぇっ、鬼の現場監督が来たぞー!


老人を労われ孫娘よ!!じじいの腰はぽっくり逝ってしまうわ!!!」



――と、情けない叫び声が響いた。犯人のお出ましである。



おじい様は工房の複雑なダクト構造を利用し、その年齢に見合わない素早い動作で煙のように逃げ回る。その逃走経路は、かつて自身が設計した防犯システムを逆手に取った、非常に巧妙(かつ往生際が悪い)ものだった。



結局、ノアが生体検知サーモグラフィー機能付きモノクルで位置を特定し、カトレアがダクトの出口に「超強力粘着罠プロトタイプ・とりもちくん」を設置という完璧で隙のない行動。



結果、おじい様がベチャリと情けない音を立てて捕獲された。

それは、太陽が天高く昇りきった昼過ぎのことであった。



「……よし、捕獲完了ですわ。さあ、おじい様。古代魔導人形アーティ・ファクト・ドールついて、まるっと吐いて頂きますわよ?――覚悟はよろしくて?」



こうして私の切実な「普通」への願いは見知らぬどこかで噂され、

今日もこの濃すぎるメンバーと共に粘着剤まみれの祖父により、遠い彼方へと的確に処理パッキングされていくのだった。




ーーーーーーーー

ノアの観測記録:(Log-004B)


【検証】 逃走中の先代様を特定。『とりもちくん』の粘着強度は、老体の自由と毛根の3%を奪う「再起不能」を記録。


【分析】 「普通」を嘆くお嬢様だが、先代様バグを追い詰める際の処理速度は、完全に歴戦のエンジニアである。


【結果】 捕獲完了。現在、食堂にて「全白状」のセットアップ中。



……騎士達の会話ログは、別途保管アーカイブ



【活動報告 / 後書き用】

7話まで、毎日18時に投稿を行う予定です!

しばらくは「タイトル詐欺(?)」のような展開が続くかもしれませんが、ぜひその変化もお楽しみください!


【※調査団のパトロンになりませんか?】

「面白い」「続きが気になる!」と思ってくださった皆様、ぜひブックマークや【星】での評価をお願いしますわ!作者のモチベーションという名の魔力は、皆様の評価でチャージされます。どうかエヴリンたちの物語を応援してください!

ご意見・ご感想も、ドリルを止めてお待ちしております。


(※この物語は作者の妄想・パッション・ロマンにて世界観や魔導具が構築されております。多少のご都合主義は、技術屋の愛嬌としてご理解いただけますと幸いです!)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ