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【07】レギレウス・ファビウス将軍が望んだアンドラ公国

シュール大公が任命された今も二人を自由にさせておけば、家臣たちはなおユーリ公子のもとへ集まる。

捕縛に従わぬのであれば、討ち取ることもやむを得ないと、レギレウス将軍は考えた。


「屋敷から出てきたなら、捕縛のうえ、公城へ連行せよ。

出頭を拒むようであれば、屋敷に火を放ち、討ち取れ。


私も屋敷へ向かう。

それまでに、命令に従うかどうかを確かめておけ」


「承知いたしました」


レギレウス将軍が屋敷へ向かう前に、兵が報告に戻った。

ユーリ公子とレオネル将軍は出頭命令に応じ、屋敷を出たという。

二人は捕らえられ、公城へ連行された。


シュール大公は、連れてこられた二人を見下ろした。


「ユーリ、レオネル。

ようやく二人とも揃ったな。

今の気分はどうだ。

アンドラ公国に対して謀反を企て、失敗したのだ。


多くの重臣をたぶらかし、私を退けて大公位を奪おうとした。

その罪は万死に値する」


「兄上。

あまりにひどい仕打ちではありませんか。

私もレオネル将軍も、謀反など企てておりません。


家臣たちと協議することなく、ティモール王朝へ任命を求められた。

任命書を得たからといって、誰もが納得し、兄上に従えるとは限りません。

そのうえ、異を唱える者を謀反人として捕らえれば、諸外国からの信用も失います。


今なら、まだ間に合います。

私と話し合い、これからのアンドラ公国をどう治めるか、お考えいただけませんか」


「私がおぬしと話し合うだと。

今さら、そのようなことを言うとは笑わせる。


おぬしは大勢の家臣を集め、私に代わって大公になろうとした。

それが謀反でなくて、何だというのだ。


私を支持せず、おぬしのもとへ集まった者たちも同じだ。

おぬしだけを許さぬと言っているのではない。

おぬしに与した家臣も、すべて処分する。


私に従わぬ家臣など、必要ない」


「兄上、そのようなことが許されると思っているのか。

私も、レオネル将軍も、他の家臣たちも、この国のために働いてきた。

兄上に従わぬというだけで、その者たちの命を奪ってよいのか。


私が大公位を望んだことを罪とするなら、処刑するのは私だけでよい。

レオネル将軍も、他の家臣たちも、お許しいただきたい」


レギレウス将軍は、ユーリ公子を見た。

自らの命と引き換えに、家臣たちを救おうとしている。

この言葉を知れば、公子を慕う者は、なお増えるだろう。


大公位を断念させるだけでは済まない。

シュール大公の治世に不満を抱く者にとって、ユーリ公子は、その代わりを務められる存在であり続ける。


「レギレウス将軍。

おぬしも、ユーリだけを処分すればよいと思うか」


シュール大公の問いに、将軍はすぐには答えなかった。


ユーリ公子も、レオネル将軍も、今は捕らわれている。

二人を助けるのであれば、申し出るのは今だった。


「ユーリ公子を支持した者を、すべて処分するべきではございません。

大公に従う者まで失えば、公国を治めることが難しくなります」


「それは、先ほども聞いた。

では、この二人はどうする」


レギレウス将軍は、レオネル将軍へ目を向けた。

長く共に公国を支えてきたが、意見が対立することも多かった。

この男を排除すれば、自分の判断に異を唱える有力な相手を減らせる。


「二人を生かしておけば、再びそのもとへ人が集まります。

また、ユーリ公子を支持した者の中には、多くの家臣から信頼を得ている者もおります。

二人を処分しても、その者たちが中心となれば、再び大公に逆らう動きが起こりかねません。


すべての支持者を処分する必要はございません。

しかし、その中心となった有力な家臣については、二人と共に処分するべきかと存じます」


「そうであろう。

ようやく、おぬしにもわかったか」


シュール大公は、控える兵へ命じた。


「二人を連れていけ。

処刑せよ」


兵がユーリ公子とレオネル将軍の腕を取った。

レギレウス将軍は、その場を動かなかった。


シュール公子の振る舞いは、自分が抑えれば済む。

そう考えて、大公位に就けた。


今、二人の処刑を後押ししたのは、自分だった。


ユーリ公子とレオネル将軍は、謀反を企てたとして処刑された。

さらに、二人を支持した有力な家臣二十名も、レギレウス将軍が処分の対象に選んだ。

軍務や政務を支えてきた者たちだったが、シュール大公は、その名を確かめただけで処刑を命じた。


レギレウス将軍に対抗できる者は、もはや残っていなかった。

シュール大公は政務も軍務も将軍に任せ、大公の名で出される命令の多くは、レギレウス将軍が決めるようになっていた。


公都では、次は誰が処分されるのかという不安が広がっている。

レギレウス将軍が街を通ると、人々は頭を下げ、通り過ぎるまで顔を上げなかった。

将軍にとって、それは逆らう者がいなくなったことを示す光景でもあった。


そうした中、レオネル将軍の屋敷に、処分を免れた家臣たちが集まっているとの報告が届いた。

レギレウス将軍は、シュール大公の執務室へ向かった。


「シュール大公、レオネル将軍の屋敷に、今回の処分を免れた家臣たちが出入りしております。

将軍の娘のもとへ集まっているようですが、何を話しているかまでは、わかっておりません。

どのように対処いたしましょうか」


「その娘は、何歳になる」


レギレウス将軍は、嫌な予感を覚えた。


「二十歳です」


「公城へ呼び出せ。

私の前に連れてこい」


「どのような処分をお考えでしょうか」


「今回は、謀反人を数多く処刑した。

民も、これ以上の処刑は望んでおらぬだろう。


その娘は、私が妾として迎える。

父親の罪を娘にまで問わぬと示せば、残った家臣たちも安心する。

娘が私に従えば、家臣たちも逆らいにくくなるだろう。


よいな、レギレウス」


シュール大公は、返答を待たずに続けた。


「娘には、私に従うのであれば、父親に仕えた者たちをこれ以上処分せぬと伝えよ」


レギレウス将軍は頭を下げた。


「承知いたしました」


父を処刑した男の妾となることを、娘がどう受け止めるか。

シュール大公が、それを考えているとは思えなかった。


それでも、レギレウス将軍は何も言わなかった。

残った家臣たちを従わせる手段としては、使える。

娘が受け入れさえすれば、これ以上の処刑をせずに済むだろう。


政務と軍務は、自分が取り仕切る。

シュール大公には、その望みをかなえてやればよい。


レギレウス将軍が思い描いていたアンドラ公国は、こうして形になった。

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