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【06】シュール・アンドラ大公の誕生

時を四日さかのぼる。

アレクシス大公の死から八日目。


「遅い、遅すぎる。

レギレウス将軍、まだティモール王朝から任命書は届かぬのか」


「往復六百キロございます。

使者を急がせても、先方の判断に時間がかかれば、返書は遅れます」


「そのような悠長なことを言っている場合か。

ユーリのもとには、続々と人が集まっている。

この公城内で、表立って支持者を集めているのだぞ。


おぬしは、何をやっている。

これでは、相手の思うままではないか。

早急に何とかせよ」


「申し訳ございません。

家臣たちへの働きかけは続けております。

しかし、今はユーリ公子を支持する者の方が、はるかに多い状況です」


「なぜだ。

二日前の父上の葬儀は、私が取り仕切った。

長男の私が後を継ぐのが当然ではないか。

おぬしは、そのことを家臣たちに伝えておらぬのか」


「伝えております。

ただ、家臣たちにも、それぞれの思惑がございます。

以前からユーリ公子を支持していた者だけではありません。

今の形勢を見て、ユーリ公子が大公になると考え、その側へ加わる者もおります」


「では、任命書を待つ間にも、ユーリを支持する者が増えていくということか」


「その恐れはございます」


「だから、何とかせよと言っておる。

おぬしに任せているのに、なぜユーリが大公にふさわしいという声ばかりが大きくなるのだ。


私を支持する家臣を集めろ。

任命書が届くまで、このまま待っているつもりか」


「まだ去就を決めていない者にも働きかけております。

しかし、こちらへの支持を約束する者は、なかなかおりません」


「では、先に報酬を約束すればよい。

ユーリを支持する重臣の領地を、こちらについた者に与えるのだ。

まだ去就を決めていない者なら、それで動くだろう。

他人の領地を与えるのだから、こちらの懐は痛まぬ」


「報酬を約束することは、支持を得る手段の一つです。

しかし、誰がこちらにつくかわからぬうちに、その話を持ちかけるのは危険です。

ユーリ公子の側へ、話が伝わる恐れがございます」


「伝わったところで、何が困る。

私につけば、領地を失わずに済むではないか」


「領地を奪うつもりだと知られれば、相手も黙ってはおりますまい。

公子に従っても領地を失うと考え、ユーリ公子のもとで結束する恐れがございます。


支持者を切り崩すどころか、抵抗する理由を与えることになります」


「では、おぬしはどうすればよいと言うのだ。

このまま任命書が届かなければ、私の立場はどうなる」


「幸い、ティモール王朝へ使者を送ったことを知る者は、まだ少数です。

ユーリ公子の側にも、そのことを知って動いている様子は見られません。


あと二、三日、お待ちください。

任命書が届けば、公子は正式に大公位に就かれます。

家臣たちにも、もはや誰を支持するかではなく、大公に従うかどうかを問うことができます」


「今はユーリを支持していても、私に従わせられるということか」


「はい。

ユーリ公子を支持する者も、ティモール王朝の任命を無視することは容易ではありますまい」


「では、あと三日だ。

それまでに届かなければ、おぬしはどうするつもりか、考えておけ」


三日後。

アレクシス大公の死から十一日目。


呼び出しを受けたレギレウス将軍が執務室に入ると、シュール公子は喜色を浮かべて待っていた。


「遅かったな、レギレウス将軍。

先ほど、ティモール王朝から任命書が届いた」


レギレウス将軍は、机に置かれた任命書を手に取った。

そこにシュール公子の名があることを確かめ、頭を下げる。


「おめでとうございます。

シュール大公」


「それで、この後はどうするつもりだ。

先に言っておくが、ユーリを支持した者たちを許すつもりはないぞ。


当然であろう。

祖国を裏切ったのだからな」


シュール大公は凄惨な笑みを浮かべた。

長く仕えてきたレギレウス将軍も、そのような表情を見るのは初めてだった。


「まずは、大公のご命令として、公城の出入りを制限し、公都の門を固めます。

そのうえで、ユーリ公子とレオネル将軍を捕らえます」


「レギレウス将軍、私の言葉が聞こえなかったのか。

二人だけではない。

ユーリを支持した者は、誰一人許すつもりはないと言っておるのだ」


「承知しております。

しかし、支持した者をすべて処分すれば、政務にも軍務にも支障が出ます。

追い詰められた者たちが、抵抗するかもしれません。


まずは、ユーリ公子とレオネル将軍を捕らえ、残る者たちが大公に従うかを確かめるべきです。

処分の範囲は、その後にお決めになっても遅くはありません」


「わかった。

細かいことは、おぬしに任せる。

だが、従えば許されると思わせるなよ。

私の怒りが、それで収まるわけではない」


レギレウス将軍は、直ちに兵へ指示を出した。

しかし、公城の出入りを押さえるより先に、捕縛の命令が漏れた。


やがて、一人の兵が報告に戻った。

ユーリ公子は公城を離れ、レオネル将軍の屋敷へ逃れたという。


「それで、屋敷は包囲しておるのだな」


「はい。

包囲は完了しております。

ただ、ユーリ公子とレオネル将軍を相手に、どこまで踏み込んでよいものか、判断できませんでした。

ご指示をお願いいたします」


レギレウス将軍は、用意していた書状を差し出した。


「これを屋敷の者に渡せ。

ユーリ公子とレオネル将軍への出頭命令だ」


兵は書状に目を通し、将軍へ顔を上げた。


「ここには、お二人が謀反を企てたと記されております。

そのような動きがあったのでしょうか」


「疑いではない。

二人は謀反を企てたのだ。

それゆえに、捕らえねばならぬ」



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