第43章 始まりを射つ
電磁カタパルト、二射目。
今度、宇宙へ射ち出されるのは初です。
命令でも、荻野博士の遺志でもなく、彼女自身が選んだ出撃が始まります。
電磁カタパルトの二射目は、最初より静かだった。
敵は撃ってこない。
島の住民が射出路の上に立ち、各国の監視映像へ顔を晒していた。撃てば、もう救援を名乗れない。
初は四号機の中で、靴を脱いでいた。
操縦ペダルの冷たさを、足の裏で確かめる。
『最終確認。中止するなら今です』
白瀬の声。
「中止しません」
『命令ではありません』
「知っています」
『荻野博士の遺志でもありません』
初は少し間を置いた。
「それも、知っています」
射出クレードルが四号機の体を掴む。
黒崎は最後まで許可書へ署名しなかった。代わりに、無許可出撃の責任者欄へ自分の名を書いた。
榊原は軌道計算を手でやり直した。
雨宮は帰還補助語を録音せず、生の声で送った。
『初さん。灯台は、迎えには来ません』
「はい」
『でも、帰る方向は示します』
「はい」
充填が始まる。
初は胸ポケットの小さな鍵へ触れた。振り子時計のぜんまい鍵。明日、巻くために持ってきた。
『足』
固定具が締まる。
『灯台』
海食崖のハッチが開く。
『帰路』
星が見えた。
『あなたの名前は』
「荻野初」
電磁加速。
電子が死ぬ。
父の声も、命令も、地上の泣き声も消えた。
残ったのは、自分の心臓だった。
四号機は夜空へ射ち出される。
始まりは、誰かに始めさせられるものではない。
初は自分の手で、遅れて噴く右脚を押さえ込んだ。
機体が月へ向く。
胸ポケットで、ぜんまい鍵が一度鳴った。
お読みいただきありがとうございます。
第43章「始まりを射つ」でした。
初は父の声も地上の命令も消えた無音の中で、自分の心臓を頼りに機体を月へ向けました。
胸ポケットには、明日使うためのぜんまい鍵があります。次章、四機と烈火が黒色域へ向かいます。




