第38章 奪う者たち
救援物資と白旗を掲げ、国際部隊がジェネシス・アイルへ上陸します。
彼らが欲しいのは、人を宇宙へ送る技術と、その鍵である初。
地下で眠る四号機を巡る戦いが始まります。
ジェネシス・アイルの地上で、白旗が上がった。
地下では誰も信じなかった。
世界共同暫定機構の部隊は、救援物資を積んで上陸した。食料、医薬品、発電機。島の住民が列を作った。その後ろを、武装した技術班が歩いてくる。
狙いは最初から地下だった。
「第七区画を共同管理へ移す」
指揮官は丁寧な日本語で言った。
「人類の遺産を、一国が独占すべきではない」
その声に、嘘はなかった。
指揮官の国も、電子を焼かれ、港を失っている。彼らもまた、帰る場所を探していた。だからこそ、ここを欲しがる。
敵意ではない。恐怖だった。恐怖は、敵意よりたちが悪い。
黒崎は通路の中央に立った。
「その人類に、初も入っているか」
「もちろん」
「なら、銃を向けるな」
技術班の銃口は、初の胸を向いていた。
誰かが安全装置を外した。
その小さな音で、島の空気が変わった。
最初に動いたのは初だった。壁の蓋を開け、古いレバーを倒す。
隔壁が落ちた。
銃声。
弾丸が閉じかけた扉を叩く。黒崎が初を床へ伏せさせ、白瀬が紙テープ受信機を抱えて走った。
「どこへ行く!」
「四号機のところです」
「あれは動かん!」
「だから直します」
地下のさらに下、旧試験区画。
連華バーニアン四号機「初」は、片膝をついていた。脚部バーニアが固着し、左腕は外されている。胸部装甲には、荻野の字で一行だけあった。
この機体を完成させるな。
白瀬は息を呑んだ。
「罠ですか」
「違う」
初は工具箱を開いた。
「先生は、自分で完成させるなと言ったんです」
油に黒くなった指が、固着した弁を探り当てる。
「乗る人間が、自分で最後を決めろって」
隔壁の向こうで爆発がした。
奪う者たちが近づいてくる。
だが、足音は途中で乱れた。
通路に、島の老人が一人、座り込んでいた。配られた毛布を抱えたままだった。
どけ、と兵が言う。老人は動かない。
一人が、二人になった。物資を受け取った手が、そのまま床に並んでいく。
銃は、座った人間を踏み越えられなかった。まだ、踏み越えられなかった。
初はレンチへ体重をかけた。動かない。もう一度。手の皮が剥けた。
三度目で、弁が鳴いた。
四号機の脚から、古い油が一滴、落ちた。
眠っていた足が、わずかに動いた。
お読みいただきありがとうございます。
第38章「奪う者たち」でした。
「この機体を完成させるな」。それは封印ではなく、乗る者へ最後の判断を渡すための言葉でした。
奪いに来た者たちもまた、港を焼かれ、帰る場所を失っていました。敵意ではなく恐怖です。その銃を止めたのは、通路に座り込んだ島の住民でした。
初の手で四号機の足が動いた一方、月では澪標の自動防衛が目を覚まします。




