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大魔王ビックベンの伝説・その腹痛は世界を救う  作者: 水源


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21/22

邪神、鉱山で働く~働いた報酬はパン二十個~

 ――翌朝。


 勇者パーティの宿舎。


「金を稼ぐぞ!」


 ムーニーが拳を握った。


「おお!」


 グーンが応える。


「今日は昨日より効率のいい依頼を探す」


 メリーズが依頼書を広げる。


「薬草採集」


「却下」


「街道警備」


「却下」


「荷物運び」


「却下」


「鉱山採掘」


「…………」


 全員が依頼書を見る。


「これだ」


 ビッグ・ベンが即答した。


「鉱山?」


 ティベリウスが首を傾げる。


「報酬は?」


「金貨十五枚」


「昨日より多いですね」


「しかも」


 グーンが依頼書を読む。


「採掘した鉱石の一部を報酬として受け取れるらしい」


「それはいいですね」


 ポコが頷く。


「料理道具も買えます!」


 メリーズも頷く。


「魔法研究の材料も買えます!」


 オヤスミが微笑む。


「薬草も買えますね」


 ムーニーが振り返る。


「邪神は?」


『鉱山か』


「どうだ?」


『得意だ』


 全員が。


「…………」


 邪神を見る。


『山は知っている』


「お前、山を知ってるのか?」


『昔は山を一つ食べた』


「食べた!?」


『腹が減っていた』


「…………」


 グーンが頭を抱える。


「いやいやいや!」


『なんだ?』


「山を食べるな!」


『腹が減っていた』


「理由になってない!」


 ティベリウスが笑う。


「邪神様」


『なんだ?』


「今日は食べないでくださいね」


『分かった』


「絶対ですよ」


『分かった』


「採掘だけですよ」


『分かった』


「あるものを勝手に食べるのも駄目です」


『…………分かった』


 グーンが指を突きつける。


「特に山!」


『…………分かった』


「本当に分かってるんだろうな?」


『分かっている』


「ならいいけど……」


     ◆


 鉱山。


 山の麓に、一軒の採掘所があった。


「ここです」


 依頼主の鉱山主が説明する。


「最近、鉱夫が足りなくて困っているんです」


「任せてください!」


 ムーニーが胸を張る。


「我々は勇者パーティです!」


「…………」


 鉱山主は。


 勇者を見る。


 魔王を見る。


 賢者を見る。


 聖女を見る。


 邪神の巫女を見る。


 そして。


 山の向こうから顔を出している邪神を見る。


「…………」


「どうしました?」


「……採掘って」


「はい」


「そんなに大人数でやるものなんですか?」


「普通はもっと少ないですね」


 ティベリウスが答えた。


「ですが」


 邪神を見る。


「今日は効率重視です」


「…………」


 鉱山主は。


 何も言わなかった。


     ◆


「では、掘るぞ!」


 ビッグ・ベンがツルハシを持つ。


「余に任せろ!」


 ――ドゴォン!


 岩盤が砕けた。


「…………」


「おお!」


 ムーニーが驚く。


「さすが大魔王!」


「ふっ」


 ビッグ・ベンが胸を張る。


「この程度、造作も――」


 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。


 横から。


 邪神が指一本で岩盤を押した。


 ――ズズズ……。


 岩が崩れる。


 そして。


 山に巨大な穴が開いた。


「…………」


 ビッグ・ベンがツルハシを見る。


 そして。


 邪神を見る。


「余の出番がない」


「大魔王」


 グーンが呆れた顔で言う。


「張り合う相手を間違えてるぞ」


「…………」


「というか、指一本で山に穴を開ける奴とツルハシで張り合うな」


 ビッグ・ベンが黙り込む。


「…………余は大魔王だぞ」


「知ってるよ!」


 グーンが叫ぶ。


「でも相手は邪神なんだよ!」


     ◆


 その横で。


 鉱山主が青ざめていた。


「ま、待ってください!」


「ん?」


 ムーニーが振り返る。


「どうしました?」


「それ以上は駄目です!」


『なぜだ?』


 邪神が首を傾げる。


「掘ればいいというものではありません!」


『そうなのか?』


「そうです!」


 鉱山主が必死に説明する。


「鉱山は掘り方を間違えると坑道が崩れます! それに支柱を立てて、採掘する場所を順番に決めて――」


『だが、我なら崩れないように掘れるぞ』


「…………」


 鉱山主が固まる。


「……本当に?」


『できる』


「…………」


 鉱山主は。


 もう一度、邪神を見る。


 そして。


「……では、お願いします」


「いいのか!?」


「他に方法がありません!」


     ◆


 邪神が。


 岩盤を慎重に削る。


 ――コツ。


 ――コツ。


 ――コツ。


「…………」


 巨大な邪神が。


 爪の先で。


 小さな岩を一つずつ取り除いていく。


『…………』


 邪神は真剣だった。


「邪神様」


『なんだ?』


「もう少し右です」


『ここか?』


「はい。その奥です」


『分かった』


 ――コツ。


 ――コツ。


 すると。


 中から。


 青く輝く鉱石が現れた。


「これは……」


 鉱山主が駆け寄る。


「魔晶石だ!」


「高いんですか?」


「高いどころではありません!」


 鉱山主が震える。


「これ一つで金貨五枚はします!」


「…………」


 全員が。


 邪神を見る。


『…………?』


「邪神」


『なんだ?』


「もっと掘れ」


『分かった』


 ――コツ。


 ――コツ。


 ――コツ。


 邪神は慎重に採掘を続ける。


「おお……」


 鉱山主が目を輝かせる。


「まだあります!」


「もっといけるか?」


『いける』


「よし!」


 ムーニーが拳を握る。


「頼むぞ!」


『分かった』


 ――コツ。


 ――コツ。


 ――コツ。


 しばらくして。


 邪神の足元には。


 魔晶石だけでなく。


 銀鉱石。


 鉄鉱石。


 その他の鉱石まで積み上がっていった。


「すごい……」


 鉱山主が呟く。


「こんなに短時間で……」


 すると。


『まだ掘れるぞ』


 邪神が言った。


「…………」


 鉱山主の顔が引きつる。


「いえ」


『?』


「もう十分です!」


『だが、まだある』


「それ以上掘ったら、今度は鉱石を置く場所がありません!」


「…………」


 全員が。


 積み上がった鉱石を見る。


 確かに。


 すでに山になっていた。


「あと、それ以上掘ったら鉱山が枯れるだろ!」


 グーンが突っ込む。


『…………そうか』


 邪神が残念そうに肩を落とす。


「邪神様」


『なんだ?』


「今日は十分働きましたよ」


『…………』


「とても上手でした」


『…………』


 邪神の瞳が輝いた。


『本当か?』


「はい」


『もっと頑張ったぞ』


「ええ」


『では、褒めてくれ』


「…………」


 ティベリウスが笑う。


「よく頑張りました」


『…………!』


「今日はパンをいっぱい食べてもいいですよ」


『それは嬉しい!』


 邪神が嬉しそうに笑った。


「…………」


 グーンが呟く。


「褒めると働くのか……」


 邪神が振り返る。


『そうだ』


「自分で言うな!」


『…………』


「いや、褒めれば働いてくれるなら助かるけど!」


『もっと褒めてくれ』


「調子に乗るな!」


     ◆


 数時間後。


 鉱山の前。


 大量の鉱石が積み上がっていた。


「すごい……」


 鉱山主が言葉を失う。


「一日で……?」


 ムーニーが笑う。


「邪神がいますから」


「…………」


 鉱山主は。


 邪神を見る。


 そして。


 深々と頭を下げた。


「ありがとうございます!」


『…………』


 邪神も頭を下げる。


 ――ゴゴォン。


 地面が揺れた。


「…………」


「邪神様」


『すまん』


「頭を下げすぎです!」


『分かった』


「地面が揺れてるから!」


『分かった』


     ◆


 報酬。


 金貨十五枚。


 さらに。


 魔晶石。


 銀鉱石。


 鉄鉱石。


 その他の鉱石。


「すごいですね」


 ティベリウスが感心する。


「これならしばらくは大丈夫そうです」


「いや」


 ムーニーが鉱石を見ながら言う。


「これ、売ったらかなりの金になるぞ」


「本当ですか?」


「ああ」


 グーンが笑う。


「昨日の金貨十枚とは比べものにならない」


 ポコが喜ぶ。


「新しい鍋が買えます!」


 メリーズが目を輝かせる。


「魔法研究用の触媒も!」


 オヤスミも笑う。


「薬も買えますね」


 ビッグ・ベンが腕を組む。


「余は新しい鎧が欲しい」


 邪神が手を挙げる。


『我は?』


「…………」


 ムーニーが考える。


「お前は何が欲しい?」


『…………』


 邪神は。


 真剣に考えた。


『パン』


「…………」


 ティベリウスが笑う。


「何個ですか?」


『…………二十個』


「増えましたね」


『働いたからな』


「いや、さっきまで十五個くらいじゃなかったか?」


 グーンが突っ込む。


『二十個だ』


「交渉が雑すぎる!」


『頑張った』


「それは認めるけど!」


 ムーニーが財布を見る。


 そして。


「……まあ」


「今日はいいか」


『本当か!?』


「ああ」


『二十個食べていいのか!?』


「いいぞ」


『…………』


 邪神が。


 嬉しそうに笑った。


『働くのは楽しいな』


「…………」


 全員が笑った。


     ◆


 その夜。


 宿舎。


 テーブルの上には。


 新しい鍋。


 新しい食器。


 魔法研究用の素材。


 薬草。


 そして。


 大量のパン。


「…………」


 ティベリウスが。


 パンを見る。


『二十個だ』


「はい」


『我は頑張った』


「はい」


『だから二十個だ』


「はい」


 ティベリウスがパンを並べる。


「一、二、三……」


 ムーニーが笑う。


「本当に二十個食べる気か?」


『食べる』


「胃袋どうなってるんだ?」


『邪神だからな』


「便利な言葉だな……」


 グーンが呆れる。


「便利すぎるだろ、それ!」


『邪神だからな』


「二回言うな!」


 ティベリウスが笑う。


「では、いただきます」


『いただきます』


 勇者パーティも。


「いただきます!」


 声を揃えた。


 その食卓を見て。


 ティベリウスは思う。


 かつて。


 自分は邪神のために働いていた。


 世界の終焉のために。


 誰かの生活を奪うために。


 誰かの明日を壊すために。


 今は違う。


 仲間たちと一緒に働き。


 仲間たちと一緒に稼ぎ。


 仲間たちと一緒に食べる。


 新しい鍋を買うために。


 研究を続けるために。


 薬を買うために。


 そして。


 パンを二十個買うために。


 ――同じ「働く」という行為でも。


 意味は。


 まったく違っていた。


「…………」


 ティベリウスが笑う。


「明日も頑張りましょう」


 ムーニーが頷く。


「ああ」


 グーンも笑う。


「もっと稼ぐぞ」


 メリーズが拳を握る。


「研究費を!」


 ポコが手を挙げる。


「食材を!」


 オヤスミが笑う。


「薬を!」


 ビッグ・ベンが叫ぶ。


「新しい鎧を!」


 そして。


 邪神が。


『パンを!』


「…………」


 グーンが頭を抱えた。


「お前だけ目的が単純すぎる!」


 宿舎に笑い声が響く。


 勇者パーティの金策生活は。


 まだ始まったばかりだった。

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