邪神、鉱山で働く~働いた報酬はパン二十個~
――翌朝。
勇者パーティの宿舎。
「金を稼ぐぞ!」
ムーニーが拳を握った。
「おお!」
グーンが応える。
「今日は昨日より効率のいい依頼を探す」
メリーズが依頼書を広げる。
「薬草採集」
「却下」
「街道警備」
「却下」
「荷物運び」
「却下」
「鉱山採掘」
「…………」
全員が依頼書を見る。
「これだ」
ビッグ・ベンが即答した。
「鉱山?」
ティベリウスが首を傾げる。
「報酬は?」
「金貨十五枚」
「昨日より多いですね」
「しかも」
グーンが依頼書を読む。
「採掘した鉱石の一部を報酬として受け取れるらしい」
「それはいいですね」
ポコが頷く。
「料理道具も買えます!」
メリーズも頷く。
「魔法研究の材料も買えます!」
オヤスミが微笑む。
「薬草も買えますね」
ムーニーが振り返る。
「邪神は?」
『鉱山か』
「どうだ?」
『得意だ』
全員が。
「…………」
邪神を見る。
『山は知っている』
「お前、山を知ってるのか?」
『昔は山を一つ食べた』
「食べた!?」
『腹が減っていた』
「…………」
グーンが頭を抱える。
「いやいやいや!」
『なんだ?』
「山を食べるな!」
『腹が減っていた』
「理由になってない!」
ティベリウスが笑う。
「邪神様」
『なんだ?』
「今日は食べないでくださいね」
『分かった』
「絶対ですよ」
『分かった』
「採掘だけですよ」
『分かった』
「あるものを勝手に食べるのも駄目です」
『…………分かった』
グーンが指を突きつける。
「特に山!」
『…………分かった』
「本当に分かってるんだろうな?」
『分かっている』
「ならいいけど……」
◆
鉱山。
山の麓に、一軒の採掘所があった。
「ここです」
依頼主の鉱山主が説明する。
「最近、鉱夫が足りなくて困っているんです」
「任せてください!」
ムーニーが胸を張る。
「我々は勇者パーティです!」
「…………」
鉱山主は。
勇者を見る。
魔王を見る。
賢者を見る。
聖女を見る。
邪神の巫女を見る。
そして。
山の向こうから顔を出している邪神を見る。
「…………」
「どうしました?」
「……採掘って」
「はい」
「そんなに大人数でやるものなんですか?」
「普通はもっと少ないですね」
ティベリウスが答えた。
「ですが」
邪神を見る。
「今日は効率重視です」
「…………」
鉱山主は。
何も言わなかった。
◆
「では、掘るぞ!」
ビッグ・ベンがツルハシを持つ。
「余に任せろ!」
――ドゴォン!
岩盤が砕けた。
「…………」
「おお!」
ムーニーが驚く。
「さすが大魔王!」
「ふっ」
ビッグ・ベンが胸を張る。
「この程度、造作も――」
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
横から。
邪神が指一本で岩盤を押した。
――ズズズ……。
岩が崩れる。
そして。
山に巨大な穴が開いた。
「…………」
ビッグ・ベンがツルハシを見る。
そして。
邪神を見る。
「余の出番がない」
「大魔王」
グーンが呆れた顔で言う。
「張り合う相手を間違えてるぞ」
「…………」
「というか、指一本で山に穴を開ける奴とツルハシで張り合うな」
ビッグ・ベンが黙り込む。
「…………余は大魔王だぞ」
「知ってるよ!」
グーンが叫ぶ。
「でも相手は邪神なんだよ!」
◆
その横で。
鉱山主が青ざめていた。
「ま、待ってください!」
「ん?」
ムーニーが振り返る。
「どうしました?」
「それ以上は駄目です!」
『なぜだ?』
邪神が首を傾げる。
「掘ればいいというものではありません!」
『そうなのか?』
「そうです!」
鉱山主が必死に説明する。
「鉱山は掘り方を間違えると坑道が崩れます! それに支柱を立てて、採掘する場所を順番に決めて――」
『だが、我なら崩れないように掘れるぞ』
「…………」
鉱山主が固まる。
「……本当に?」
『できる』
「…………」
鉱山主は。
もう一度、邪神を見る。
そして。
「……では、お願いします」
「いいのか!?」
「他に方法がありません!」
◆
邪神が。
岩盤を慎重に削る。
――コツ。
――コツ。
――コツ。
「…………」
巨大な邪神が。
爪の先で。
小さな岩を一つずつ取り除いていく。
『…………』
邪神は真剣だった。
「邪神様」
『なんだ?』
「もう少し右です」
『ここか?』
「はい。その奥です」
『分かった』
――コツ。
――コツ。
すると。
中から。
青く輝く鉱石が現れた。
「これは……」
鉱山主が駆け寄る。
「魔晶石だ!」
「高いんですか?」
「高いどころではありません!」
鉱山主が震える。
「これ一つで金貨五枚はします!」
「…………」
全員が。
邪神を見る。
『…………?』
「邪神」
『なんだ?』
「もっと掘れ」
『分かった』
――コツ。
――コツ。
――コツ。
邪神は慎重に採掘を続ける。
「おお……」
鉱山主が目を輝かせる。
「まだあります!」
「もっといけるか?」
『いける』
「よし!」
ムーニーが拳を握る。
「頼むぞ!」
『分かった』
――コツ。
――コツ。
――コツ。
しばらくして。
邪神の足元には。
魔晶石だけでなく。
銀鉱石。
鉄鉱石。
その他の鉱石まで積み上がっていった。
「すごい……」
鉱山主が呟く。
「こんなに短時間で……」
すると。
『まだ掘れるぞ』
邪神が言った。
「…………」
鉱山主の顔が引きつる。
「いえ」
『?』
「もう十分です!」
『だが、まだある』
「それ以上掘ったら、今度は鉱石を置く場所がありません!」
「…………」
全員が。
積み上がった鉱石を見る。
確かに。
すでに山になっていた。
「あと、それ以上掘ったら鉱山が枯れるだろ!」
グーンが突っ込む。
『…………そうか』
邪神が残念そうに肩を落とす。
「邪神様」
『なんだ?』
「今日は十分働きましたよ」
『…………』
「とても上手でした」
『…………』
邪神の瞳が輝いた。
『本当か?』
「はい」
『もっと頑張ったぞ』
「ええ」
『では、褒めてくれ』
「…………」
ティベリウスが笑う。
「よく頑張りました」
『…………!』
「今日はパンをいっぱい食べてもいいですよ」
『それは嬉しい!』
邪神が嬉しそうに笑った。
「…………」
グーンが呟く。
「褒めると働くのか……」
邪神が振り返る。
『そうだ』
「自分で言うな!」
『…………』
「いや、褒めれば働いてくれるなら助かるけど!」
『もっと褒めてくれ』
「調子に乗るな!」
◆
数時間後。
鉱山の前。
大量の鉱石が積み上がっていた。
「すごい……」
鉱山主が言葉を失う。
「一日で……?」
ムーニーが笑う。
「邪神がいますから」
「…………」
鉱山主は。
邪神を見る。
そして。
深々と頭を下げた。
「ありがとうございます!」
『…………』
邪神も頭を下げる。
――ゴゴォン。
地面が揺れた。
「…………」
「邪神様」
『すまん』
「頭を下げすぎです!」
『分かった』
「地面が揺れてるから!」
『分かった』
◆
報酬。
金貨十五枚。
さらに。
魔晶石。
銀鉱石。
鉄鉱石。
その他の鉱石。
「すごいですね」
ティベリウスが感心する。
「これならしばらくは大丈夫そうです」
「いや」
ムーニーが鉱石を見ながら言う。
「これ、売ったらかなりの金になるぞ」
「本当ですか?」
「ああ」
グーンが笑う。
「昨日の金貨十枚とは比べものにならない」
ポコが喜ぶ。
「新しい鍋が買えます!」
メリーズが目を輝かせる。
「魔法研究用の触媒も!」
オヤスミも笑う。
「薬も買えますね」
ビッグ・ベンが腕を組む。
「余は新しい鎧が欲しい」
邪神が手を挙げる。
『我は?』
「…………」
ムーニーが考える。
「お前は何が欲しい?」
『…………』
邪神は。
真剣に考えた。
『パン』
「…………」
ティベリウスが笑う。
「何個ですか?」
『…………二十個』
「増えましたね」
『働いたからな』
「いや、さっきまで十五個くらいじゃなかったか?」
グーンが突っ込む。
『二十個だ』
「交渉が雑すぎる!」
『頑張った』
「それは認めるけど!」
ムーニーが財布を見る。
そして。
「……まあ」
「今日はいいか」
『本当か!?』
「ああ」
『二十個食べていいのか!?』
「いいぞ」
『…………』
邪神が。
嬉しそうに笑った。
『働くのは楽しいな』
「…………」
全員が笑った。
◆
その夜。
宿舎。
テーブルの上には。
新しい鍋。
新しい食器。
魔法研究用の素材。
薬草。
そして。
大量のパン。
「…………」
ティベリウスが。
パンを見る。
『二十個だ』
「はい」
『我は頑張った』
「はい」
『だから二十個だ』
「はい」
ティベリウスがパンを並べる。
「一、二、三……」
ムーニーが笑う。
「本当に二十個食べる気か?」
『食べる』
「胃袋どうなってるんだ?」
『邪神だからな』
「便利な言葉だな……」
グーンが呆れる。
「便利すぎるだろ、それ!」
『邪神だからな』
「二回言うな!」
ティベリウスが笑う。
「では、いただきます」
『いただきます』
勇者パーティも。
「いただきます!」
声を揃えた。
その食卓を見て。
ティベリウスは思う。
かつて。
自分は邪神のために働いていた。
世界の終焉のために。
誰かの生活を奪うために。
誰かの明日を壊すために。
今は違う。
仲間たちと一緒に働き。
仲間たちと一緒に稼ぎ。
仲間たちと一緒に食べる。
新しい鍋を買うために。
研究を続けるために。
薬を買うために。
そして。
パンを二十個買うために。
――同じ「働く」という行為でも。
意味は。
まったく違っていた。
「…………」
ティベリウスが笑う。
「明日も頑張りましょう」
ムーニーが頷く。
「ああ」
グーンも笑う。
「もっと稼ぐぞ」
メリーズが拳を握る。
「研究費を!」
ポコが手を挙げる。
「食材を!」
オヤスミが笑う。
「薬を!」
ビッグ・ベンが叫ぶ。
「新しい鎧を!」
そして。
邪神が。
『パンを!』
「…………」
グーンが頭を抱えた。
「お前だけ目的が単純すぎる!」
宿舎に笑い声が響く。
勇者パーティの金策生活は。
まだ始まったばかりだった。




