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大魔王ビックベンの伝説・その腹痛は世界を救う  作者: 水源


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20/22

やったね!ペットが増えたよ

 ――その翌朝。


 勇者パーティの宿舎、その裏庭。


「…………」


 ムーニーは無言で立ち尽くしていた。


「…………」


 グーンも。


「…………」


 メリーズも。


「…………」


 オヤスミも。


 そして――。


「…………」


 ポコも。


 全員が、庭の中央に視線を向けている。


 そこには。


 ――巨大な魔獣がいた。


 全長、五メートル。


 四本の脚。


 岩のような皮膚。


 口から覗く巨大な牙。


 額には一本の角。


 つい昨日まで森の奥で人間を襲い、騎士団ですら討伐を諦めていたという大型魔獣。


 その名も――。


「グルルル……」


 ――グラン・ベヒモス。


 魔獣の中でも特に危険な上位種だった。


「……なあ」


 ムーニーが呟く。


「どうしてこいつがここにいる?」


「邪神が捕まえてきたからです」


 メリーズが答えた。


「それは分かってる」


「では、問題ありませんね」


 のほほんと言うポコに、グーンが食いつく。


「問題しかないだろ!」


 昨日。


 結局、邪神は捕らえたこの魔獣を家まで引きずって帰ってきた。


 勇者パーティ全員が絶句したのは、言うまでもない。


「で?」


 ムーニーが魔獣を見る。


「どうするんだ?」


『飼う』


「…………」


「…………」


「…………」


 全員が黙った。


『……何?』


 邪神が首を傾げる。


「いや」


 ムーニーが額を押さえる。


「お前、魔獣を飼うって言ってるのか?」


『そうだ』


「大型魔獣だぞ?」


『知っている』


「人間を襲うぞ?」


『私を襲わない』


「……なんで?」


『餌をやった』


「それだけ!?」


 邪神は魔獣の頭を撫でた。


 巨大な手ではなく。


 ――指一本で。


『よしよし』


「グルル……」


 すると。


 あの恐ろしい魔獣が。


 目を細めた。


「…………」


「…………」


「…………」


 全員、固まった。


「……懐いてる?」


 ポコが呟く。


「どう見ても懐いてますね」


 オヤスミが答えた。


「昨日まで人間を食べてた魔獣が?」


「はい」


「餌をやっただけで?」


「はい」


「…………」


 ムーニーは頭を抱えた。


「邪神の餌付け能力、どうなってるんだよ……」


 そのとき。


「グルルル!」


 魔獣が突然、邪神の前に何かを置いた。


「ん?」


 邪神が見る。


 それは――。


 巨大な鹿だった。


 まだ息がある。


「…………」


 ムーニーの顔が引きつる。


「……おい」


『なんだ?』


「それ、もしかして――」


『贈り物だろう』


「贈り物!?」


 魔獣は嬉しそうに尻尾を振っている。


 どうやら本気で感謝を伝えているらしい。


『なるほど』


 邪神は頷いた。


『礼儀正しいな』


「そこじゃない!」


 今度はグーンが叫んだ。


「その鹿どうするんだよ!」


『食べる』


「お前が!?」


『いや』


 邪神は魔獣を見る。


『こいつが』


「やっぱり魔獣じゃねえか!」


 しかし。


 魔獣は鹿を咥えると、庭の隅へ持っていった。


 そして。


 ――むしゃむしゃ。


「…………」


「…………」


「…………」


 全員、沈黙する。


「……まあ」


 グーンが腕を組んだ。


「邪神の言うことを聞いてるなら、悪くないんじゃないか?」


「本気で言ってるのか?」


「少なくとも俺たちより忠実だ」


「否定できないのが腹立つ……」


 その横で。


「グルル」


 魔獣が食事を終えた。


 そして邪神のところへ戻ってくる。


『よしよし』


「グルルル……」


 また撫でられている。


 完全にペットだった。


 そこへ。


 ポコが恐る恐る近づいた。


「……触っていい?」


『好きにしろ』


「じゃあ……」


 ポコが魔獣の頭に手を伸ばす。


「よしよし……」


「…………」


「…………」


「…………」


 魔獣は動かない。


「……触れた!」


 ポコが目を輝かせる。


「すごい!」


 もう一度撫でる。


「よしよし!」


「グルル……」


 魔獣が目を細める。


「かわいい!」


「いや、どう見ても怖いだろ」


 ムーニーが突っ込もうとした。


 だが、その前にグーンが口を挟む。


「まあ、本人がそう思ってるならいいだろ」


「お前までそっち側かよ!」


 ポコは嬉しそうに魔獣を撫で続ける。


「名前をつけましょう!」


「名前?」


 全員が魔獣を見る。


「……名前か」


 メリーズが考える。


「大型魔獣だから……ビッグ?」


「安直すぎます」


 オヤスミが却下する。


「じゃあ、ベン」


「誰だよ」


 グーンが即座に突っ込む。


「……ムーニー」


「なんで俺の名前なんだ」


「じゃあ、ポコ」


「私!?」


 そんな会話をしている間にも。


 魔獣は邪神の足元に座り込んでいた。


 そして。


 巨大な頭を。


 邪神の膝に乗せた。


「…………」


 邪神が見下ろす。


「…………」


 魔獣も見上げる。


『……眠いのか?』


「グル……」


 そのまま。


 魔獣は眠った。


「…………」


 ムーニーは空を見上げた。


「昨日まで世界を滅ぼしかねない邪神だったのに」


「はい」


「今日は大型魔獣を飼ってる」


「はい」


「……なんなんだ、このパーティ」


 メリーズが静かに答える。


「勇者パーティです」


「本当に?」


「たぶん」


「たぶん!?」


 グーンが頭を抱える。


「お前ら、もう少し勇者パーティらしくしろよ!」


 そして。


 勇者パーティの宿舎には――。


 新たな仲間が増えた。


 世界最強の邪神に飼いならされた。


 世界最凶の大型魔獣が。


 ――ただし。


「グルル……」


 魔獣が寝返りを打った。


 庭の柵が吹き飛んだ。


「…………」


「…………」


「…………」


 グーンが絶叫する。


「まず柵から直せぇぇぇぇぇっ!」


 こうして。


 勇者パーティの新生活は。


 また一段と騒がしくなった。

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