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大魔王ビックベンの伝説・その腹痛は世界を救う  作者: 水源


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19/22

勇者パーティ金策をする

 ――翌朝。


 勇者パーティの宿舎。


「…………」


 ムーニーは。


 机の上に財布を置いていた。


「…………」


 財布を開く。


 中を見る。


「…………」


 ごく僅かな銀貨。


 わずかな銅貨。


 そして。


 ほとんど何もない。


「…………」


 ムーニーは静かに財布を閉じた。


「金がない」


「…………」


 グーンが振り返る。


「いくらだ?」


「これだけ」


「…………」


 グーンが覗き込む。


「少ないな」


「少ない」


 メリーズも見る。


「今月の食費は?」


「厳しい」


 オヤスミが首を傾げる。


「どうしてですか?」


「邪神だ」


「…………」


 全員が邪神を見る。


『…………?』


 邪神は。


 朝食を食べていた。


 パン十八個。


 卵十個。


 野菜。


 スープ。


 そして果物。


『…………』


 邪神が顔を上げる。


『我が原因か?』


「主にお前だ」


『…………』


 邪神は少し考えた。


『ならば』


 立ち上がる。


『我が働こう』


「…………」


 ムーニーが止める。


「何をする?」


『世界を滅ぼす』


「金にならない」


『…………』


「むしろ困る」


『そうか』


 邪神は座った。


「……じゃあ、どうする?」


 全員が黙る。


 そのとき。


「金策をしましょう!」


 ポコが手を挙げた。


「…………」


 ムーニーが聞く。


「金策?」


「はい!」


 ポコが笑う。


「勇者パーティなんですから、冒険者らしく依頼を受けて稼ぎましょう!」


「なるほど」


 グーンが頷く。


「魔物討伐」


 メリーズが続ける。


「素材採取」


 オヤスミ。


「薬草採集」


 ビッグ・ベン。


「余は鉱山でも掘るか」


 ムーニーが頷く。


「よし」


 そして。


 全員が邪神を見る。


『…………』


「お前は――」


『畑』


「それはもうやってる」


『では魔法研究』


「それもやってる」


『治療』


「それもやってる」


『…………』


 邪神は真剣に考えた。


『我にできる金策はないのか?』


「ある」


 ティベリウスが言った。


「ありますよ」


『何だ?』


「その力を使えばいいんです」


『…………』


 ティベリウスは。


 邪神の巨大な身体を見上げる。


「ただし」


『ただし?』


「絶対に街を壊さないでください」


『…………』


「絶対です」


『分かった』


     ◆


 冒険者ギルド。


「…………」


 受付嬢が。


 勇者パーティを見ていた。


 勇者。


 魔王。


 賢者。


 聖女。


 ポコ。


 邪神の巫女。


 そして。


 入口の外に。


 山より大きな邪神。


「…………」


 受付嬢は。


 ゆっくりと目を逸らした。


「……依頼ですね?」


「はい!」


 ポコが答える。


「お金を稼ぎたいんです!」


「…………」


 受付嬢は依頼書を並べた。


「薬草採集」


「はい」


「ゴブリン討伐」


「はい」


「街道の護衛」


「はい」


「大型魔獣の討伐」


 受付嬢が。


 ちらりと邪神を見る。


「…………」


「これにしましょう」


 ムーニーが即答した。


「報酬は?」


「金貨十枚です」


「よし!」


『…………』


 邪神が覗き込む。


『何を倒す?』


「大型魔獣だ」


『どれくらい大きい?』


「牛くらいだ」


『…………』


「どうした?」


『小さいな』


「お前基準で考えるな」


     ◆


 森。


「いました!」


 ポコが指差す。


 巨大な魔獣が。


 木々をなぎ倒しながら歩いている。


「よし」


 ムーニーが剣を抜く。


「俺が前衛!」


 グーンが魔剣を構える。


「俺も行く!」


 メリーズが魔法を詠唱。


「支援します!」


 オヤスミが防御魔法を展開。


 ビッグ・ベンが拳を握る。


「余も――」


「待ってください」


 ティベリウスが止めた。


「邪神様」


『なんだ?』


「お願いします」


『分かった』


 邪神が。


 魔獣を見る。


『…………』


 魔獣が。


 邪神を見る。


「…………」


 魔獣が。


 震えた。


「…………」


 邪神が。


 一歩近づく。


 魔獣が。


 逃げた。


「…………」


『…………』


「…………」


 全員が黙る。


 魔獣は。


 森の彼方へ。


 全力で逃走していった。


『…………』


「…………」


 ムーニーが剣を下ろす。


「勝ったな」


「勝ってない!」


「逃げただけだ!」


 ティベリウスが頭を抱える。


「どうしましょう?」


 邪神が考える。


『…………』


 そして。


『捕まえてくる』


「お願いします」


     ◆


 十分後。


 邪神が戻ってきた。


 巨大な手のひら。


 その上に。


 魔獣。


「…………」


 魔獣は。


 完全に怯えていた。


『連れてきた』


「ありがとうございます」


 ムーニーが魔獣を見る。


「……これ、討伐しないと報酬にならないよな?」


 受付嬢の言葉を思い出す。


 ――大型魔獣の討伐。


「…………」


 ティベリウスが魔獣を見る。


 そして。


「これ」


 ポコが言う。


「家畜にできませんか?」


「…………」


 全員が魔獣を見る。


 魔獣も。


 全員を見る。


『…………』


 邪神が言った。


『飼うか?』


「…………」


 ムーニーが頭を抱える。


「俺たち、金策しに来たんだよな?」


「はい」


「なのに魔獣を家畜にしようとしてないか?」


「はい」


「…………」


 ムーニーは空を見上げた。


「どうしてこうなった」


     ◆


 結局。


 魔獣討伐の依頼は。


 達成扱いになった。


 受付嬢は。


「……討伐してはいませんよね?」


「逃げられないよう捕獲しました」


 ティベリウスが答える。


「…………」


 受付嬢は悩んだ。


 そして。


「依頼主が問題ないと言っていますので、報酬は出します」


「ありがとうございます!」


 金貨十枚。


 勇者パーティの財布が。


 久しぶりに膨らんだ。


「…………」


 ムーニーが金貨を見る。


「これでしばらくは大丈夫だ」


『…………』


 邪神が言った。


『パンは何個買える?』


「…………」


 ムーニーの顔が引きつる。


「十八個分だ」


『一日で?』


「そうだ」


『では足りないな』


「足りる!」


 ティベリウスが笑う。


「邪神様」


『なんだ?』


「今日は十六個までです」


『…………』


「なぜです?」


『減らされた』


「節約です」


『…………』


 邪神は。


 しょんぼりした。


     ◆


 宿舎。


 夕食。


 テーブルの上には。


 いつもより少し豪華な料理。


「今日は金貨十枚です!」


 ポコが喜ぶ。


「頑張りましたからね」


 オヤスミが笑う。


「明日は薬草採集に行きましょう」


 メリーズが言う。


「いや」


 グーンが首を振る。


「明日はもっと効率のいい仕事を探そう」


 ビッグ・ベンが腕を組む。


「余なら鉱山を掘れる」


 ムーニーが頷く。


「よし」


 ティベリウスが口を開く。


「では」


 全員が見る。


「勇者パーティで――」


「金策会議をしましょう」


「…………」


 邪神が手を挙げる。


『我は何をする?』


 ティベリウスが答えた。


「働いてください」


『分かった』


「…………」


 ムーニーが笑う。


「なんか」


「うん?」


「普通のパーティみたいになってきたな」


 グーンが笑う。


「金がなくて困って、仕事を探してるからな」


 メリーズも頷く。


「勇者パーティなのに生活感がありますね」


 オヤスミが笑う。


「いいことだと思います」


 ビッグ・ベンがパンを食べる。


「うむ」


 そして。


 邪神が。


『…………』


 自分のパンを見る。


 十六個。


『…………』


 ティベリウスを見る。


「何ですか?」


『…………』


「もう一個ほしいですか?」


『…………』


 邪神が頷いた。


「……今日だけですよ」


『ありがとう』


 ティベリウスがパンを一つ渡す。


『…………』


 邪神が嬉しそうに食べる。


 その光景を見て。


 ムーニーは笑った。


「……まあ」


「これくらいなら」


 そして。


「明日も頑張って稼ぐか」


 勇者パーティは。


 世界を救うためではなく。


 ――パン代を稼ぐために。


 明日も働くことになった。

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