ティベリウス、はじめてのかいもの
――それから。
さらに数日が経った。
ティベリウスは。
完全に勇者パーティの生活に馴染んでいた。
朝。
邪神に起こされる。
昼。
皆と食事をする。
午後。
魔法研究や治療所の手伝い。
夕方。
畑仕事。
夜。
皆と食卓を囲む。
そして。
「…………」
ある日の朝。
ティベリウスは気づいた。
「…………服がありません」
「え?」
ポコが振り返る。
「服?」
「はい」
ティベリウスは自分の服を見る。
長い間着続けた巫女服。
ところどころ破れている。
汚れも落ちきっていない。
「そういえば」
ムーニーが見る。
「ずっとそれ着てるな」
「はい」
「洗濯は?」
「しています」
「それ、洗濯だけでどうにかなる状態じゃないだろ」
グーンが頷く。
「確かに」
メリーズが立ち上がる。
「では、新しい服を買いに行きましょう!」
「え?」
「ティベリウスさんの歓迎会も兼ねて」
「でも……」
「決まりです!」
「…………」
ティベリウスは。
少し困った顔をした。
「……服を買うのは初めてです」
「…………」
全員が止まった。
「初めて?」
「はい」
「今までどうしてたんだ?」
「邪神様から巫女服を支給されていました」
「…………」
ムーニーが頭を抱える。
「そういう人生だったのか……」
「はい」
◆
街。
「…………」
ティベリウスは。
人通りの多い通りを歩いていた。
隣にはポコ。
その後ろにメリーズ。
オヤスミ。
そして。
なぜか。
邪神。
『…………』
巨大すぎるので。
街の外から顔だけ出している。
「邪神様」
『なんだ?』
「ついてこなくていいです」
『仲間だからな』
「…………」
「それに」
ムーニーが言う。
「街の中に入ったら建物が壊れる」
『…………』
「だから外で待ってろ」
『分かった』
邪神は素直に頷いた。
『だが』
「なんだ?」
『服を買うなら我も欲しい』
「…………」
ムーニーが空を見上げる。
「お前の服、どこで売ってるんだよ」
『…………』
「山より大きい服なんて作れるわけないだろ」
『そうか』
邪神は少し寂しそうだった。
「……まあ」
ティベリウスが言う。
「小さくなっていただくか、いつか作れる人が現れたらその人に作ってもらえばいいでしょう」
『本当か?』
「はい」
『楽しみだ』
「…………」
ティベリウスは思った。
――最近。
邪神様が妙に子供っぽくなっている気がする。
◆
服屋。
「いらっしゃいませ!」
店員が笑顔で迎える。
そして。
ティベリウスを見る。
「…………」
店員の目が。
巫女服に止まる。
「…………」
ティベリウスが少し緊張する。
だが。
「お客様、どのような服をお探しですか?」
「え?」
「普段着でしょうか?」
「…………はい」
「では、こちらはいかがでしょう?」
店員が服を持ってくる。
白いブラウス。
長めのスカート。
「…………」
ティベリウスが触れる。
「……柔らかい」
「新しい布ですよ」
「…………」
ティベリウスは。
少しだけ目を輝かせた。
「これにします」
「ありがとうございます!」
ポコが笑う。
「似合いそうですね!」
「そうでしょうか?」
「はい!」
オヤスミも頷く。
「きっと似合います」
メリーズが別の服を持ってくる。
「こちらも!」
「…………」
「これも似合いそうです!」
「…………」
ティベリウスは。
気づけば。
三着。
四着。
五着。
と服を選んでいた。
「…………」
ムーニーが呟く。
「楽しそうだな」
グーンが頷く。
「ああ」
ティベリウスは。
鏡の前で新しい服を合わせる。
「…………」
そして。
少し照れながら。
「……どうでしょう?」
全員が。
「似合ってる」
口を揃えた。
「…………」
ティベリウスは。
小さく笑った。
「……ありがとうございます」
◆
店を出る。
ティベリウスは。
紙袋を抱えていた。
「…………」
何度も。
中を見る。
「そんなに嬉しいか?」
ムーニーが聞く。
「はい」
ティベリウスは答えた。
「自分で選んだ服を買うのは初めてですから」
「…………」
グーンが黙る。
オヤスミが微笑む。
「よかったですね」
「はい」
ティベリウスは。
紙袋を胸に抱いた。
◆
宿舎。
「ただいま戻りました」
「おかえり!」
ポコが迎える。
ティベリウスは。
「…………」
新しい服を取り出す。
「どうですか?」
「おお!」
メリーズが声を上げる。
「似合ってます!」
「…………」
邪神が覗き込む。
『…………』
「邪神様?」
『似合っている』
「…………ありがとうございます」
『綺麗だ』
「…………」
ティベリウスの顔が赤くなる。
「そ、そういうことを普通に言わないでください」
『なぜだ?』
「恥ずかしいからです」
『そうか』
「はい」
『では、今後は普通に言う』
「改善されてません!」
全員が笑った。
◆
その夜。
ティベリウスは。
新しい服を。
ベッドの横に置いた。
「…………」
そして。
昔の巫女服を見る。
長い間。
これだけが自分の居場所だった。
邪神の巫女として。
命令に従い。
邪神を崇め。
世界の終わりを待っていた。
けれど。
今は。
新しい服がある。
自分で選んだ。
仲間たちと一緒に選んだ。
「…………」
ティベリウスは。
そっと笑った。
「……私も変わったんですね」
そのとき。
部屋の外から。
「ティベリウス」
「はい?」
邪神の声。
『明日の朝食だが』
「…………」
『パンは何個がいい?』
「…………」
ティベリウスは。
少し考えた。
「二個です」
『分かった』
「邪神様は?」
『十六個』
「増えてませんか?」
『成長期だ』
「…………」
ティベリウスは笑った。
「おやすみなさい」
『おやすみ』
扉の向こう。
巨大な邪神の足音が遠ざかっていく。
「…………」
ティベリウスは。
ベッドに横になった。
そして。
静かに目を閉じる。
――かつて。
彼女は。
邪神の巫女だった。
今は。
勇者パーティの一員。
その違いは。
たった一つ。
自分の意思で。
ここにいることだった。
◆
翌朝。
『起きろぉぉぉぉぉぉぉっ!!』
「…………」
ティベリウスは目を開ける。
「邪神様」
『なんだ?』
「昨日、小声で起こすって言いましたよね?」
『…………』
「忘れました?」
『…………忘れた』
「…………」
ティベリウスは。
枕を持ち上げる。
『…………?』
「今日だけです」
枕が。
窓の外へ飛んでいった。
『…………』
「おはようございます」
『…………おはよう』
そして。
今日も。
勇者パーティの一日が始まった。




