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大魔王ビックベンの伝説・その腹痛は世界を救う  作者: 水源


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15/19

ティベリウス気を使われる

 ――翌朝。


 勇者パーティの宿舎。


「…………」


 ティベリウスは目を覚ました。


 新しい部屋。


 新しいベッド。


 新しい朝。


「…………」


 昨日。


 自分は正式に勇者パーティの一員になった。


 邪神様も。


 勇者も。


 魔王も。


 賢者も。


 聖女も。


 ポコも。


 みんなが自分を仲間として受け入れてくれた。


「…………」


 ティベリウスは少しだけ微笑む。


「……悪くない朝ですね」


 その瞬間。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。


「…………」


 窓の外から。


 巨大な影が差し込んだ。


 そして。


『起きろぉぉぉぉぉぉぉっ!!』


 ――ズドォォォォォン!!


「きゃああああああああっ!?」


 ティベリウスはベッドから飛び起きた。


「…………」


 数秒後。


 窓の外を見る。


『おはよう、ティベリウス』


「…………」


『朝だ』


「…………邪神様」


『なんだ?』


「心臓が止まるかと思いました」


『すまん』


「……普通に起こしてください」


『分かった』


 邪神は真剣に頷いた。


『次からは小声で起こす』


「お願いします」


 そして。


 邪神は。


 深く息を吸った。


『――お』


「待ってください」


『ん?』


「小声でお願いします」


『分かった』


 邪神は少し考えた。


 そして。


『…………おはよう』


「…………」


 ティベリウスは目を閉じた。


「それで十分です」


     ◆


 食堂。


「おはようございます」


「お、おはよう!」


 ムーニーが妙に元気よく返事をした。


「…………?」


 ティベリウスが首を傾げる。


「どうしました?」


「いや!」


 ムーニーが首を振る。


「何でもない!」


「そうですか?」


「ああ!」


 その隣。


 グーンも妙に姿勢が良い。


「おはよう、ティベリウス」


「おはようございます」


「昨日はよく眠れたか?」


「はい」


「そうか」


「…………」


「…………」


「…………」


 会話が終わった。


 ティベリウスが首を傾げる。


「……何か?」


「いや!」


 グーンが答える。


「何でもない!」


 その向かいでは。


 メリーズが。


「ティベリウスさん」


「はい?」


「朝食、何か食べたいものありますか?」


「え?」


「パンとか」


「はい」


「スープとか」


「はい」


「卵とか」


「はい」


「お粥とか」


「はい」


「全部?」


「そんなには食べませんよ?」


「そうですよね!」


 メリーズが笑った。


 だが。


 その笑顔が妙にぎこちない。


「…………」


 ティベリウスは周囲を見回した。


 オヤスミ。


 ポコ。


 グーン。


 ムーニー。


 メリーズ。


 ビッグ・ベン。


 全員が。


 ――妙に自分へ気を遣っている。


「…………」


 ティベリウスは考える。


「もしかして」


「ん?」


「皆さん、私に気を遣っています?」


「…………」


 全員が固まった。


「…………」


「…………」


「…………」


 ムーニーが目を逸らす。


「……いや」


「気を遣っていますね?」


「…………」


「かなり」


「…………」


 ムーニーが白状した。


「……昨日加入したばかりだし」


「だから?」


「その……」


 グーンが助け舟を出す。


「お前がどういう奴なのか、まだよく分からないんだ」


「なるほど」


 ティベリウスは頷いた。


「それなら仕方ありませんね」


 だが。


 ビッグ・ベンが腕を組んだ。


「余は違うぞ」


「?」


「余は最初から普通に接している」


「……大魔王」


「なんだ?」


「昨日、私の部屋の前を通るとき、三回も頭を下げていましたよね?」


「…………」


「気を遣っていますよね?」


「…………」


 ビッグ・ベンは黙った。


「……少しだけ」


「やっぱり」


     ◆


 朝食。


 ティベリウスの前には。


 パン。


 スープ。


 卵。


 野菜。


 そして果物。


「…………」


「どうしました?」


 ポコが聞く。


「昨日より多くないですか?」


「はい!」


「なぜ?」


「新しい仲間なので!」


「…………」


「たくさん食べてください!」


「ありがとうございます」


 ティベリウスはパンを手に取る。


「いただきます」


 その瞬間。


 邪神が覗き込んだ。


『足りるか?』


「十分です」


『本当に?』


「はい」


『山一つ分は?』


「食べません」


『そうか』


 邪神は少し残念そうだった。


 ティベリウスがパンを食べる。


「…………」


 全員が見ている。


「…………」


 もぐもぐ。


「…………」


 もぐもぐ。


「…………」


「……皆さん」


「はい?」


「見られると食べにくいのですが」


「…………」


 全員が慌てて目を逸らした。


「すみません!」


「ごめん!」


「悪かった!」


「申し訳ない!」


 ティベリウスは苦笑した。


「そんなに気を遣わなくて大丈夫ですよ」


     ◆


 午前。


 メリーズの魔法研究。


「では、今日も魔法研究を――」


 メリーズが言いかける。


 ティベリウスが入ってくる。


「おはようございます」


「お、おはようございます!」


「…………」


「…………」


「…………」


 メリーズが妙に距離を取る。


「どうしました?」


「いえ!」


「昨日は私の師匠になったと言っていましたよね?」


「…………はい」


「では今日も教えてください」


「もちろんです!」


 メリーズが嬉しそうに近づいてくる。


「この魔法陣なんですが――」


「ここを少し変えればいいでしょう」


「なるほど!」


「こちらは?」


「ここは――」


 気がつけば。


 二人は普通に魔法研究を始めていた。


「…………」


 廊下から覗いていたムーニーが呟く。


「なんだ。普通に仲良くなってるじゃないか」


 グーンも頷く。


「やっぱり魔術師同士は話が早いな」


 だが。


 その背後から。


「…………」


 ティベリウスが顔を出した。


「何をしているんですか?」


「うわっ!?」


「なぜ隠れているんです?」


「いや!」


「…………」


 ティベリウスは二人を見る。


「もしかして」


「はい」


「私が馴染めているか確認していました?」


「…………」


「…………」


「図星ですね」


     ◆


 昼。


「今日は私が作ります!」


 ポコが言った。


「ティベリウスさん、何が食べたいですか?」


「何でも構いません」


「本当に?」


「はい」


「辛いものは?」


「大丈夫です」


「甘いものは?」


「好きです」


「肉は?」


「好きです」


「魚は?」


「好きです」


「野菜は?」


「食べます」


「お酒は?」


「昼から飲みません」


「…………」


 ポコが笑う。


「普通ですね」


「普通ですよ」


 その会話を聞いていたムーニーが呟いた。


「……なんか安心した」


「何がですか?」


「いや」


「…………」


「もっとこう……」


 ムーニーは言葉を探した。


「邪神の巫女っていうから、怖い人なのかと思ってた」


 ティベリウスが少し考える。


「昔はそうだったかもしれません」


「昔?」


「邪神様が世界を滅ぼそうとしていた頃は」


「…………」


「私も、それを手伝っていましたから」


 食堂が静かになる。


 ティベリウスは笑った。


「でも」


 邪神を見る。


 巨大な邪神は。


 テーブルの隅で。


 パンを食べていた。


『…………』


「今は違います」


『そうだな』


 邪神が頷く。


「なら」


 ムーニーが笑う。


「もういいだろ」


「…………」


「過去がどうだったとか、俺たちは気にしない」


 グーンも頷く。


「今、一緒にいる。それで十分だ」


 オヤスミが笑う。


「仲間ですから」


 ティベリウスは。


 しばらく黙っていた。


 そして。


「……ありがとうございます」


     ◆


 午後。


 畑。


「今日は何をすればいい?」


 ティベリウスが尋ねる。


 邪神が鍬を持っている。


『畑だ』


「…………」


『昨日、我が耕した』


「聞きました」


『褒められた』


「よかったですね」


『今日はティベリウスもやるか?』


「はい」


 邪神が鍬を渡す。


 ティベリウスが持つ。


「こうですか?」


『そうだ』


 ザク。


「…………」


 土が綺麗に掘れた。


『…………』


「…………」


『上手い』


「ありがとうございます」


 ポコが拍手する。


「すごいです!」


 邪神も頷く。


『我より上手い』


「え?」


『我は昨日、畑を一度破壊した』


「…………」


 ティベリウスは邪神を見る。


「……邪神様」


『なんだ?』


「畑仕事、初めてだったんですね」


『そうだ』


「…………」


 ティベリウスは笑った。


「では、一緒に覚えましょう」


『ああ』


 ザク。


 ザク。


 ザク。


 巨大な邪神と。


 その巫女が。


 並んで畑を耕している。


 それを見たムーニーが呟いた。


「……本当に平和だな」


 グーンが頷く。


「ああ」


 ビッグ・ベンも腕を組む。


「うむ」


「何だ?」


「余も混ざる」


「お前まで来るのかよ!」


     ◆


 夕方。


 ティベリウスは宿舎の前に立っていた。


「…………」


 昨日まで。


 自分は一人だった。


 邪神を追い。


 森を彷徨い。


 一週間の間、誰にも気づかれなかった。


 だが。


 今は。


「ティベリウス!」


 ポコが呼ぶ。


「夕飯ですよ!」


「はい!」


 宿舎へ戻る。


 扉を開ける。


「おかえり」


 ムーニーが言う。


「おかえりなさい」


 オヤスミが笑う。


「おかえり」


 グーンも言う。


「師匠、今日の魔法研究の続きお願いします!」


 メリーズが手を挙げる。


「ティベリウス、畑はどうだった?」


 ビッグ・ベンが聞く。


『今日も楽しかったな』


 邪神が言う。


「…………」


 ティベリウスは。


 少しだけ目を細めた。


「ただいま、戻りました」


 その言葉に。


 誰も何も言わなかった。


 ただ。


 当たり前のように。


 食卓に席が用意されていた。


 ティベリウスはそこに座る。


「…………」


 昨日とは違う。


 今日の自分は。


 もう「新入り」ではない。


 少しだけ。


 この場所の一員になっていた。


     ◆


 そして。


 夜。


「…………」


 ティベリウスはベッドに入った。


「…………」


 静かな部屋。


 窓の外から。


 皆の話し声が聞こえる。


「明日はどうする?」


「魔法研究の続きを――」


「畑もやらないとな」


「朝食は?」


「パン十三個」


「増えてる!」


 笑い声。


「…………」


 ティベリウスは目を閉じた。


「……いい場所ですね」


 その瞬間。


 廊下から。


 ムーニーの声が聞こえた。


「おい、明日はちゃんとティベリウスを起こすんだぞ!」


 邪神が答える。


『分かった』


「大声禁止だからな!」


『分かった』


「絶対だぞ!」


『分かった』


「…………」


 ティベリウスは布団の中で微笑んだ。


「……明日も楽しみですね」


 そして。


 翌朝。


『ティベリウス――』


「…………」


『…………おはよう』


「…………」


 小さな声。


 優しい声。


 ティベリウスは目を開ける。


「……おはようございます、邪神様」


『おはよう』


 こうして。


 邪神の巫女ティベリウスは。


 少しずつ。


 勇者パーティの「仲間」になっていった。


 ――もっとも。


 朝食のパンは。


『ティベリウスは何個食べる?』


「二個です」


『我は十三個』


「張り合わなくていいです」


『…………』


「邪神様?」


『十四個』


「増やすな!」


 今日も。


 勇者パーティの朝は。


 平和だった。

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