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大魔王ビックベンの伝説・その腹痛は世界を救う  作者: 水源


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14/18

昨日の敵は今日は仲間

 ――翌朝。


 勇者パーティの宿舎。


「起きろぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


『――ズドォォォォォン!!』


「うるさぁぁぁぁぁぁい!!」


 ムーニーの絶叫が響き渡った。


「朝食はパン十二個だ」


「増えてるじゃないか!」


「成長期だからな」


「だから邪神に成長期があるのか!?」


『ある』


「あるのかよ!」


 いつもの朝だった。


 ――ただし。


 勇者たちは、まだ知らなかった。


 その宿舎へ向かって。


 一人の少女が、必死に歩いていることを。


 ◆


「…………」


 森の中。


 一人の女が歩いていた。


 長い髪。


 薄汚れた巫女服。


 疲れ切った顔。


 そして――腹を押さえている。


「うぅぅぅぅ……」


 邪神の巫女。


 ティベリウス。


 かつて邪神に仕え。


 世界の終焉を見届けるはずだった女。


 その彼女は。


「……お腹、痛い……」


 未だに腹痛に苦しんでいた。


 なぜこうなったのか。


 話は一週間前に遡る。


 邪神が勇者パーティに加入したあの日。


 ティベリウスもまた。


 邪神を追っていた。


 追っていた――はずだった。


「…………」


 ティベリウスは立ち止まる。


「……ここ、どこ?」


 周囲を見回す。


 森。


 木。


 森。


 木。


 そして森。


「…………」


 完全に迷っていた。


「……邪神様?」


 返事はない。


「邪神様ぁぁぁぁぁ……!」


 叫んでも。


 返事はない。


 当然だった。


 邪神は今。


 勇者パーティの宿舎で。


 パン十二個を食べている。


「…………」


 ティベリウスは知らない。


 自分が。


 完全に。


 ――忘れられていることを。


 ◆


 その頃。


「パン、もう一個食べるか?」


『食べる』


「十三個目だぞ?」


『成長期だからな』


「便利な言葉だな……」


 宿舎では。


 邪神が朝食を満喫していた。


 ポコがスープを渡す。


「邪神さん、熱いので気をつけてくださいね」


『分かった』


 グーンが呆れる。


「……一週間前まで世界を滅ぼそうとしていた存在とは思えんな」


 ビッグ・ベンが頷く。


「うむ」


 メリーズが笑う。


「でも、すっかり仲間ですよ」


 オヤスミも頷く。


「そうですね」


 ムーニーがパンをかじる。


「……ところで」


「ん?」


「何か忘れてないか?」


 全員が止まった。


「…………」


「…………」


「…………」


 邪神も考える。


『…………』


「何だっけ?」


 グーンが首を傾げる。


「誰かいたような……」


 メリーズが腕を組む。


「女性でしたよね?」


「いたな」


 オヤスミが思い出す。


「邪神さんの巫女さん」


「…………」


 ムーニーが立ち上がった。


「ティベリウス!」


『…………』


 邪神の巨大な瞳が見開かれる。


『…………あ』


「お前!」


『忘れていた』


「忘れるなよ!」


『一週間間、すっかり忘れていた』


「一週間間!?」


 グーンが頭を抱える。


「生きているのか?」


『たぶん』


「たぶんじゃない!」


 ポコが慌てて立ち上がった。


「探しに行きましょう!」


「そうだ!」


 ムーニーが剣を手に取る。


「今すぐだ!」


『我も行く』


「お前は目立ちすぎる!」


『…………』


「いや、もういい。お前が一番早い!」


『分かった』


 邪神が立ち上がる。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。


「待ってろ、ティベリウス!」


『今、迎えに行く!』


 ◆


 その頃。


 森の中。


「…………」


 ティベリウスは。


 木の根元に座っていた。


「……もう駄目かもしれない」


 腹を押さえる。


「一週間……」


 空を見上げる。


「一週間も誰も迎えに来ない……」


 目に涙が浮かぶ。


「邪神様……」


 そして。


「私のこと……」


 ぐっと拳を握る。


「忘れてる……?」


 その瞬間。


 ――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!


「…………?」


 大地が震えた。


 木々が揺れる。


 鳥たちが一斉に飛び立つ。


「な、何……?」


 ティベリウスが立ち上がる。


 森の向こう。


 山のような巨大な影が迫ってくる。


「…………」


 ティベリウスは固まった。


『ティベリウスゥゥゥゥゥゥゥッ!!』


「…………」


 聞き覚えのある声。


 世界を震わせる声。


 そして。


 巨大な邪神が。


 森の向こうから顔を出した。


『無事か!?』


「…………」


 ティベリウスはしばらく黙っていた。


「…………遅い」


『すまん』


「一週間です」


『すまん』


「一週間間ですよ?」


『本当にすまん』


「…………」


 ティベリウスの目から。


 涙が一粒落ちた。


「……寂しかったです」


『…………』


 邪神は黙った。


 そして。


 巨大な腕を。


 そっと差し出した。


『……帰ろう』


「…………はい」


 ティベリウスは。


 その腕に乗った。


 ◆


「……で?」


 宿舎に戻ったムーニーが腕を組む。


「どうしてこうなった?」


 ティベリウスは食卓に座っていた。


 目の前には。


 温かいスープ。


 パン。


 そして。


「……お粥です」


 ポコが笑う。


「お腹に優しいものを用意しました」


「ありがとうございます……」


 ティベリウスは涙ぐんだ。


 その隣では。


『ティベリウス』


「はい」


『仲間だ』


「…………」


『もう忘れない』


「…………本当ですか?」


『本当だ』


「……絶対ですよ?」


『絶対だ』


 ティベリウスは少しだけ笑った。


「では……」


 スプーンを握る。


「私も、この勇者パーティに加入します」


「…………」


 ムーニーが固まる。


「え?」


「私も邪神様についていきます」


「いや、もう邪神はこっちにいるんだが……」


『仲間が増えたな』


 邪神が嬉しそうに言う。


 グーンが笑う。


「これで正式に八人目か」


「いや、人数を数えるならちゃんと最初から数えろ」


 メリーズが手を挙げる。


「歓迎します!」


 オヤスミも笑う。


「よろしくお願いします」


 ビッグ・ベンが腕を組む。


「うむ。歓迎しよう」


 ポコがティベリウスの前に料理を並べる。


「たくさん食べてくださいね」


「…………」


 ティベリウスは。


 目の前の食卓を見た。


 かつては。


 邪神に仕えることだけが。


 自分のすべてだった。


 けれど。


 今は。


 勇者がいる。


 魔王がいる。


 賢者がいる。


 聖女がいる。


 そして。


 自分の主だった邪神もいる。


 敵だった者たちと。


 同じ食卓を囲んでいる。


「…………ふふ」


 ティベリウスが笑った。


「悪くないですね」


 邪神が頷く。


『ああ』


 ムーニーも笑う。


「じゃあ――」


 パンを一つ取る。


「改めて歓迎する」


 全員が食卓を囲む。


 こうして。


 勇者パーティには。


 新たな仲間が加わった。


 ――邪神の巫女。


 ティベリウス。


 ただし。


 彼女には一つだけ問題があった。


「…………」


 ティベリウスが腹を押さえる。


「まだ少し……お腹が痛いです」


 オヤスミが立ち上がる。


「無理しないでくださいね」


「はい……」


 邪神が心配そうに覗き込む。


『大丈夫か?』


「大丈夫です」


『本当か?』


「はい」


『ならいい』


「…………」


 ティベリウスは少し笑った。


 そして。


 その日の夜。


 勇者パーティの宿舎には。


 新たな部屋が一つ用意された。


 ティベリウスの部屋である。


 ようやく。


 彼女にも。


 帰る場所ができた。


 ――そして翌朝。


『起きろぉぉぉぉぉぉぉっ!!』


「うるさぁぁぁぁぁぁい!!」


「きゃああああああっ!?」


「何ですか今の!?」


「朝だ」


『朝だ』


「邪神様!?」


 宿舎中に悲鳴が響き渡る。


 ムーニーが頭を抱えた。


「……そういえば」


「何だ?」


「新入りが増えたから、目覚ましも二倍うるさくなったな」


『任せろ』


「任せるな!」


 こうして。


 邪神。


 勇者。


 魔王。


 賢者。


 聖女。


 ポコ。


 そして。


 邪神の巫女ティベリウス。


 新たな七人の共同生活が――。


 そこにグーンのツッコミが入った!


「おーい俺を忘れるなー」


 地の文につっこみを入れるな。


 それはともかく8人の共同生活が始まった。


 ……なお。


 ティベリウスは。


 この日から毎朝。


 邪神の大声で叩き起こされることになる。


「…………」


「…………」


『起きろぉぉぉぉぉぉぉっ!!』


「……邪神様」


『なんだ?』


「一度、殺してもいいですか?」


『仲間だから駄目だ』


「…………そうですか」


 勇者パーティの一日は。


 今日も平和だった。


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