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大魔王ビックベンの伝説・その腹痛は世界を救う  作者: 水源


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13/15

邪神買い出しに出る

 ――翌朝。


「起きろぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


『朝だぞぉぉぉぉぉぉぉっ!!』


「お前が言うなぁぁぁぁぁぁっ!!」


 宿舎が揺れた。


 ムーニーは布団から飛び起き。


 グーンは壁に激突し。


 オヤスミは寝ぼけたまま祈り。


 メリーズは枕を投げ。


 ポコは――。


「おはようございます」


 普通に起きていた。


 そして。


『朝食はパン十二個だ』


「だから増えてるじゃないか!」


『成長期だからな』


「邪神に成長期はない!」


『ある』


「ない!」


『ある』


「ない!」


「朝から何をやってるんですか」


 ポコが呆れた。


     ◆


 朝食を終えた後。


 ポコが台所の棚を開けた。


「…………」


「どうした?」


 ムーニーが尋ねる。


「食材がありません」


「え?」


「パンも残り少しです。野菜もありません。お粥用のお米もありません」


「…………」


 全員が黙った。


 そして。


 ゆっくりと。


 邪神を見る。


『…………』


 邪神も。


 ゆっくりと。


 自分を見る。


「お前だな」


『何がだ?』


「食べたな?」


『…………』


「パン十二個」


『うむ』


「昨日より一個増えてたな」


『うむ』


「それだけじゃないだろ」


『…………』


「お粥も食べたな?」


『うむ』


「野菜も?」


『うむ』


「スープも?」


『うむ』


 ムーニーが頭を抱えた。


「食料が足りなくなるわけだ……」


 ポコが紙に買い物を書き始める。


「では、今日は買い出しですね」


「俺が行こう」


 ムーニーが立ち上がる。


 しかし。


『我が行こう』


「え?」


 全員が邪神を見る。


『我も仲間だ』


「いや……」


 ムーニーが窓の外を見る。


 巨大な邪神。


 山脈級。


 町に入れば。


 大混乱になる。


「……お前が市場に行ったら、町が大騒ぎになるぞ」


『そうか?』


「そうだよ」


『では小さくなる』


「小さく?」


『こうだ』


 ――ボフン。


「…………」


 煙が晴れる。


 そこに立っていたのは。


 身長二メートルほどの――。


 黒い肌。


 角。


 巨大な瞳。


 邪神だった。


「…………」


 ムーニーが言う。


「いや、まだ怖いな」


『そうか?』


「普通の人間くらいにはなれないのか?」


『できる』


 ――ボフン。


 今度は。


 普通の人間サイズ。


 黒い髪。


 黒い瞳。


 ただし。


 額から立派な角が二本生えている。


「…………」


 グーンが言った。


「角を隠せ」


『分かった』


 角が消える。


「目も普通にしろ」


『分かった』


 巨大な瞳が普通になる。


「……これなら」


 ムーニーが頷く。


「まあ、街を歩ける」


『では行こう』


 邪神が立ち上がる。


「待て」


『なんだ?』


「その格好」


 邪神は。


 裸足だった。


『…………』


「服を着ろ」


『服?』


「普通は着るんだよ!」


     ◆


 数分後。


 邪神は服を着ていた。


 白いシャツ。


 黒いズボン。


 そして――。


「なんでエプロン?」


 ムーニーが聞く。


『ポコがくれた』


「買い物に行くのにエプロンはいらないだろ」


「似合ってますよ」


 ポコが笑う。


『そうか』


 邪神は嬉しそうだった。


「……まあいいか」


 こうして。


 勇者ムーニー。


 剣聖グーン。


 そして邪神。


 三人は市場へ向かった。


     ◆


 町に入る。


「…………」


 邪神が歩く。


 普通の人間と同じ速度。


 普通の人間と同じ大きさ。


 しかし。


「…………」


 なぜか目立つ。


「…………」


「…………」


「…………」


 道行く人々が。


 ちらちらと邪神を見る。


『…………』


 邪神が小声で言う。


『我、何か変か?』


「いや」


 ムーニーが答える。


「たぶんエプロンだ」


『そうか』


「あと、その顔」


『どんな顔だ?』


「世界を滅ぼしそうな顔」


『……普通の顔をしているつもりだ』


「もっと笑え」


『こうか?』


 邪神が笑った。


 ――ニィ。


「怖い!」


『なぜだ!?』


「笑い方の問題だ!」


 グーンがため息をついた。


「まあ、慣れだ」


     ◆


 市場。


「いらっしゃい!」


 八百屋の店主が声をかける。


「今日は何にします?」


 ムーニーが買い物メモを見る。


「野菜を……」


 その横。


『これは何だ?』


 邪神が野菜を指差す。


「それはキャベツだよ」


『キャベツ』


「そう」


『何に使う?』


「スープとか」


『スープ』


 邪神が真剣な顔で頷く。


『買おう』


「何個?」


『全部』


「待て」


 ムーニーが止める。


『なぜだ?』


「そんなに食べるのか?」


『我が食べる』


「だから食費が――」


『……仲間の分も買う』


「…………」


 ムーニーが黙った。


『皆で食べる』


「…………そうか」


 ムーニーは少し笑った。


「じゃあ、二個で」


『二個か』


「二個」


『分かった』


 邪神が頷く。


 その横で。


 八百屋の店主が呟いた。


「……兄ちゃん」


『ん?』


「もしかして、勇者様の仲間か?」


『そうだ』


「へえ」


 店主が笑う。


「じゃあ、少しおまけしてやるよ」


『…………』


 邪神が固まった。


「どうした?」


『……おまけ』


「うん」


『初めてだ』


「そうかい?」


『うむ』


 邪神は。


 キャベツを大切そうに抱えた。


『……ありがとう』


「どういたしまして」


     ◆


 市場を歩いていると。


「おい!」


 突然。


 少年が声を上げた。


「勇者ムーニーだ!」


「え?」


「本物だ!」


 子供たちが集まってくる。


「勇者様!」


「魔王を倒したんだよね!」


「邪神も倒したって!」


「すげえ!」


「…………」


 ムーニーが困った顔をする。


「いや、その……」


 隣を見る。


『…………』


 邪神がいる。


 ムーニーは言葉に詰まった。


 子供の一人が邪神を見る。


「…………」


『…………』


「おじちゃん」


『なんだ?』


「勇者様の仲間?」


『そうだ』


「強い?」


『強い』


「どれくらい?」


『…………』


 邪神が考える。


『世界を三回ほど滅ぼせる』


「…………」


「ムーニー!」


「言わせるな!」


 子供たちが笑う。


「おじちゃん、面白い!」


『…………』


 邪神が少し驚いた。


 そして。


 小さく笑った。


『そうか』


     ◆


 帰り道。


 荷物は大量になっていた。


 野菜。


 肉。


 米。


 パン。


 果物。


 調味料。


 そして――。


「なんでパンが二十個あるんだ?」


 ムーニーが聞く。


『店主がくれた』


「…………」


『仲間だからな』


「そうか」


 ムーニーは笑った。


「じゃあ、帰ろう」


『ああ』


 三人は宿舎へ戻った。


     ◆


「お帰りなさい」


 ポコが出迎える。


「買ってきましたよ」


 ムーニーが荷物を置く。


「ありがとうございます」


 そして。


 ポコが邪神を見る。


「どうでした?」


『…………』


 邪神は。


 少しだけ笑った。


『楽しかった』


「それはよかったです」


『また行きたい』


「はい」


 ポコが頷く。


「また一緒に行きましょう」


『……ああ』


 その言葉を聞いて。


 邪神は。


 とても嬉しそうだった。


 ――かつて。


 世界を滅ぼそうとしていた存在。


 誰からも恐れられ。


 誰とも食卓を囲まなかった存在。


 それが今では。


「邪神さん」


『なんだ?』


「パンを一つ、台所に置いておいてください」


『分かった』


「みんなの明日の朝食です」


『…………』


 邪神が真剣な顔になる。


『一つで足りるか?』


「足ります」


『……本当に?』


「本当です」


『…………』


 邪神は少し考え。


『では二つ』


「一つです」


『二つ』


「一つ」


『…………』


 邪神は渋々。


『分かった』


 パンを一つ置いた。


 その横に。


 自分用のパンを――。


 二つ置いた。


「邪神さん?」


『…………』


「それは?」


『予備だ』


「…………」


 ムーニーが笑う。


「完全に仲間になったな」


『そうか?』


「ああ」


 こうして。


 世界を滅ぼす邪神の一日は。


 また一つ。


 普通の日常になっていった。


 ――ただし。


 その夜。


『…………』


 邪神は台所に戻ってきた。


『…………』


 そして。


 自分用のパンを一つ。


 こっそり食べようとした。


「邪神さん」


『!?』


 背後から。


 ポコの声。


『…………』


「夜食は禁止です」


『…………』


「明日の朝食が減りますよ」


『…………』


 邪神は。


 静かにパンを戻した。


『……分かった』


「おやすみなさい」


『おやすみ』


 そして翌朝。


『起きろぉぉぉぉぉぉぉっ!!』


「だからうるさいって言ってるだろぉぉぉぉぉっ!!」


 勇者パーティの一日は。


 今日も平和に始まった。:::


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