邪神粥をすする
――それから三日後。
人類と魔族の共同研究施設。
その一室に。
六人の英雄が集まっていた。
勇者ムーニー。
剣聖グーン。
大魔王ビッグ・ベン。
聖女オヤスミ。
賢者メリーズ。
そして――。
薬師ポコ。
「…………」
全員、真剣な顔をしていた。
机の上には大量の資料。
薬草の標本。
魔法陣の設計図。
医学書。
古代魔族の治療記録。
人体模型。
さらには、人間と魔族の消化器官を比較した図まで並んでいる。
そして。
部屋の中央。
巨大な紙が貼り出されていた。
そこには大きく。
こう書かれている。
――邪神腹痛対策会議。
「…………」
ムーニーが額を押さえた。
「なんで俺たちは、こんな会議をしているんだ?」
「患者がいるからです」
ポコが即答した。
「邪神だぞ?」
「患者です」
「世界を滅ぼそうとしたんだぞ?」
「それでも患者です」
「…………」
ムーニーは黙った。
正論だった。
「そうだったな……」
グーンが腕を組む。
「医者の前では、患者が何者だったかは関係ない」
「剣聖……」
「たとえ魔王でも」
グーンがビッグ・ベンを見る。
「邪神でも」
そして。
「腹痛なら治療する」
「…………」
ビッグ・ベンが複雑そうな顔をした。
「余まで巻き込まれている気がするのだが」
「大魔王も患者経験者だからです」
ポコが言う。
「余はただの胃痛だった」
「腹痛ですよ」
「違う。胃痛だ」
「医学的には腹部症状です」
「…………」
大魔王は黙った。
「医者には勝てんな……」
メリーズが資料をめくる。
「では、症状を確認しましょう」
「お願いします」
ポコが頷いた。
「邪神さんは、昨日の夜から腹痛を訴えています」
「具体的な症状は?」
「お腹が痛いそうです」
「それは分かります」
「あと、お腹がぐるぐるするそうです」
「なるほど」
オヤスミが真剣に頷いた。
「吐き気は?」
「あるそうです」
「発熱は?」
「ないそうです」
「食欲は?」
「あります」
「…………」
メリーズの手が止まった。
「腹痛があるのに?」
「あります」
「かなり?」
「かなり」
「何を食べているんです?」
「山を一つ」
「…………」
「森を二つ」
「…………」
「海を少し」
「…………」
「大地も少々」
「それは食べ過ぎです!」
オヤスミが叫んだ。
ムーニーも頷く。
「それ以前に、何をどうしたら海を『少し』で済ませられるんだよ」
「邪神ですから」
ポコが淡々と答える。
「便利な言葉だな、それ!」
メリーズがさらに資料を見る。
「下痢は?」
「…………」
ポコが少し考えた。
「聞いていません」
「そこ重要です!」
オヤスミが立ち上がった。
「患者さんの排便状況は重要ですよ!」
「…………」
ムーニーが顔をしかめる。
「俺たちは何を聞いているんだ?」
「医療情報です」
「そうか……」
ビッグ・ベンが腕を組んだ。
「余は大魔王だぞ」
「知っています」
「世界を支配する存在だぞ」
「知っています」
「それなのに――」
大魔王は低い声で言った。
「邪神の排便状況について議論している」
「…………」
沈黙。
そして。
グーンが静かに頷いた。
「戦争が終わった証拠だな」
「絶対に違うと思うぞ」
ムーニーが突っ込んだ。
◆
その頃。
遥か彼方。
空の裂け目の向こう。
人間の世界から遠く離れた場所にある――邪神の住処。
そこは、かつて世界中の神話に恐怖とともに記された場所だった。
黒い雲。
赤く染まった空。
大地を覆う巨大な骨。
空間そのものが歪み、遠くには無数の巨大な眼が浮かんでいる。
その中心に。
それはいた。
――邪神。
その身体だけで山脈ほどもある。
巨大な四肢。
世界を覆い尽くすほどの翼。
天を見上げれば、その瞳だけで月ほどもある。
かつて。
人類と魔族を恐怖に陥れ。
世界そのものを喰らおうとした存在。
その名を聞くだけで、勇者たちは剣を抜き、魔族たちは逃げ出した。
そんな存在が今――。
「…………」
腹を押さえていた。
『…………痛い』
ぐるるるるるるるる。
『…………』
巨大な瞳がゆっくりと閉じる。
『また痛い』
邪神は考えた。
『なぜだ』
ぐるるるるる。
『…………』
『我は世界を喰らう存在』
また腹が鳴った。
『…………』
『世界を喰らう存在なのだぞ?』
ぐるるるるるるる。
『…………』
邪神は真剣に考えた。
『なぜ腹が減る』
答えは簡単だった。
身体が山脈ほどもあるからだ。
むしろ。
腹が減らないほうがおかしい。
『…………』
邪神は長い沈黙の後。
ぽつりと呟いた。
『……ポコを呼ぼう』
その瞬間。
空間が揺れた。
大地が震え。
空が割れる。
『来たか』
邪神が顔を上げる。
しかし。
現れたのはポコだけではなかった。
「邪神!」
ムーニーだった。
『…………』
邪神の巨大な瞳が細くなる。
『……なぜ勇者がいる』
「患者さんがいるからです」
ポコが後ろから顔を出した。
『…………』
「こんにちは」
『…………こんにちは』
邪神が小さく答えた。
ムーニーが目を丸くする。
「礼儀正しいな!?」
「病人ですから」
「そういう問題か!?」
その後ろから。
グーン。
オヤスミ。
メリーズ。
ビッグ・ベン。
全員が姿を現す。
『…………』
邪神は全員を見渡した。
『……大魔王までいる』
「余も患者だったからな」
『……なるほど』
「納得するなよ」
ムーニーが突っ込む。
「では」
ポコが邪神の前に立った。
「診察しますね」
『頼む』
あまりにも素直だった。
「邪神が勇者の薬師に診察されてる……」
ムーニーが呟く。
「歴史が変わったな」
グーンが答えた。
「戦争が終わったからな」
「だから、それは違うと思うぞ」
ポコは邪神を見上げる。
「まず、お腹を見せてもらえますか?」
『どうやって?』
「…………」
ポコが固まった。
確かに。
相手は山脈サイズである。
「そうですね……」
少し考えて。
「小さくなれますか?」
『…………』
邪神が沈黙する。
『我は邪神だぞ』
「はい」
『世界を喰らう存在だぞ』
「はい」
『その我に――』
邪神の身体が光に包まれた。
――シュン。
次の瞬間。
そこにいたのは。
人間とほぼ同じ大きさになった邪神だった。
「…………」
『…………』
「できるんじゃないですか」
『できる』
「最初からお願いします」
『分かった』
ムーニーが小声でグーンに尋ねる。
「……邪神って、意外と素直だな」
「腹痛には勝てないんだろう」
「なるほど」
ポコは邪神のお腹に手を当てた。
「…………」
『…………』
「…………」
しばらくして。
ポコが目を開いた。
「胃腸が疲れています」
『…………』
邪神が固まった。
「あと、食べ過ぎです」
『…………』
「かなり食べていますね?」
『…………』
「何を食べたんですか?」
邪神は胸を張った。
『世界を』
「…………」
ポコが真顔になる。
「具体的には?」
『山』
「はい」
『森』
「はい」
『海』
「はい」
『大地』
「…………」
ポコが頭を抱えた。
「食べ過ぎです」
『そうか』
「世界を食べる量を減らしてください」
『それは無理だ』
「なぜですか?」
『邪神だからだ』
「…………」
ポコは真剣に考えた。
そして。
「では、食べ方を変えましょう」
『食べ方?』
「はい」
ポコが笑顔になった。
「胃腸に優しいものを食べましょう」
『…………』
邪神が震えた。
『……何を?』
「お粥です」
『…………』
「野菜スープもいいですね」
『…………』
「あと、消化の良い薬草を少し」
『…………』
「温かいものをゆっくり食べて――」
『待て』
「はい?」
邪神が震える声で尋ねた。
『我は邪神だ』
「はい」
『世界を喰らう存在だ』
「はい」
『それが――』
邪神は絶望したように呟いた。
『……お粥を食べるのか?』
「食べましょう」
『…………』
邪神は空を見上げた。
かつて。
世界中の英雄たちが恐れた邪神。
神々ですら封印することしかできなかった存在。
その邪神が。
今。
『世界を滅ぼすより屈辱的だ……』
「でも、お腹は治りますよ?」
『…………』
邪神は長い沈黙の末。
『……お粥をくれ』
「はい!」
ポコが嬉しそうに頷いた。
「では作りますね」
「待て!」
ムーニーが慌てた。
「ポコ!」
「はい?」
「俺たちは何しに来たんだ?」
「邪神さんを治しに来ました」
「そうだけど!」
ムーニーは周囲を見回した。
勇者。
剣聖。
大魔王。
聖女。
賢者。
薬師。
世界最強クラスの六人。
その六人が。
邪神を囲んで。
「お粥を作ろうとしている……」
「…………」
グーンが腕を組んだ。
「平和だな」
「だから違うって」
ビッグ・ベンが頷く。
「余も手伝おう」
「大魔王が!?」
「料理くらいできる」
「できるのか?」
「魔王城では余が自分で作ることも多かった」
「部下に作らせるんじゃないのか?」
「部下に胃腸を管理される大魔王など威厳がないだろう」
「今、邪神のお粥作りに参加してる時点で威厳とかないと思うぞ」
「…………」
ビッグ・ベンは黙った。
オヤスミが手を挙げる。
「私は消化促進の魔法を使います」
「私は温度管理を」
メリーズも手を挙げた。
グーンが即座に止める。
「メリーズ」
「はい」
「料理には関わるな」
「なぜですか?」
「前にお前が作った薬湯を飲んだ患者が三日寝込んだ」
「薬効が強かっただけです」
「それを料理に持ち込むな」
ムーニーが手を挙げる。
「じゃあ俺は?」
グーンが即答した。
「薪を集めてこい」
「俺は勇者だぞ!?」
「薪を集められる勇者は強い」
「……そうか?」
「そうだ」
「じゃあ行ってくる」
勇者ムーニーは素直に薪を拾いに行った。
しばらくして。
「持ってきたぞ!」
「早いな」
「勇者だからな」
「じゃあ火を起こせ」
「分かった」
ムーニーが火を起こす。
ポコが鍋を置く。
ビッグ・ベンが野菜を切る。
オヤスミが水を浄化する。
メリーズが魔法で鍋の温度を一定に保つ。
グーンは周囲を警戒している。
そして。
邪神は。
『…………』
その光景を眺めていた。
『……不思議だ』
ポコが振り返る。
「何がですか?」
『我が世界を滅ぼそうとした者たちが』
邪神は呟いた。
『我のために料理をしている』
「お腹が痛い患者さんがいたら、助けるのが普通ですよ」
『…………』
「邪神さんも、もう患者さんです」
『…………そうか』
邪神は静かに目を細めた。
『患者……』
その言葉を。
何度も噛みしめるように。
『……悪くないな』
◆
それから一時間後。
「できました!」
巨大な鍋が完成した。
中には。
柔らかく炊いた米。
細かく刻んだ野菜。
胃腸に優しい薬草。
そして少量の塩。
「…………」
邪神が鍋を見つめている。
『…………これが』
「お粥です」
『…………』
邪神が恐る恐る匙を取る。
もぐ。
『…………』
もう一口。
もぐ。
『…………』
さらに一口。
そして。
『…………うまい』
「本当ですか?」
『うまい』
邪神が静かに頷く。
『……こんなものを食べたことはない』
「いつも何を食べてたんですか?」
『大陸』
「はい」
『大海』
「はい」
『巨大生物』
「…………」
『たまに神』
「神を食べてたんですか!?」
『食べた』
「…………」
ポコは少しだけ遠い目をした。
「今度からはお粥にしましょうね」
『そうしよう』
邪神は素直に頷いた。
もう一口。
『…………』
そして。
『世界を喰らうより――』
また一口。
『こっちのほうがうまい』
「よかったです」
ポコが笑った。
オヤスミも。
メリーズも。
グーンも。
ビッグ・ベンも。
そしてムーニーも。
自然と笑っていた。
そのとき。
――ぐるるるるるるる。
「…………」
全員が固まった。
『…………』
邪神も固まった。
ポコが恐る恐る尋ねる。
「邪神さん?」
『…………』
「また痛いですか?」
『…………』
邪神が腹を押さえる。
『……いや』
「では?」
『…………』
邪神は。
少し恥ずかしそうに言った。
『……腹が減った』
「…………」
ポコが笑顔になる。
「では、もう一杯どうぞ」
『…………頼む』
ムーニーが天を仰いだ。
「…………」
グーンが尋ねる。
「どうした?」
「いや」
ムーニーは苦笑した。
「俺たち、本当に世界を救ったんだよな?」
「ああ」
「邪神を倒したんじゃなくて?」
「ああ」
「お粥を食わせてるけど?」
「ああ」
「…………」
ムーニーは少しだけ考えた。
そして。
「まあ、いいか」
その隣で。
メリーズが静かに呟いた。
「……ところで」
「ん?」
「私、今日はちゃんと活躍していますよね?」
「…………」
全員がメリーズを見る。
今日。
彼女がしたこと。
温度管理。
以上。
「…………」
メリーズが不安そうに尋ねる。
「賢者として」
「…………」
「ちゃんと役に立ちましたよね?」
ムーニーが頷いた。
「うん」
「本当ですか?」
「たぶん」
「たぶん……?」
「ノーコメントで」
「…………」
メリーズは無表情になった。
その隣でオヤスミが胸を張る。
「私はちゃんと活躍しましたよね?」
「ああ」
「消化促進魔法を使いました!」
「はい」
「聖女ですから!」
「はいはい」
ポコが笑う。
「皆さん大活躍です」
その言葉を聞いた邪神が。
『…………』
三人を見た。
そして。
『……仲が良いのだな』
「はい!」
ポコが答えた。
「勇者パーティですから」
『…………』
邪神は。
しばらく黙っていた。
そして。
『……なら』
小さく呟く。
『我も仲間に入れてくれないか?』
「…………」
全員が固まった。
「え?」
ムーニーが聞き返す。
『我も』
邪神はもう一度言った。
『その……仲間に』
「…………」
ムーニーは困った。
当然だ。
相手は邪神。
つい先日まで世界の敵だった存在。
勇者パーティに加入させるなど。
普通ならあり得ない。
しかし。
ムーニーは。
隣を見る。
グーン。
オヤスミ。
メリーズ。
ポコ。
ビッグ・ベン。
そして。
自分たちを見つめる邪神。
その表情には。
以前のような破壊の意思はなかった。
あるのは。
ほんの少しの不安だった。
『……駄目か?』
「…………」
ムーニーが頭を掻く。
「いや」
『…………』
「駄目じゃない」
邪神の目がわずかに開く。
「ただし」
ムーニーが指を立てた。
「世界を食べるのは禁止」
『分かった』
「人間を食べるのも禁止」
『分かった』
「魔族も禁止」
『分かった』
「神も禁止」
『…………』
「そこだけ考えるな」
『……分かった』
「あと、腹痛になったらすぐ言え」
『分かった』
「我慢するなよ」
『分かった』
「お粥を作るから」
『…………』
邪神が。
静かにムーニーを見つめる。
『……本当に』
「ああ」
『我を仲間にしてくれるのか?』
「腹痛の患者を放っておけないだろ」
『…………』
邪神の巨大だった瞳が。
少しだけ潤んだように見えた。
『……ありがとう』
ムーニーが笑う。
「こちらこそ」
『なぜだ?』
「さあ?」
ムーニーは肩をすくめた。
「でも、もう敵じゃないんだろ?」
『…………』
「なら、それでいい」
邪神は。
ゆっくりと頷いた。
『……分かった』
こうして。
世界史上、前代未聞の事態が起きた。
勇者。
剣聖。
大魔王。
聖女。
賢者。
薬師。
そして――。
元・邪神。
七人の英雄。
いや。
六人の英雄と一柱の邪神による。
新たな勇者パーティが誕生した。
もっとも。
『…………腹が減った』
「またですか!?」
ポコが慌てて鍋を持ち上げる。
『……お粥をもう一杯』
「はい!」
邪神は嬉しそうにお粥を受け取る。
もぐ。
『うまい』
「よかったです」
もぐ。
『もう一杯』
「まだ食べるんですか!?」
『我は邪神だ』
「だからって食べ過ぎは駄目です!」
『…………』
邪神がしょんぼりする。
「…………」
ポコがため息をつく。
「じゃあ、あと半分だけですよ」
『分かった』
ムーニーがその様子を見て。
「……こいつ」
グーンが頷く。
「食客だな」
「大食客だ」
ビッグ・ベンが訂正する。
「世界を喰らう大食客だ」
「もっと駄目だろ、それ」
オヤスミが笑う。
「でも、平和ですね」
メリーズも頷く。
「ええ」
そして。
ポコが邪神にお粥を渡す。
「熱いので、ゆっくり食べてくださいね」
『……ありがとう』
その光景を見ながら。
ムーニーは思った。
――これでいい。
世界を救うということは。
必ずしも。
巨大な敵を倒すことではないのかもしれない。
剣を抜くことでも。
魔法を放つことでも。
命を懸けることでもない。
もしかすると。
目の前で腹を痛めている誰かに。
「大丈夫か?」
と声をかけ。
温かい食事を作ってやること。
それもまた。
世界を救うということなのかもしれない。
……もっとも。
「ポコ」
「はい?」
「次から邪神の飯代、どうするんだ?」
「…………」
全員が邪神を見る。
邪神は。
まだ鍋を食べている。
『……おかわり』
「…………」
ムーニーが頭を抱えた。
「食費が世界を滅ぼしそうなんだけど」
ビッグ・ベンが真顔で答える。
「余の魔王城の食料庫でも一月持たんだろう」
「お前のところも駄目なのかよ!」
グーンが考える。
「なら、邪神には自分で食料を調達させればいい」
「何を?」
「山とか」
「駄目だろ!」
オヤスミが手を挙げる。
「畑を作りましょう」
「邪神が?」
「はい」
「何を育てるんだ?」
「お米です」
『…………』
邪神が静かにこちらを見る。
『我が』
「はい」
『米を作るのか?』
「はい」
『…………』
邪神は。
しばらく考え。
『……やってみよう』
「えっ」
ムーニーが驚く。
『お粥が美味しかったからな』
「…………」
こうして。
世界を喰らうはずだった邪神は。
次の日から。
田んぼを耕すことになった。
山を喰らっていた巨大な存在が。
土を耕し。
種を植え。
水を撒く。
そして。
収穫した米で。
自分のためのお粥を作る。
――誰が予想しただろう。
世界を滅ぼしかけた邪神の第二の人生が。
農業から始まるなど。
そして後世の歴史家たちは。
この出来事について。
たった一行だけを残した。
――邪神、勇者パーティに加入。
加入理由――腹痛。
なお。
翌日には。
――邪神、農業を開始。
その翌日には。
――邪神、お粥を作る。
さらに翌日には。
――邪神、漬物を覚える。
そして。
数年後。
歴史書には。
こんな一文まで追加されることになる。
――かつて世界を滅ぼそうとした邪神は、最終的に勇者パーティの食事担当となった。
世界を救った英雄たちは。
今日も。
邪神を囲んで食卓を囲む。
「おかわり!」
『…………』
「……邪神さん?」
『……もう一杯』
「駄目です!」
こうしてまた一つ。
世界史に。
とんでもない一行が刻まれた
――邪神、勇者パーティに加入。
ただし。
加入理由――腹痛。
そして。
その日から世界は。
もう一度だけ。
平和になった。
だが、世界を救った勇者パーティ最大の敵は、邪神の食費だった。




