第14話 白耀騎士団と、黒騎士の影
王立白耀騎士団が城塞都市ローグナットへ到着したのは、昼を少し過ぎた頃だった。
城門をくぐる白銀の騎士たちへ、町の方角から歓声が上がる。
歓迎の声は幾重にも重なり、地響きのように城壁を震わせていた。
隊列の先頭を進むのは、白銀の甲冑に純白の外套をまとった一人の女騎士。
オルセリア・ブラジネット。
史上最年少で王立白耀騎士団の団長に任命された、王国屈指の剣士である。
青みがかった長い黒髪を背中で束ね、騒ぎ立てる住民たちへ軽く手を上げる。その凛とした姿に、さらに大きな歓声が湧いた。
「わざわざ俺たち本隊が来るほどのことですかねえ」
オルセリアの斜め後ろから、気の抜けた声が聞こえてきた。
副団長のダリオ・ベルネックである。
白耀騎士団の外套を肩へ引っかけ、馬上で大きなあくびをしている。
騎士というより、酒場から朝帰りしてきた放蕩貴族にしか見えない。
オルセリアは前を向いたまま、眉間に小さく皺を寄せた。
なぜ、こんな男が副団長になれたのか。
不思議でならない。
いや、理由はわかっている。
政治というやつだ。
実力ではない。
人望でもない。
金と、家柄と、取引。
金で買った爵位を持つ商家の小倅が、私に勝っているものなど何ひとつない。
あるとすれば、悪事を働きながら、それを誰にも見つからないよう隠す技術くらいだろう。
「大司祭猊下のご神託です。軽視するわけにはいきません」
「神託、ねえ」
ダリオは鼻を鳴らした。
「辺境の神殿で変な光が出た。魔物が騒いだ。とっくの昔に忘れられたカビ臭い剣技らしき痕跡が残っていた。そんなもの、地方騎士団に調べさせれば十分でしょうに」
「すでに調査は行われている」
オルセリアは淡々と返した。
「ローグナットの駐屯兵を中心に、傭兵や冒険者を加えた部隊が神殿へ入った」
「なら、なおさら俺たちの出番はないでしょうに」
「寄せ集めの部隊による調査だけでは、王都へ上げる報告として信憑性に欠けると、国王陛下が判断されたのだ」
怪光が観測されたのは事実。
異常な魔力が検出されたことも事実。
そして神殿内部には、古代文献に記された伝説の黒騎士が放つ剣技と酷似する剣戟の痕跡が残されていた。
ただし、現場を確認したのは駐屯兵と傭兵、冒険者たちである。
彼らが虚偽を報告したとは考えていない。
しかし、古代の伝承に関わる事柄を、剣技に精通していない者たちの証言だけで判断することもできなかった。
「神殿内部では、大規模な崩壊も確認されている」
オルセリアは続けた。
「さらなる崩落の危険があるならば、周辺を規制しなければならない。冒険者や巡礼者が巻き込まれてからでは遅い」
「冒険者が勝手に崩れた異端の神殿へ入って、勝手に潰される。珍しい話でもないでしょう」
「だからといって放置する理由にはならない」
ダリオは面倒そうに肩をすくめた。
断絶の神殿は、長年にわたり第四階層までしか確認されていなかった。
だが、今回の崩壊をきっかけに、誰も見つけられなかった第五階層への通路が開いたのではないか。
そんな憶測まで飛び交っている。
ただの噂であればよい。
しかし未知の階層から強力な魔物が地上へ出てくる可能性も、否定はできなかった。
「それにだ」とオルセリアは念を押すようにダリオを睨みつける。「判断を下すのは副団長ではない」
「そりゃそうですけどねえ。団長殿も、本音では大げさだと思っているんじゃありません?」
オルセリアは答えなかった。
この男と会話を続けること自体が、時間の浪費だと思ったからだ。
彼女はわずかに顔を動かし、後方を確認した。
隊列の少し後ろに、一人の騎士がいる。
デーリック・ロゥ・モルディアーノ。
年齢は35歳。
騎士としては働き盛りにありながら、その落ち着いた物腰と厳格な立ち振る舞いから、実年齢以上の貫禄を備えていた。
短く整えた濃灰色の髪。
派手な装飾を好む俗な貴族騎士と違い、飾り気のない実戦的な甲冑。
寡黙だが、その存在感は重い。
血筋。
実力。
人望。
そのすべてを、モルディアーノ卿は備えている。
本来であれば、彼こそが白耀騎士団長にふさわしい。
今も騎士団がオルセリアの命令に従っているのは、彼女の号令そのものに絶対的な力があるからではない。
オルセリアの号令に、モルディアーノ卿が黙って従っているからだ。
彼が離反すれば、騎士団の多くは迷わず彼についていくだろう。
そう考えると、ため息の一つも出る。
「どうかされましたか、オルセリア団長」
後ろから声をかけられた。
よりによって、モルディアーノ卿本人である。
「いや……」
オルセリアは少しだけ迷ったが正直に話す。
「このような退屈な任務にまで、ご同行いただき申し訳ないと思っていたところです」
「団長が不用意に頭を垂れるものではありません」
モルディアーノ卿は淡々と言った。
「命令に従うことは騎士の務め。無用な遠慮はなしですぞ」
「そーですよ、団長ぉ」
横から間延びした声が割り込んだ。
ダリオである。
彼は馬を寄せ、にやけた顔をモルディアーノ卿へ向けた。
「それに、騎士デーリック。卿は目上の者に対する口の利き方がなっていない」
モルディアーノ卿の目が、静かにダリオへ向けられる。
「ほう」
「オルセリア団長ではなく、ブラジネット団長と呼ぶべきだ。かつての教え子だからといって、軽々しくファーストネームで呼んでよいものではない。これは団の士気と沽券に関わることですからねえ」
オルセリアのこめかみが、ぴくりと動いた。
この男は。
誰よりもだらしなく馬へ跨がり、先ほどから任務への不満ばかり口にしている男が、騎士団の礼節を語るのか。
モルディアーノ卿はしばらくダリオを見つめていたが、やがて小さく頷いた。
「……失言であった。以後、気をつけるとしよう」
「わかればよろしい」
ダリオは満足そうに笑った。
今すぐ馬から蹴り落としてやりたい。
できるなら、そのまま蹄で二、三度踏んでやりたい。
否。
それは騎士道に背くか。
オルセリアは静かに息を吐き、怒りを胸の奥へ押し込めた。
ここで声を荒らげることこそ、団長としての沽券に関わる。
騎士たちは自分の一挙手一投足を見ている。
史上最年少で騎士団長に任命された女騎士。
若い。
女である。
実績もない。
その肩書きを快く思わない者は多い。
隙があれば引きずり下ろそうと考えている者など、いくらでもいる。
軽率な言動は許されない。
たとえ副団長を馬から蹴り落とすことが、騎士団の士気向上に大きく貢献するとしてもだ。
今回の遠征も、オルセリアは当初、民草の下世話な噂話に近いものだと考えていた。
断絶の神殿で、天を貫くような怪光が観測された。
周辺の魔物が異常な行動を見せた。
神殿内部から、通常では考えられない規模の魔力反応が確認された。
同じ頃、大司祭ルシアナ・アークレイン猊下が女神より神託を受けた。
『冥界に住まう竜の血を継ぐ者、断絶の地に立つ。
その剣は五界を断ち、その手は五界を結ぶ』
大司祭は神託を国王へ報告した。
病床にある国王は、それを重く受け止め、白耀騎士団へ勅命を下した。
任務は五つ。
断絶の神殿における魔力異常の調査。
周辺に生息する魔物の異常行動の確認。
城塞都市ローグナットの防衛・監視の強化。
神殿内にあるとされる冥輝鉄石ヴォルガサイトの確認。
そして、黒騎士復活の予言を検証すること。
古代の文献や聖典に記されている「黒騎士に連なる者」。
それが本当に現れたのか。
現れたのだとすれば、人か、魔族か。
救世主か。
災厄か。
あるいは、その両方か。
ほとんどおとぎ話の世界である。
王国最強の騎士団、その団長率いる親衛隊が動くほどのことかと疑問には思う。
しかし、もし神託が真実であるならば、確かに自分たちでなければ真偽を確かめることは難しい。
このような「黒騎士に連なる者」が本当に存在するのなら、それは千の軍勢に匹敵する「力」である。引き入れるにせよ、抹消するにせよ、高度な政治的思惑が絡みついてくる胡乱な話だ。
そんな暗雲立ち込める憂鬱な任務に、モルディアーノ卿が同じ隊にいてくれることは心強かった。
軽薄で上っ面だけの副団長など、いずれどこかの戦地で――。
否。
やはり、それは騎士道に背く。
オルセリアは自制するために軽く頭を振った。
ローグナットの常駐兵宿舎へ入ると、オルセリアはすぐに騎士たちを中庭へ集めた。
数十人の白耀騎士が、一斉に姿勢を正す。
「これより市街で聞き込みを行う」
オルセリアの声が響いた。
「断絶の神殿ギル・ハザドへ出入りした者。怪光を目撃した者。異常な魔力、あるいは見慣れぬ剣技を目撃した者を優先して調べよ」
騎士たちの視線が集まる。
「特に、素性を隠している者。常人離れした剣技、魔力を持つ者には注意せよ」
オルセリアは一度、言葉を切った。
「我々には国王陛下の名において、容疑者を連行し、事情を聴取する権限が与えられている。これは勅命であり、教会からの正式な要請でもある」
静かなざわめきが走った。
「ただし、無用な暴力は禁ずる。相手が抵抗しない限り、罪人として扱うな」
ダリオは部下と顔を見合わせ、薄く笑っていた。
「神託の真偽が判明するまで、我々が王都へ戻ることはない。各員、そのつもりで任務に当たれ!」
「はっ!」
騎士たちの声が中庭を震わせた。
◇
遠く離れた岩場まで、地響きのような歓声がかすかに届いてきた。
「なんだろう?」
俺はローグナットの方角へ顔を向けた。
祭りでも始まったのだろうか。
まあ、いい。
こっちはそれどころではない。
目の前には、鋼尾獅虎グラウゼルのポムがいる。
正確には、俺が近づくと洞穴の奥へ引っ込むため、姿はほとんど見えていない。
「ほら、食え。肉も入ってるぞ」
餌を洞穴の前へ置く。
暗がりの奥から、低い唸り声が返ってきた。
まったく懐かない。
俺が一歩近づけば、二歩下がる。
餌を置いても食べない。
俺が洞穴から出て、距離を取って静かにしていると、ようやく物音が聞こえてくる。
姿を見せたまま食べてくれてもいいじゃないか。
こっちは餌代まで出しているんだぞ。
そういえば以前、神社の裏にいた野良猫へ煮干しを大量に献上したことがある。
あれだけ貢いだのだから、最終的には膝へ乗ってくるくらいの展開を期待していた。
現実は厳しかった。
猫は最後まで俺に懐かず、煮干しだけを受け取って去っていった。
通算成績。
動物からの好感度、ゼロ。
女の子からの好感度も、ほぼゼロ。
俺の身体から、動物が嫌う特殊なフェロモンでも出ているのだろうか。
いや。
動物だけじゃないか。
女の子も全然寄ってこなかった。
そう考えると、転生前の俺は、生物全般から警戒される存在だったことになる。
何者だよ、昭島透。
だが、俺は諦めない。
いつか必ず、ポムの肉球を触る。
あの鋼鉄の尻尾と獅子の顔を持つ魔獣にも、肉球くらいはあるはずだ。
なかったらどうしよう。
いや、ある。
俺はそう信じる。
いつの日かポムが自分から腹を見せ、俺がその柔らかな肉球を思う存分ふにふにできる日が来る。
俺は今ここで、固く心に誓った。
世界を救うとか、冥府竜帝を倒すとか、そういう大きな目標はまだ保留である。
当面の目標は肉球だ。平和な日常にぴったりの目標じゃないか。
リアンは朝からギルドへ出かけている。
「手頃な仕事がないか見てくるわ」
そう言っていた。
俺に借金ができたのが嬉しいのか、なぜか少しスキップしていた。
どこまでS属性なんだ、あのエルフっ子。
返済という名目で俺をタダ働きさせる未来を想像し、胸を躍らせていたのかもしれない。
俺は洞穴の前の岩へ腰を下ろした。
まず頭に浮かんだのは、ミミルと女将さんのことだった。
半獣半人の幼い女の子。
獣や魔物と意思を通わせることができる。
戦災で家族を失いながらも、素性を隠して宿屋で健気に働いている。
そんなキャラクターを俺が創作していたなら、絶対に覚えているはずだ。
忘れるわけがない。
女将さんだってそうだ。
行き場のない半獣人の少女を引き取り、事情を深く問い詰めることもなく、自分の娘のように守っている。
この二人だけで、ひとつのエピソードが作れる。
それなのに、まったく覚えがない。
街並みは俺が想像していたとおりだった。
宿屋の部屋も。
木製のベッドも。
酒場の薄暗い雰囲気も。
剣や魔法、魔物の名前に至るまで、俺が作った設定の痕跡がある。
なのに、そこに暮らしている特定の人物だけが、俺の知らない要素であふれている。
リアンだってそうだ。
金髪。
エメラルド色の瞳。
風の精霊を操る剣士。
少し口が悪くて、妙に面倒見がよくて、紅茶とワインにはやたらとうるさい。
あんな可愛い子を設定していたなら、絶対にメインヒロインにしている。
俺の中学生時代の欲望を、いや感性をなめてもらっては困る。
あれだけ属性が盛られた美少女を、脇役として放置できるほど我慢強くはなかったはずだ。
「わけわからん」
思わず、声に出して呟いた。
この世界は、俺の作った世界によく似ている。
だが、同じではない。
設定の隙間から、俺の知らない人間や出来事が次々と生まれている。
それとも、俺が忘れているだけなのか。
考えなければならないことは、まだいくらでもあった。
その中でも、まず整理しておくべきなのは――。
ザインハルト・フォン・ノワール。
この俺、昭島透が中学生の頃に作った、暗黒の魔導騎士。
設定上、ザインハルトは人間と竜種の混血だ。
冥府竜帝と深い関わりを持つ、特殊な血統に生まれている。
彼が使う剣技は、太古に「黒騎士」と呼ばれた人物が完成させた最強の剣術。
古代文献には技名や概要だけが残されている。
ただし、習得法は失われた。
再現できる者も存在しない。
たしか、そういう設定だった。
設定を作った俺が「たしか」と言っている時点で、かなり危うい。
中学生の俺は膨大な設定を作ったが、整理整頓という概念を持っていなかった。
思いついたことを大学ノートへ書き殴り、そのノートをどこに置いたか忘れ、また別のノートへ似たような設定を書く。
その結果、黒騎士が竜帝の忠臣だったノートと、竜帝を封じた英雄だったノートが、両方存在した。
どっちなんだ。
作者を呼べ。
俺だ。
黒騎士は、冥府竜帝に仕えた忠臣だったとも伝えられる。
一方では、竜帝を封じた裏切り者だったとも伝えられている。
善悪は断定されていない。
救世主の可能性もある。
世界を滅ぼす者の可能性もある。
つまり、格好よさを優先しすぎて、何も決めていなかった。
しかし、この世界では、その曖昧な設定が歴史として存在している可能性がある。
考えてみれば、リアンはそこそこ熟練した冒険者だ。
それなのに、ザインハルト・フォン・ノワールという名前を知らなかった。
一度、主人公であるはずのレヴァンの名も口にしてみたが、まったく反応しなかった。
レヴァン。
俺が作った物語の主人公。
はじまりの村で暮らす少年。
やがて勇者として旅立ち、五つの世界を巡り、冥府竜帝と戦う。
本来ならば、そうなる。
「一度、はじまりの村へ行くべきだな」
俺は呟いた。
レヴァンがいるのか。
いないのか。
物語は始まっているのか。
世界は滅びへ向かっているのか。
まずは、そこを確かめなければならない。
この世界で生きていくにしても、根本的な部分を押さえておくべきだ。
俺の人生は、根本的な部分を押さえないまま30年が経過した。
職歴。
貯金。
将来設計。
どれも根本から手つかずだった。
異世界では、同じ過ちを繰り返したくない。
俺は空になった餌袋を持ち上げ、洞穴へ向かって声をかけた。
「また来るからな、ポム」
返事はない。
少し歩いてから振り返ると、ポムが洞穴の入口から顔を出し、餌を食べ始めていた。
やはり、今のところ俺が嫌いらしい。
だが、覚えておけ。
いつかその肉球、触らせてもらうからな。
◇
宿屋へ戻ると、入口の前にミミルが立っていた。
俺を見つけた瞬間、頭の上にかわいい獣の耳がぴんと飛び出す。
しかし、すぐに自分で気づいたらしい。
ミミルは慌てて両手で耳を押さえ、そのまま髪の中へ引っ込めた。
見なかったことにしておこう。
「ハルトさん!」
ミミルが駆け寄ってくる。
その後ろから、女将さんも慌てた様子で出てきた。
「あんたの奥さん、連れてかれたよ! 白耀騎士団に!」
「奥さんだって!?」
俺は思わず身を乗り出した。
「ちょっと待って女将さん! もう一回言って! すごい興奮する!」
「ハルトさん!」
ミミルに本気で怒られた。
「あ、そうだよね。そこじゃないよね」
一瞬でも浮かれた自分を殴りたい。
いや、でも女将さん。
いい響きだったよ。ありがとう。
人生で一度も俺に向けられたことのない単語である。
「……って、今、白耀騎士団って言ったか?」
白耀騎士団。
俺は心の奥に眠っている設定資料を引っ張り出した。
正式名称、神聖王国アルヴァレス王立白耀騎士団。
王家直属にして、アルヴァレス最強とされる精鋭騎士団だ。王族の護衛はもちろん、大規模な魔物の討伐や国家規模の災厄なんかにも駆り出される。超エリート集団。
……そんな連中が、なんでローグナットに?
しかも、リアンを連れていった?
嫌な予感がする。
心当たりがあるとすれば、冥輝鉄石くらいだ。
けれど、たかが鉱石ひとつで王家直属の精鋭騎士団まで動くとは思えない。
だとすると。
リアンは、いったい何をやらかした?
「いや、ちょっと待って。『連れていかれた』っていうのは大げさじゃないの?」
俺はふたりに言い聞かせるように続けた。
「ヴォルガサイトの依頼について、話を聞かれているくらいじゃないのか?」
リアンも王都のギルド本部じゃなければ換金できないと言っていた。
それくらい希少な鉱石を手に入れているのだ。
鍛冶屋のおやじさんが調査団が来ると言っていた。
事情くらいは聞かれるだろう。
女将さんが怪訝そうな顔をした。
「話を聞くだけなら、両腕をつかんで罪人みたいに引きずっていくもんかね」
「……え?」
「詳しいことはわからないけどね。黒い騎士がどうのこうのって話をしていたら、あの子が騎士たちと口論になってさ。最後は半ば強引に連れていかれたよ」
「黒い騎士……?」
背中に、冷たいものが走った。
なんだ、それ。
俺はまだ誰にも、ザインハルト・フォン・ノワールの設定なんて話していない。
リアンにもだ。
「白耀騎士団はどこにいる?」
「ギルド支部の裏手に、常駐兵の宿舎がある。たぶん、そこに――」
女将さんが言い終えるより早く、俺は走り出していた。
俺のせいで、リアンが連れていかれた。
そんなことになるとは思っていなかった。
どうなっている。
白耀騎士団は、俺を知っているのか。
誰が。
どこまで。
頭の中で疑問が渦巻く。
だが、今は考えている場合じゃない。
リアンを助ける。
それ以外のことは、あとで考えればいい。
俺は人通りをかき分け、常駐兵宿舎へ向かって駆けた。




