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段取り八分、 仕事二分

「あれ? 今度は冬一郎さんが撮影者なの」


「コラ! やめなさい」


 直風でつっつこうとする百春を、


 冬一郎は「メッ!」とたしなめた。


 こんな異物はとっとと突き返すに限る。


 づかづかとロン毛に近づき、


 鼻ピアスを投げ渡した。


「オメーが持ってろ」


 手に持ったマジックスピアで器用に弾き返された。


 鼻ピアス型であろうともソーサリングは精密機械。


 過度な衝撃を与えてはならない。


 冬一郎は諦めて落下する前にキャッチした。


「どうしてこうなった……」


「オイ! カメラこっちにちゃんと向けろよ」


「へーへー」とボヤいたときだった。


 彼の脳裏にインスピレーションが貫いたのは。


「なにが可笑しい」


「いやいやなんでもありませんて」


 不審な目を向けるロン毛から逃げるように、


 冬一郎は枠線の外に出た。


「なにが可笑しいのよ」


「悪い顔をしてるねえ」


 鴛海と陸浦にも疑われている。


 それほど会心な閃きなのだ。


「いやねえ、 カメラっていう言葉でピンときたんですよ。 自分は今、 配信のカメラマンなんだって」


「そうね」


「確かに」


「てことはだよ。 映すも映さないもこちらの思うがままじゃないか。 馬鹿め。 なーにがお命(パンツ)頂戴だ。 させねーよそんなもん」


 こらえきれず嗤いだす冬一郎。


 鴛海も「いい気味だわ」と妖しく微笑む。


 二人に合わせて陸浦も笑ってみせた。


 彼としては力づくで試合を止めるという選択肢があったし、


 ここいらでお開きにさせてもよかった。


 だが当人同士が望んでいるし、


 冬一郎によってレギュレーションも塞がれた。


 そして何より三試合目こそを望む者がいる。


 ならばこのまま見て見ぬふり。


 最後まで放置しようと決め込んだ。


 中央ではロン毛が構えをとっている。


 槍術ではなく拳法の構えだ。


 息を大きく吸って、


 息を大きく吐いて。


 繰り返すたびに筋肉の盛り上がりが見て取れる。


 これまでの百春無双を見て、


 肉体強化に努めてるのはわかる。


 わかるのだが――。


「何をやってんだか」


 冬一郎はため息混じりに言った。


 両手は塞がっているが片肘を立てて、


 頬杖でもつきたくなる心境だ。


 段取りが悪いと言ったのは英莉だったか。


 あんなに仕切り上手だった割には判断が遅い。


 前二試合も含めて時間はたっぷりとあったはず。


 雲行きが怪しかったら準備をするべきだったのだ。


 結果、


 土壇場であわてて肉体強化。


 しかも空調の効いた室内。


 ろくに霧を取り込めず効率最低。


 実戦ならここまで待ってくれる敵などいない。


 そして視聴者も待ってくれない。


 スカレポのヘビーユーザーとしてやや辛い評価を下したのは否めなかった。


 だが悪いことばかりではない。


 ロン毛のスピアが前ニ試合のように短くなかったのだ。


 百春が持つ直風より短いタイプのヒルマキに近い。


 要は近代槍術より古流槍術に近い戦型だと示唆している。


 陸浦の「特殊」という表現に否応なく期待が膨らむ。


 そのためなら多少のもたもたも寛容な心で受け入れよう。


 第二試合の興奮冷めやらぬ彼の中で、


 ハードルだけが爆上がりしていった。


「ねえ、 一つ訊いていい」


 大人しく待っていた百春が口を開いた。


「なんだ」


「あなたが出てきたら審判どうすんの」


「ア?」


 ロン毛は息を吸って、


 吐いて、


 そして――。


「俺がやる」


「ダメでしょ」


「じゃあ俺がやろう」


 二人を分かつように陸浦が名乗り出た。


「チッ、 好きにしろ」


 京浜三羽烏の一翼。


 陸浦流の血統に勝る格なし。


 ロン毛も承諾するしかなかった。


「ちょっと行ってくる」


「いってらっしゃい。 実武さん」


 陸浦が白線を跨いだ足を止めた。


「そうだ、 藪影くん」


「なんでしょう」


「ここから先の解説ができなくて申し訳ない」


「気にしないでください。 とても楽しめました。 十分ですよ」


「申し訳ないついでに一つ、 頼んでいいかな」


「いいですよ。 できることならなんでも」


「よかった。 じゃあ戦っている最中に気づいたことがあったら、 口に出してくれないかな」


「自分が?」


「そう。 君の目線はきっと役に立つから」


 チラリと目をやった陸浦は「宜しく」と離れていった。


 彼が一瞥した相手を見る。


 きっと因縁浅からぬ相手なのだろう。


 鴛海は黙ったまま対峙する両者を見つめていた。


お読みいただき、ありがとうございました。


読者を選ぶ物語だとは思いますが、もし気に入っていただけたなら「ブックマーク」と「↓の評価 ☆☆☆☆☆」をお願いします。


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