続・イシを継ぐもの
「使えねえ」
苛立ちを見せるロン毛に百春が声をかけた。
「カウントする?」
「イラネーよ」
そう答えながら床に倒れた坊主頭の前へ立った。
そして――。
「気持ちよく寝てんじゃねえ。 スッこんでろ!」
腹に蹴りを入れられた坊主頭は場外へ吹っ飛ばされた。
迫りくる人間砲弾に慌てて避ける野次馬達。
その直後、
側壁に叩きつかれた短駆はドサリと床に落ちた。
「大丈夫か」
冬一郎が駆けつけると坊主頭は意識を取り戻していた。
だが息苦しそうに咳き込んでいる。
姿勢を楽にしようと身体を支えたら、
荒々しく払いのけられてしまった。
「俺にかまうな。 ほっとけ」
「急に動かないほうがいい。 まず呼吸を整えよう」
「フン」
触診はできないが見た感じは悪くない。
冬一郎は「OK」のサインを百春に送った。
彼女は一つ頷いて正面に向き直った。
蹴り飛ばした張本人が不敵な笑みを浮かべている。
「いい気になってるのも今の内だぜ」
「ふーん。 それよりも一つ確認していい?」
「なんだ」
「まだ続けるんだよね」
「当たり前だ」
「うんうん。 わかった」
言い終えると落ち着いた様子で直風を振るう。
連戦続きであってもキレは衰えていない。
そんな姿を鴛海は興味深げに見つめていた。
「気になるかい」
冬一郎の問いに「ええ」と一言答えた。
校門前での絡まれ方から見ても、
因縁浅からぬ相手なのは間違いない。
彼女もきっと試合の中から何かを得たいのだろう。
邪魔しちゃ悪いと話を続けるのは止した。
ただ、
興味があるのはこちらも同じ。
もう一人に身も蓋もない質問を投げてみた。
「実武さん。 次の相手って強いですか?」
「……うーん」
一寸間をおいて陸浦が唸った。
「なにか問題でも?」
「いや、 なんて言うか……」
あれだけ饒舌だったのにどうも歯切れが悪い。
「一人目はともかく二人目はかなり強いって素人目でもわかりました。 なら順当にいけば三人目はもっと強い……って思うんですけど」
「強い……強いかぁ。 強いと一言でいってもいろんな種類がある。 彼の場合はちょっと特殊でねえ」
「特殊?」
「そう、 特殊なんだ。 じゃあ藪影くん。 真っ先に思い浮かべる強さってなんだい」
「それは力では」
「次は」
「うーん。 技かな」
「次は」
「今の観戦でスピードの株が爆上がりです」
「その次」
「次……? ああ、 わかりました。 頭脳といいたいんですね。 知識や経験、 そして先読み。 そんな腹の探り合いも忘れてはいけないと」
「次」
「え?」
困惑する顔を見て陸浦も苦笑いした。
「彼の強さ……と言っていいのかどうかわからないけど、 まあ今上げたような次元じゃないんだ。 とりあえすまずは試合を観てみよう。 特殊と表現した理由はすぐにわかるよ。 戦型からしてもう特殊だしね」
「はぁ……」
「そんな大したモンじゃねーよ」
声のした方に振り返ると坊主頭が立っていた。
まだ後遺症が残っているのだろう。
スピアを杖代わりにしてヨロヨロとよろめいている。
「もういいので?」
冬一郎に問われて「ああ」とぶっきらぼうに答えた。
「それに俺はもう用済みだ」
「最後までいないのかい?」
陸浦の言葉に「ハッ」と笑う。
「無様な姿を晒し続ける趣味はネーよ。 あそこに伸びてるバカ連れて医務室へ行く」
「そうですね……それがいいです」
頷く冬一郎に向けて「ケッ」と悪態をつく。
そして、
鼻ピアス(元)の襟首を掴んだところで足が止まった。
「おい、 お前」
「はい?」
坊主頭に呼ばれて冬一郎は近寄った。
「オメー一年坊だな」
「そうですけど」
「あの女と顔見知りだな」
「英莉と? ええ、 まあ」
「じゃあ最後まで観ていけ」
なんのつもりかわからず、
ただ「はい」とだけ答えた。
坊主頭はフッと鼻で笑う。
そして手を出すように指図した。
「後ヨロシクな」
「えっ」
掌に置かれたのは鼻ピアス型のソーサリング。
「あーキモかった鼻ピアス」
「ちょっと待――」
「ねえ! ちょっと待ってよ」
冬一郎の言葉を遮って百春が呼びかけた。
「なんだ」
気だるそうに坊主頭が振り返る。
「もう一つだけちょうだい」
「まだ俺から盗るのかよ。 もう何もねえぞ」
突っぱねようとしても百春は揺るがない。
「名前ちょうだい」
「ハ? 名前?」
「あなたのお名前」
坊主頭は大きなため息をついた。
そして――。
「坊西道昭」
と言い残して鼻ピアス(元)を引き摺り去っていった。
「マテマテマテ。 綺麗に纏めるな」
冬一郎の非難に耳を貸す者はいない。
右手に脱ぎたてのタイツ。
左手にもぎたての鼻ピアス。
新手のハイレベルな変態に、
周囲の視線はどこまでも冷ややかだ。
「ねえ」
鴛海が声をかけた。
「わかってる」
「ねえってば」
「わかってるから。 みなまで言うな」
「無様ね」
「俺は今モーレツに恥ずかしい!」
どこまでも深い大きなため息がまた一つ聞こえた。
お読みいただき、ありがとうございました。
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