すべては得られるものだから
ディフェンスワークを学ぶ際に、
よく攻守一体で行えと説かれる。
それはただ守るだけでは相手を止められない。
必ず反撃を加えて攻撃の出鼻をくじくためだ。
それゆえに一番してはいけない体勢がある。
足が利かず腰も回せない。
逃げ、
避け、
攻め。
全ての手段が著しく制限される状態。
それが地面に転ぶということ。
今試合中で早くも二度目。
さすがに百春も見逃しはしなかった。
「ブレード」
錬成して下段突き。
坊主頭の足にヒットさせた。
「効果だ。 仕切り直せ」
ロン毛に宣告されて二人は戦闘態勢を解いた。
「んもー足癖悪いなあ」
百春はやや納得いかない様子で離れる。
彼女は急所に一本入れようとしたが、
寸前で錬成刃が蹴り割られてしまった。
もちろんルール的には問題ない。
しかし刃の部位を叩いたので相打ち判定が下された。
「おい」
立ち上がった坊主頭をロン毛が呼び止めた。
「なんだ」
「なにチンタラしてんだよ」
「ウッセ」
「視聴者が撮れ高待ってんゾ」
「知るか」
「オイ! 待てよ」
他人がああだのこうだのかまっていられないほど、
坊主頭は追い詰められていた。
苦心に苦心を重ねて詰めた距離がまたご破算。
ふりだしに戻ってしまったという現実。
それが疲労という形をとって重くのしかかってくる。
だから今にして思う。
「なんでこうなった。 勝ち点付かねーヤツ相手に…」
最後に見せた三つ目の縮地と縮地中の錬成。
今までひた隠しにしてきた二つの秘技。
これらはもっと大切に遣うはずだった。
それこそ人生が二つに分かつような局面で。
なのにこんな下らない配信の、
どうでもいい余興で明かしてしまうとは。
ここまで熱くなってしまった理由。
自分は彼女に一体何を見たのか。
それがどうしてもわからなかった。
「始め!」
ロン毛の掛け声で坊主頭は反射的に構えた。
まだ頭の中はゴチャゴチャしている。
飛び込むネタは尽きて体力も限界。
試合中に回復できるかも怪しいところ。
どちらにしろ攻めっ気が無いのにかこつけて、
ここは受けに徹しながら力を蓄えるしかない。
中央から動かない百春を見る。
変わらず小唄を口ずさみながら待ち構えている。
「あっ」
思わず声を出してしまった。
彼女の変化に気づいたのだ。
それは会得。
この試合の中で彼女は様々なものを吸収していった。
守りの片手持ち。
手刀。
転身。
縮地。
そしてリズム。
目の前でみるみる成長していく相手に、
自分は意地になってしまったのだ。
長く長く積み上げてきた努力が、
こんな簡単に真似できるものではない。
そう証明したかったから奥の手を晒してしまった。
なのに破られた手段が、
事もあろうに自分の努力だったとは。
この有様を因果応報と呼んでいいものか。
自嘲気味に笑ったその時だった。
「あなたも得るものはあった?」
百春は優しく尋ねた。
これまでなかった穏やかな声で。
今更ながら思う。
この優等生はいつから両手で構えていたのか。
試合に夢中だったから全くわからない。
一挙手一投足を見逃さない。
そう注視していたはずなのに。
いや見てても読めなかったのだ。
読まれやすいという指摘も今となっては遠回しのアドバイスか。
本当にコイツらは――。
「ああ、 なんにもネーヨ。 盗られまくりで散々だ」
「あっ! ひっどーい」
「けどな――」
坊主頭は中段に構えた。
「これからは会得にいくぜ」
「うん」
百春も変わらず中段の構え。
二人はジリジリとにじり寄る。
遮るものは何もない。
雑音も。
静寂も。
思考も。
直感も。
肉体も。
精神も。
その境地は無心。
在るのは「ただ突く」という純粋な槍技形式。
決着の刻。
先に動いたのはやはり坊主頭。
リーチ差を埋めようとステップインで挑む。
だがスピードが乗っていない。
百春は直風を突き出した。
枝刃でフォローすることなく、
刃身を直に相手の腹へ突き刺した。
錬成刃は肉体に阻まれ粉々に砕ける。
その後から電流が迸り坊主頭の胴体を貫いた。
突きに生体電気を乗せる雷突。
それはどこまでも曲がらずに、
ひたすら直線を疾る雷光であった。
お読みいただき、ありがとうございました。
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