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セキレイは二度舞う

大変お待たせしました。

バタバタとしましたが100話目更新です。

ついてきてくださった読者様には感謝しかありません。


もう一つご報告です。

区切りの良いところでフォーマットを変更しました。

手作り感満載で申し訳ありません。

どうすれば楽しんでいただけるか。

それを追求するための措置なのでどうぞ御容赦を。


ご不便をおかけしますが、これからも宜しくお願いします。


 ロン毛の深呼吸が治まった。


 強化を終えた肉体は元からおよそ二割増し。


 特に腕・脚といった筋肉は、 服の上からでも盛り上がりがわかる。


「準備いいぜ」


 窮屈になった上着を脱ぎ捨てた。


 それを陸浦がサッと拾って、 冬一郎の腕にはらりとかける。


「これ宜しく」


「ちょっとぉ! 実武さぁん!」


 非難の声を背中に聞きながら、 また二人の元へと戻ってきた。


「おい、 邪魔だ。 槍当たるぞ」


 ロン毛が刃無しのスピアを胸元に押し当てた。


「試合が始まれば距離を取る」


「白線まで下がってろって言ってんだ」


 グリップを持つ手に力が入る。


 グリグリと胸を抉るが陸浦は動じない。


「あいにくソーサリングを持ってきていなくてね。 自分の目でジャッジさせてもらう」


「そんなんでよく審判名乗りでたな。 ええ? オイ」


 さらに力を加えて強く圧した。


 今度は肉体強化した筋力も上乗せして。


 なのに涼しい顔をしたまま微動だにしない。


 強い意思や鍛えた肉体といった手応えとはまるで違う。


 これは異能の感触。


 館内に入る前から肉体強化を済ませていたのだ。


 理由はだいたい想像がつく。


 だから口実を与えないためにも、 穏便に済ますしかない。


「心配するな。 公正に判定する」


 そう言ってスピアを掴もうとしたので、 ロン毛は即座に離した。


 触られたくなかったともあるが、

 公正という言葉による反射的な面が大きかった。


 つまりは「反則は許さない」ということだ。


 憎らしいほど用意周到。


 このまま配信を続けたくば、

 陸浦の敷いたレールに乗るしかなかった。


「なんかごめんねー」


 ロン毛と入れ替わりに百春がやってきた。


「いやいや。 こちらは気にせず存分にやってください」


「うん。 ありがとーって……あれ?」


 小首をひねってじろじろと顔を覗く。


「やあ、 初めまして」


「おおー有名人だー。 実武(みぶ)さんじゃーん。 ねーねー冬一郎さん。 スカレポの実武さんだよー。 本物だよー」


「気づくの遅い!」


 両手が塞がった冬一郎は指差すふりをした。


「なんか配信で視るより男前(イケメン)さんだよー」


「いやいやそれほどでも」


「あと圧が強い」


「……圧?」


 男前さんの顔が固まった。


「ご挨拶、 ご挨拶だ。 英莉」


「あっ、 大変失礼しました。 わたしは百春英莉といいます。 お会いできて光栄です」


 百春に会釈されて陸浦は困ったような顔をした。


「そんなに畏まらないでほしいな。 同じ一アカデミー生じゃないか」


「去年の公式槍術試合で全戦無敗の新人王。 そんな二年生に敬意を表すのは当然です。 どの新入生だって同じように振る舞うと思いますよ」


 陸浦は「同じ流れだねえ」と頭の後ろを掻いた。


 百春も困らせるのは不本意なのでとある提案をしてみた。


「ではスカレポで通っているあっちの呼び方はどうでしょう」


「いや今してたよね。 それでお願いするよ」


「やったぜ! 宜しくお願いしますね、 実武(みぶ)せんぱい」


「いやーハハハ。 なんか調子狂うなあ」


「えーそーですかー?」


「まったくだぜ!」


 蚊帳の外に置かれてたロン毛が、 たまらず割って入った。


「だって実武せんぱいだよ?  予告PVに出演するだけで席取り大変になるくらい、 熱狂的なファンが多いんだから」


「オメーもその口かよ」


「んー……わたしはずっと追っかけてきたから、 たまには追っかけられたい気分だなー」


「……? なに言ってんたコイツ」


「実際の話、 スカレポの看板張れると思うよ。 百春さんなら」


「んもー実武せんぱいって意外とお上手」


「いやいや本当に」


「またまたー」


 また蚊帳の外に置かれるロン毛。


 初対面とは思えない自然な流れだった。


「だから! テメーら和んでんじゃねえ!」


「ハイハイワカリマシター」


「せっかちな野郎は女性に嫌われるぞ」


「コノヤロ……」


 間違ったことは言ってないはずなのに。


 どうして「空気読め」と蔑まされるのか。


 ロン毛の怒りがふつふつと煮立ってきた。


「では、 そろそろ始めようか。 両者位置に」


 陸浦による促しを受けて、 百春とロン毛の両者が離れていく。


 その二人を見比べて冬一郎が「へぇ」と呟いた。


「どうしたのよ」と訊いた鴛海もすぐに気がついた。


 返事を待たずに自分で回答を口にした。


「二人とも中段の構えね」


「ああ。 英莉が片手持ちを止めている」


「正しい判断よ」


「正しい?」


「ええ。 前者二人は踏み込んでの至近距離(クロスレンジ)で闘う戦型だったから。 開幕で潜り込まれた時の備えとして、 片手持ちは理に適っているわ。 けど今回はその心配がいらないと、 スピアの長さで判断したんでしょうね。 だったら安定感のある両手持ちの方がいいって。 力もしっかり乗せられるし」


「確かに」


 さすが経験者はちゃんと理屈を通してくる。


 そう感心した冬一郎だが、 抱いた感想は真逆であった。


 理屈じゃないのが百春。


 棒術の話になるが、 彼女には構えが無い。


 自然体のまま相手と対峙する。


 すなわち構えないことが彼女の構えなのだ。


 中段の構えをとったという事は、

 自分のフォームを崩したということ。


 そこまでする相手と判断したのか、 それとも――。


 相手の「特殊」な戦型も気になるが、

 百春の出方にも興味が湧いてきた。


 なんにしても好カードになる予感がする。


 なのになぜ陸浦は言い淀んでいたのか……それだけがわからなかった。


 陸浦が右手を高々と掲げた。


 時間だ。


「始め!」


「ブレード!」


 手が振り下ろされると同時に、 二枚の白刃が構築される。


 肉体強化の賜物か。


 明らかに前試合より錬成が速い。


 問題はこの後。


 一試合目は様子見。


 二試合目は速攻を選んだ。


 では三試合目は?


「速攻」


 鴛海の言葉どおり、

 二人ともスピードに乗せて突いてきた。


 スピア同士が互いの錬成刃を打ち砕く。


 ウェポンカートリッジから刃が消失したのを、

 マウントユニットが感知。


 初期化措置(リセット・ボム)が発動。


 貯蓄した生体電気を吐き出して、

 互いを強引に引き剥がす。


「クソガアアアアアアア」


 坊西はあっけなく枠線際まで弾かれたが、

 ロン毛はその半分の距離で耐えてみせた。


 なのに百春は初期位置からまったく動いていない。


 これでハッキリした。


 やはり電気量では分が悪すぎる。


 ならば相手の錬成刃を砕きつつ、

 こちらの錬成刃を維持し続けるしか道はない。


 その上で相打ちも厳禁。


 ロン毛の理不尽極まる戦闘方針が固まった。


「ブレード」


 再錬成した彼のスピアがゆらりと揺れだした。


 それはさっき見たと百春も錬成して受け身をとった。


「二試合目の人と似た構えだ」


「鶺鴒の尾(ワグテイル)っていうのよ」


 似て非なることをしっかり見極めている。


 鴛海は技の名を教えながら、

 冬一郎の目が確かなことを実感した。


「ステップ無しでも成立するんだ?」


「ええ。 リズムを刻む目的は主に二つ。 飛び込むためのリズムと攻撃するためのリズム。 長槍を持ってるけど彼も近代槍術の使い手よ」


「飛び込む必要がないからステップは不要。 なるほどね」


「それに刃をよく見てみなさい」


「刃……?」


 目を凝らすと差異を感じる。


 前回よりも揺れに柔らかさが無い。


 鋭敏さが際立つ。


「刃を立てて揺らしてるのよ」


「ああ! 前回のは寝かせてたな」


「リズムの目的によって刃の立て方も変わるってわけ」


「飛び込むために寝かせてたと?」


「ええ。 錬成する刃を極限まで薄くするの。 すると故意的にしなりを生みだせて、 独特の揺らぎを創ることができるわ」


「その揺らぎが相手を幻惑させて隙をつくるってわけか」


「そういうこと」


「じゃあ逆に刃を立たせたら、 なぜ攻撃になる?」


「それは彼女が実践したわ」


「英莉が……?」


「二戦目よく思い出して」


 冬一郎は浮かび上がる記憶を一つ掬った。


「縦の動き……手刀か」


「正解。 刃を立てて揺らす目的はね。 突くのではなく、 斬りにいってるの。 もしくは引っ掻きにいってると表現した方が正しいかもしれないわ」


「引っ掻き……なるほど。 振りが小さいからしっくりくる。 けどなぜだろう?」


「なにが?」


「最短距離で標的に届かせる突きを捨ててまで、 引っ掻きにいく理由がわからないなあ」


「リズムと同じ。 目的が違うのよ」


「突きと引っ掻きで?」


「そう。 引っ掻きのコツはね、 二つあるの。 一つはめくるように槍を操ること。 そしてもう一つが標的に覆い被せること」


「被せる……何を標的……人か? 振りが小さすぎるけど、 小手ならいけなくもない」


「いい線いってる。 あともう一つあるでしょ」


「なんだろう」


「標的よ」


 冬一郎は塞がった両手をぎこちなくこね回す。


 右手で問題を提起。


 左手で仮説を立てる。


 それをぐるぐると繰り返した。


 彼女が示唆したのは標的が複数あるということ。


 一つは相手。


 それは勝敗を決するポイントを稼ぐ意味で正解だ。


 ならばもう一つはポイントが付かない箇所。


 効果も一本も人体に当てないと判定されないから。


 その上で勝敗を決するか、 もしくは貢献する標的。


 残された可能性の中で攻撃してもいい場所。


 一つあった。


 そこは――。


「錬成刃か」


「……当たり。 すごいわね」


 驚きを隠せない様子で鴛海は頷いた。


「ヒントがあれば当たりくらいは付けるさ」


「それでも前知識なしの手探りって大変なのよ」


「霧の中じゃそれが普通さ」


「ふぅん」


 彼女の瞳がちらっと冬一郎の面をかすめた。


 思わぬこそばゆさに表情筋を引き締める。


 とにかく会話を続けようと一つ咳ばらいをした。


「標的が錬成刃として、 どんな組み立てで攻めるのかな?」


「いわゆる武器破壊を狙っているのよ。 立て刃の振り下ろしは横移動の突きに、 高い確率で打ち勝てるわ。 彼女の錬成刃って片刃じゃない」


「そうか。 刃の反対側は強度が弱い」


 冬一郎の指南役。


 紀伊馬の教えを思い出す。


 錬成刃とは化物と戦うために、 極限まで切れ味を増している。


 だから刃の部分以外は酷く脆いのだと。


 百春の刃は片刃。


 刃のない背面部分は上からの衝撃に耐えられない。


「そこを引っ掻いた上で、 本命の人体を突く。 リズムを刻みながら揺れに合わせて、 テンポよく二連撃を加える。 これが立て刃の鶺鴒の尾による基本戦術よ」


 相打ちによる錬成刃の破壊を避けて、

 なお初期化措置の威力差はなはだしい雷撃も防げる。


「よく考えていやがる……」


 冬一郎の目にも、 一筋縄ではいかないだろうと思えた。


お読みいただき、ありがとうございました。

応援もしていただけて作者も励みになります。


読者を選ぶ物語だとは思いますが、もし気に入っていただけたなら「ブックマーク」と「↓の評価 ☆☆☆☆☆」をお願いします。


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