百春無双⑧
「逃げで使っちまうとはな……」
坊主頭は己の両脚を見た。
痙攣こそしてないがダルさを感じる。
弾切れに続いてガス欠も近いらしい。
顔を上げ苦々しく相手を睨む。
細い身体のどこにそんな力があるのか。
ああクソ、 不公平だ。
「ブレード」
百春が錬成刃を作り直した。
それは戦闘続行する意思表示。
しかし彼は別の意味に聞こえた。
弱気な自分を奮い立たせるような。
叱咤激励に。
「へっ、 どうなっても知らねえぞ」
こちらも応じるように再錬成。
そして残りの生体電気を全て足に集中させた。
ディフェンスワークは無用。
ここからステップワークのみで捌く。
「当たらなければどうということはない」
試合前に交わした言葉が圧し掛かる。
気安く言ってくれたものだ。
今更ながら奴らに嫌味の一つでも言ってやりたい。
そんな気分にさせられた。
「そうこなくちゃな」
陸浦の言葉に鴛海も頷いた。
その二人を一歩引いた目で冬一郎は見た。
困難な苦境に立った時、 立ち向かっていくのが彼ら。
ファイターの気質なのだろうかと。
スカウト目線では逃げも全然アリな状況だ。
よくある考え方の違いと一言で片すこともできる。
だが、 どちらかが間違っているわけではない。
彼が言った「これは試合」という言葉を思い出す。
好意的に解釈すれば模擬戦から得られる事もある。
そのための環境づくりがすなわち「試合」なのではないか。
ならばこの試合で得られるものが多いのはどちらなのだろう。
ここからは肩入れせずに見るのも面白い。
三者三様それぞれが対峙する二人を注目した。
「いくぜ」
坊主頭がステップを刻む。
鶺鴒の尾でスピアも揺れる。
左足を横に踏み出しサイドステップ。
また時計回りに隙をうかがうかと誰もが思った。
しかし――。
「あっコラ!」
「じゃーな」
百春が追随する形で転身をした瞬間、
すれ違うように左回りへ切り返した。
向き直すには前足と軸足を入れ替えないといけない。
更に鼻ピアス(元)の試合からずっと、
右回りに目を慣らされてしまっている。
その隙を突いて追撃を躱してみせたのだ。
ここが勝負所。
即座にステップイン。
またしても迫り来る枝刃。
今度は下に潜るのではなく大外に回り込む。
転身で体捌きが遅れたのが仇となった。
まんまと懐を許す百春。
遅ればせながら左手を放して片手持ちに移行。
手刀による錬成刃の破壊を試みる。
「ちぇすと」
「かかった!」
坊主頭が手の中でスピアを回す。
振り上げようとした百春の腕が止まった。
横に寝かせていた刃を直立させたのだ。
刃の部分をを素手で触れるのはアウト。
小手一本と見なされて勝負が決まってしまう。
これで障害は全て排除した。
フィニッシュだ!
そのままスピアを振り下ろす。
狙いは止まった手刀。
鶺鴒の尾の下揺れを利用して引っ掻くように突いた。
「甘い!」
百春は錬成刃に触れることなく手刀を振り上げた。
刃を縦にしたことで揺れ幅が狭まってしまい、
結果として逃げ道を作ってしまったのだ。
それでも問題ない。
次は鶺鴒の尾の上揺れを利用して垂れを狙う。
大きい的だから今度こそ外さない。
坊主頭は渾身の力を込めてスピアを突いた。
「ギリギリ勝ったぜ!」
「甘ちぇす」
突然、 謎の言葉を残して百春が消えた。
あわてて空振りしたスピアを手元に戻す。
ご丁寧に錬成刃が折られている。
即座に「ブレード!」と再錬成。
だが、 迎撃態勢を整えたところで意味は成さない。
彼女がどこにも見当たらなからだ。
白線の四方形に隠れる場所などない。
目にもとまらぬ速さで一体どこへ――目にも止まらぬ?
「バカ後ろだ!」
ロン毛の声に合わせて転身させる。
そして振り向き様にスピアを横へ薙いだ。
また空振り。
業を煮やしてまた怒声があがった。
「お前の後背へ転身してんだよ!」
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