百春無双⑦
割られた刃身は二種類の結末を迎える。
形状を砕かれるか、 それとも維持するか。
無論、 相手の牙を奪うには砕いてしまった方がいい。
強度もないし何より手っ取り早い。
しかし達人の域に達すると斬ることができる。
文字どおり目にもとまらぬ速さで。
形状維持したまま地面に滑り落ちる。
ただし本当に斬れる錬成刃あっての話だ。
なのに百春はあろうことか手刀で斬り落としてしまった。
たとえ対象がなまくらであってもこの衝撃は大きかった。
なぜならその手刀は実戦の錬成刃と同義だから。
何でも貫けるという謳い文句の。
「ちぇす」
今度は短縮された掛け声。
彼女が振り上げた手刀を真っ向から斬り下ろす。
瞬きすら許されない光の如き剣閃。
なまくら同士で戦っていた試合とは既に別次元。
ブロッキングもパンチングも無意味。
相打ちすら絶対に許されない。
本当の死が頭上に降ってくるのだ。
坊主頭に選択肢など残されていない。
「縮地!」
スピードにはスピードを。
懐から脱出して間合いを空ける。
外枠のライン際まで下がったのは勢い余ってではない。
二の太刀を警戒して初速から全開で発動したのだ。
「ふーっ、 やっぱ速いね」
逃がした百春も手刀を解いてぶらぶらさせた。
命の危機はどうにか去ったらしい。
逃げ切った安堵感と引き換えに坊主頭の脳がフツフツと沸いてきた。
「クッソ、 テメェ! 何しやがんだ」
「何って?」
きょとんとする百春。
「その手刀だ手刀!」
「なんで? そっちだって女の子に拳を振るったじゃん」
「俺のは暴力じゃねえ! ディフェンスワークだ」
「名前は」
「は?」
「技名はって訊いてんの」
「……パンチング」
ワナワナと震えながらも律儀に答える。
「じゃあわたしのはねぇ……チョッピングライト!」
「ちげーだろ!」
凶器という意味では至極正しい。
それでも使命感からツッコミを入れる坊主頭。
「じゃあどんな名前がいいの」
「それも違ぇ! 人体への肉体攻撃は反則だって話だ」
「えー初耳なんだけどー」
「常識だろーが。 知っとけ!」
「段取りわるーい。 エスパーじゃないんだからさー」
「うるせえ!」
「他にはもうないだろーねー」
「ねーよ。 とにかくその死んじゃう手刀ヤメロ」
「あっ、 今閃いた。 威嚇はアリ?」
「ナシナシナーシ! 本当に当たったらどーすんだ」
「斬ってみないとわからないなー」
「やっぱ斬るつもりだったかテメー」
「えへ」
「えへじゃねーよ。 マジでヤメロ」
「どーしよっかなー」
本気顔の坊主頭を見てくすくすと笑う百春。
あんなにいがみ合ってた二人がどこか楽しげにすら見える。
どうやら彼女の本領が発揮してきたらしい。
言葉を交わせば交わすほど明るい気分が伝播していく。
百春にはそんな不思議な力があった。
刃を交えたことできっと同じ効果が得られたのだろう。
毒気が抜けたのなら彼も無茶はしないはず。
荒れ試合だけを心配していた冬一郎はほっとした。
「うーん、 良くないねえ」
なにげない陸浦の言葉に耳を疑った。
「どこが良くないんですか、 実武さん」
「彼女じゃないわ」
補足を添える鴛海。
「今の攻撃で決めきれなかったのは大きな痛手だ」
「その上に縮地が二回目」
「縮地は生体電気を大量に消費するから」
「連発できる回数は個人差があるの」
二人によって坊主頭の現状が羅列された。
ここまでくれば冬一郎にもわかる。
生体電気の発電力は肉体に深く依存してる。
きっと彼はもう縮地を発動できないのだろう。
少なくとも現在の試合中では不可能なはず。
陸浦が予言した言葉もようやく理解できた。
「見た目との差異。 そして勝負のキー」
それはは百春と坊主頭の発電力の差だったのだ。
華奢な彼女を見て発電力を見誤ると負ける。
そう言いたかったのだろう。
そして発電力の差を誇示された挙句、
自らの手で決め手を欠くハメになるとは。
皮肉としか言いようが無かった。
お読みいただき、ありがとうございました。
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