百春無双⑥
坊主頭のかかとが上がらなくなった。
リズムは刻んでいるがステップの高さはほぼ無い。
獲物へ十分に近づけた証拠である。
しかし念には念を。
踏み込むリズムすら等間隔にして入身を仕掛けた。
「おおっと」
初見の百春は反応が遅れる。
だが無策のまま待ち構えてはいなかった。
「当然そうくるよな」
坊主頭の往く手を枝刃が阻む。
本来はこれが正しい遣い方である。
なれば講じる対応策があるのも道理。
膝を曲げて腰を落とし、
ステップインより深く踏み込む。
突き出された直風が頭上を通り過ぎていく。
真下へエスケープするディフェンスワーク。
それがダッキングという技である。
しかし百春は潜り込むことを想定していた。
「やらせないぞっと」
手の中で直風を回転させて、
枝刃の向きを横から縦に持ち替えた。
これなら直風の下を潜り込めない。
強行すれば顔面に錬成刃が当たって面一本。
避けるにしろ退くにしろ、
もはや入身は不可能であろう。
百春は確信を持って枝刃を前方へ滑らせた。
「そこが甘ぇんだよ!」
坊主頭は片手持ちへ切り替えた。
空いた右手で拳を作り、 枝刃の横腹を殴りつけた。
錬成刃はとても脆い。
刃の切れ味を限界まで高めた結果である。
しかも今は試合中なので輪をかけて脆く設定されている。
よって素手で一叩きすれば事は済む。
錬成刃は枝刃もろとも砕け散ってしまった。
「あれってアリなんですか!」
冬一郎は思わず叫んでしまった。
「アリ。 パンチングというディフェンスワークよ」
鴛海は試合から目を逸らさずに言った。
「なまくらだからできるんだ」
「確かに本物じゃこう上手くはいかない」
食い下がる批判に陸浦も同意する。
そして「しかしね」と反論の意を突け加えた。
「これは試合なんだ。 実戦ではない」
「本番を想定していない? 意味があるんですかそれに」
「まあ、 最後まで見てればわかるよ」
「……わかりました」
結論を急ぐなと言われて冬一郎は引き下がるしかなかった。
「まだ試合中よ」
二人に注意する鴛海。
まだ戦闘は終わっていない。
攻防はここからなのだ。
錬成刃を破壊され攻め手を失い、
まんまと入身を決められた百春。
だがそれも想定内だと二の手のアクションを起こした。
前の攻防宜しく直風を振り抜こうとする。
相手はダッキングした体勢のまま。
これ以上身をかがめることはできない。
留意するのは跳躍して躱される事のみ。
柄の角度を水平からやや下。
標的が頭を上げられない高さに合わせる。
そのままスイングすればまた叩き出せる。
だが思惑は外れた。
坊主頭にクリーンヒットしたはずなのに今回は振り抜けない。
硬い壁にでもぶつけたような痺れる感触が手に伝わる。
「ブロッキング!」
パンチングを終えた腕を素早く折り畳み、
腰を落としたまま両足を踏ん張る。
前回吹っ飛ばされたのはステップしてたままだったから。
自分の落ち度を認めて真摯に対応する。
それは冬一郎が声に出してしまうほど巧みな防御であった。
しかし――。
「クッソぉ……」
坊主頭から悔しげな声が出る。
ここまで講じても勢いを相殺できない。
足がずるずると滑ってしまう。
全体重を乗せているというのに。
腹立たしい。
いつもこうだ。
ここでも思いどおりにならないのか。
自由にできるのは最早左手しかない。
それでいい。
この手に持ったマジックスピアだけは決して裏切らない。
だから力の無い手打ちになる屈辱も耐えれる。
急所に当てて一本取ってもう試合を決めちまおう。
さあ――!
「ちぇすと」
可愛らしい古流剣術の掛け声がした。
いや、 それだけではない。
何かが猛スピードで攻撃のモーションに割って入ったのだ。
「テメー何を……」
とまで言いかけて坊主頭はまじまじと見た。
いつの間にか百春は右手を放して片手持ちになっている。
そして高々と振り上げた手は指がビシッとそろえて伸ばした形だった。
ハッとして手元に目を移す。
スピアの先端に拵えたはずの錬成刃が無い。
根元から割られて落ちていく様が、
スローモーションに映って見えた。
お読みいただき、ありがとうございました。
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