百春無双⑤
小刻みに床板を踏み鳴らして坊主頭が詰める。
百春も負けじと脇に回るが一歩遅れた。
もう体移動では間に合わない。
ならばと「突き」から「薙ぎ」に切り替えて直風を横へ振り抜いた。
彼はすぐさま右手を離し片手持ちへ移行。
右腕を折りたたみんで拳を顎脇の位置に合わせる。
そして側面を襲ってくる鋼の柄を受け止めてみせた。
しかし――。
「馬鹿力がァ!」
怨言を叫びながら吹っ飛ぶ坊主頭。
床に叩きつけられても、 身体の自由が利かず転がり続ける。
その先には――。
「場外になンぞ!」
ロン毛に言われるまでもない。
迫る枠線を越えまいと手足を伸ばす。
そして這うように地面を踏ん張った。
それでも引き摺られてしまう。
勢いを殺しきれない。
「ぐおおおおおおおおおおおおおお!」
咆哮を上げてマジックスピアを床に突き立てた。
木板を抉ることでブレーキがかかり、 ようやく坊主頭は止まった。
両足共に白線のギリギリ内側。
場外負けという幕切れはどうにか回避された。
「大丈夫?」
百春が心配そうに声をかける。
「うるせえ!」
「いやそれ」
立ち上がった坊主頭は指差された先を無視した。
「問題ねえ!」
「いや問題大ありでしょ。 床の傷痕」
「問題ねえったらねえ!」
鴛海の正論も無視された。
「オラ! 続きた」
「わかってる!」
「はいはい」
ロン毛にせっつかれて構える二人。
そして示し合わせたように動かない。
中央に居座った百春は待ちの姿勢。
それは戦術というよりも空気を読んだ意思の表れであった。
ステップのぎこちない坊主頭のための。
「回復待ちかな。 これは」
そう陸浦が言ったら「お人好し」と鴛海が返した。
どちらも否定的なニュアンスは含まれていない。
勝負の世界には二通りの人間がいる。
甘さを禁物とするか、 許容できるか。
もちろんどちらも間違いではない。
ただ二人の人となりが垣間見えたのは間違いなかった。
「少し時間が取れそうだから今の攻防を話そうか」
陸浦の提案にすかさず冬一郎は乗り出した。
「彼がいなす、 というのは腕でガードしたアレですか」
「うん、 ブロッキング。 見事に失敗したけどね」
「やっぱり失敗してたんですね」
「破り方はいろいろあるけど、 よもやパワープレイとは」
「彼女なんなの。 あのパワーは一体――」
解説の最中に鴛海が割って入ってきた。
「それはスカレポを観て下さい」
「スカラシップの特集ね」
「ちょっ、 アンタ達」
初歩的な疑問だとあしらわれた鴛海。
無下な扱いに納得できない様子でこちらを見つめている。
そんな彼女を一先ず置いて陸浦は話を続けた。
「さっきは失敗って言ったけどね。 選択は間違っていない」
「ブロッキング……でしたっけ」
言葉の意味から推察はできる。
それでも技名として馴染みが無いのは確か。
基本のキを学ぶためにも、 冬一郎は模範的な聞き手に徹した。
「さっき鴛海さんが言ってた試合のルール。 覚えてるかい」
「掴んではダメ、 ですね」
「けど弾くことは許されている。 だから彼はガードした」
「それがブロッキング」
「そう。 身体を遣ったディフェンスワークの代表格だ」
「まず防御ありき。 近代槍術らしさが出ていると思います」
「本当はね。 ブロッキングしてスピアを弾き、 相手の体勢を崩したところで突く……っていうシナリオだったんだ」
「一見守りに見せといて、 実は掴んで斬る行程に寄せていると」
「現代版に解釈した掴んで斬る……いや手槍の掴んで突くっていうわけだ。 けど彼女は見事にブロッキングを破ってみせたね。 パワープレイなら技術差などお構いなし。 いやいや恐れ入ったよ」
陸浦は困ったように首を振った。
彼自身も十分に鍛え上げている。
その肉体をもってパワープレイも可能だろう。
なのになぜ困ったのか。
冬一郎はその意図を知りたくなった。
「上級者から見てやはりパワープレイは異端ですか」
「いいや全然。 肉体を鍛えるのも鍛錬の成果だ。 生体電気の発電力も持続力も。 知識や経験もそう。 全て肯定してるさ。 少なくとも俺はしている。 本番は戦う相手を選べないからね」
「確かに」
陸浦は実戦派というのはわかった。
なのに肝心の意図がますますわからない。
「流石に彼も気づいたろうね……いや思い知ったか」
「何がです」
「見た目との差異。 そして勝負のキー」
「それは確か……」
冬一郎は言いかけた言葉を呑みこんだ。
ようやく坊主頭のステップにキレが戻ってきたのだ。
「ブレード!」
再び拵えた錬成刃が鶺鴒の尾によって揺れ始める。
「さあ、 再アタックだ」
陸浦の言葉と同時に試合は動き出した。
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