近代槍術②
いろいろ調べもので投稿時間が遅れています。
ご不便をおかけして申し訳ありません。
坊主頭が先に動いた。
サイドステップで時計回り。
鼻ピアス(元)とまったく同じ軌道を辿る。
それが冬一郎には不思議でならなかった。
「前の戦いと同じ展開だなあ。 一度見せたってのに」
「それは仕方ないわ」と言った鴛海が人差し指で円を描いた。
「なぜかな」
「左半身なら左足が前だからよ。 移動する方向に前足を出す。 そして後足を送り足として引きつける。 これがサイドステップなんだから。 右回りと左回り、 どちらが左足を出しやすいかわかるでしょ」
「左足は左に出しやすい。 だから右回りの時計回りか」
「それにね。 左回りはリスクがあるのよ」
「リスク?」
「端から左半身で構えた槍の真正面を通過するのよ」
左回転しようとした細い指が止まった。
「相手からすれば鴨ネギというわけか」
「時計回りは攻撃範囲から避け続ける意味でも理に適ってるわ」
「攻防一体なわけだ」
「あら、 わかってきたじゃない」
彼女は微かに微笑んだ。
「まあね。 元が中段の構えというヒントもあったし」
「おっ。 よく観察してたね」
陸浦も横で嬉しげな顔をした。
近代槍術の肝はやはりステップワーク。
そのための取り回しやすい短い槍というのもわかった。
だからこそわからないことが一つある。
「それでも謎だ。 長い槍のリーチをわざわざ捨てるなんて」
「じゃあ短い槍の利点ってなに?」
鴛海よ、 お前もか。
冬一郎は胸の奥で嘆いた。
陸浦の実況解説が問答にすり替わって久しい。
そしてとうとう彼女もすり替わってしまった。
さらば楽しい観戦生活。
どうも上位の経験者は素人に問うのが好きらしい。
この二人しかり、 紀伊馬しかり……。
とりあえずわかりきった答えでおうかがいを立ててみる。
「軽くて扱いやすい」
「他には」
やはり許してくれなかった。
観念しよう。
こうなったらやるしかない。
問答だ。
こちらも伊達にスカレポのヘビーユーザー云々――。
と記憶を掘り起こす前に、 今朝の遣り取りが解決へと導いた。
「室内などの狭い場所で戦うのに適してる」
「ふーん。 ヘビーユーザーなんだ」
エスパーかな?
冬一郎はそう思った。
いや、 悠長にしている場合ではない。
即座に頭を切り替えて話を振らなければ。
また問答責めされる前に。
だが何を?
決まっている。
教えたがりにはこれが一番。
「短い槍って固有名あるんですか」
「手槍っていうのよ」
こちらの問いかけに鴛海が乗ってくれた。
やはり専門家への専門用語アプローチは効果が高い。
これもスカレポで得た無駄知識。
蛇鶏の会へ野鳥ネタを振ると話が止まらなくなるのは実証済み。
冬一郎は「それはどんな槍?」とダメ押しをした。
「ホントなんにも知らないのね」
彼女はチラッチラッとこちらをうかがう。
ありがとう蛇鶏の会。
「ご教授願いますよ。 鴛海さん」
「仕方ないから教えてあげるわ」
コホン。
小さく咳払いして彼女の講義は始まった。
「まずは歴史から。 アーカイブに記録されるほどの大昔。 短い槍っていうのは仕込み槍っていう暗器に使うくらいだったらしいの。 それが就寝中に襲われた際の護身用武器にと枕槍が考案されたわ。 取り扱いやすいという一点で重宝したそうよ。 そして平時には飾り物にもなるし良いことづくめってね」
「出発点は緊急用だったと」
「そう。 それを常用に転化させたのが手槍の始まり。 もっとも以前より短い槍自体はあったけど、 本格運用の話となるとこの時期が適切かなと」
「戦術の起源……か」
よもや歴史からアプローチしてくるとは。
しかも自説込み。
それが妙に彼女らしいと冬一郎は感じられた。
「手槍というのは短くして扱い易くした槍で概ね合ってるわ」
「小回りが利くってのは大きいよなあ」
「それともう一つ。 片手で扱えるという要素が加わったの」
「なるほど」
英莉の片手持ちに鼻ピアス(元)が一声かけたのを思い出す。
「構えろ」という台詞だ。
きっと「両手で持て」というニュアンスも含まれていたのだろう。
お読みいただき、ありがとうございました。
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