近代槍術①
坊主頭はステップを踏み続ける。
攻めあぐねているわけではない。
ただ戦闘プランの変更は余儀なくされた。
新入生用の必勝の教えが通じない。
それどころか空気を読まず攻め立ててくるのだ。
これではどっちが新入生かわからない。
その上特待生はスカレポで見せた発電力。
その恐るべき本領をまだ発揮していない。
まぐれ当たりでも一発でKOされるのは確実。
ならばチンタラしてる場合ではない。
そう思い至って槍を構えた。
変わらず真っ直ぐの中段。
そして次第に切っ先が上下に揺れ始めた。
「観念したようだね」
陸浦が背を伸ばすように反らした。
見方を変えたように冬一郎は思えた。
「誰がです」
「彼の方よ」
鴛海は試合から目を逸らさずに言った。
「何を観念したのだろう」
「戦術」
「甘い考え」
二人が同時に答える。
ばつが悪そうな顔をする陸浦。
鴛海はまたそっぽを向いてしまった。
間に挟まる冬一郎は「まあまあ」となだめて彼女に続きを促した。
「一年坊相手には空気を読まないっていうセオリーがあるのよ」
「空気を読まない?」
「経験が浅い子は応用力がまだ乏しいってこと」
「空気を読まない……あぁ!」
そういえば一人いたのを思い出した。
今更ながら故人の戦術が紐解かれていく。
その思いがけない邂逅が嬉しくもあり。 切なくもあった。
「要するに、 ちょっと教科書を逸脱すれば勝てる……。 そんな目論見が失敗したから諦めたってわけ」
「今の攻防にそんな思惑があったのか」
「あったのよ」
「で、 観念した彼は何を決断したのかな」
「技術勝負」
鴛海は得たりや応と答えた。
練度の差で圧倒するとは本気の表れではないか。
視聴者気分だった冬一郎も未知の知見に本腰を入れた。
「実武さん。 いいですか」
「なんだい」
「あの人……。 独特の構えですよね。 スカレポで観たときの実武さんは、 ビタッと槍を固定して静かに構えてました」
「古流槍術はそう構えるんだ。 上でも中でも下でもね」
「しかし彼は違うと」
「そう。 彼は近代槍術の使い手。 それもかなり基本に忠実な」
「あれはオリジナルではないと」
「近代槍術のオーソドックスな構えだ。 名は鶺鴒の尾」
「由来がありそうな名前ですね」
「当たり。 本来は蛇鶏の会の持ちネタなんだけどねぇ」
そう言って苦笑いする陸浦。
冬一郎も釣られて笑う。
「なるほどなるほど。 野鳥ネタですか」
「鶺鴒という尾の長い鳥を真似ているんだ」
「あの動きは尾を上下に揺らしていると」
「そういうこと。 足で踏むリズムと同調すればより刻みやすくなる。 そして踏み込むリズムと連動させれば、 突きに移る瞬間の動作も素早くできる。 普通に突くのとそう大差ない程にね」
「あくまでリズムなんですね」
「いや、 それだけじゃないんだ。 刃を見てごらん」
坊主頭の錬成刃を見る。
両刃の穂が寝かせてある。
刃身が薄いのだろうか。
揺れに合わせてワンテンポ遅れながらしなっていた。
「うーっわ。 これは見辛い」
うねりを繰り返す独特な動きが冬一郎の焦点を絞らせない。
「攻撃する初動の感知を遅らせる効果がある」
「効果ありそうですね」
「しかも出だしに定まった刃身の向きで、 構えの型を微調整することができるんだ。 これが地味にやっかいでねえ」
「例えばどんな」
「彼もやってたけど鶺鴒の尾は基本中段で構える。 そこから柄を振って小上段と小下段の構えが加わる。 更に錬成刃がしなってまた小上段と小下段が加わる。 だから振り方によっては小上上段、 小上中段、 小中上段、 小中中段、 小中下段、 小下上段、 小下下段を構え分けることができる」
「うーっわ。 これは面倒」
「それプラス、 ただ無造作に振る無無段がある」
「仕様がいやらしすぎる」
「一概にもそうとは言い切れない。 しならせない戦い方も当然あるしね。 ただ、 彼に限ってはテクニカルな戦い方を選ぶしかなかった」
「しかなった?」
いやに否定的な表現だと冬一郎は思った。
勝負を急がない槍術にマッチしたフォームではないか。
多角的に攻めるのが近代槍術の信条であるなら猶更。
なのになぜ――。
「それこそこがこの勝負のキーになる」
陸浦の予言めいた言葉はどこか哀の響きがあった。
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