百春無双④
百春と坊主頭の間に電気火花が疾る。
それは互いの干渉と拒絶を繰り返す。
次第に光は膨れ上がり巨大なスパークと化した。
場ゼるように弾かれる二人。
強制的に間合いを引き離して安全を確保する。
それが初期化措置の機能であり、 試合ではONを義務付けられていた。
仕切り直しとなれば、 緊張感を解いて一息つきたいところ。
だが坊主頭は猛然と突進した。
避けなかった理由はまさにこの二手目のため。
アカデミーで代々語り継がれる必勝の教えにこんな一節がある。
「一年坊相手には空気を読まないこと」
経験の浅い者はセオリーを頼る傾向が強い。
だからこそ容易に裏をかきやすくある。
相手を視る必要性を学ぶ通過儀礼の一敗なのだ。
「うまく合わされちゃったなあ」
案の定、 百春は動きを止めてぼやいている。
「ヘッ、 一息つきやがった。 これで勝ち確よ!」
そう息巻いてみせたが計算外な一面もあった。
弾かれた距離が予想を上回っていたのだ。
いや違う。
自分だけが一方的に弾かれたのだ。
あの生意気な特待生は涼しい顔して中央に居座っている。
おそらく一、 ニ歩しか動いてない。
こっちは白い枠線ギリギリまで飛ばされたってのに。
生体電気の発電量が違い過ぎる。
だが、 こんな状況など今に始まったわけじゃない。
いつだってハンデはあった。
覆しようもない体格差を跳ね返してきたのだ。
「スパーク光は隠れ蓑にもなるんだぜ」
縮地発動。
坊主頭は一瞬で中央に帰ってきた。
しかし元の立ち位置に戻っただけ。
百春の懐に潜り込むには、 今一度アクションを起こさなければならない。
ただ潜り込むスピードだけを求める。
それならば縮地でかまわない。
しかしあまりにも速すぎて錬成刃を構築できないのがネック。
飛び込んでから目前で立ち止まって錬成するか。
飛び込む前に錬成して相手に心の準備を許してしまうか。
異能力も全てを解決するわけではない。
どんな技でも使い方次第なのだ。
故に坊主頭は普通のステップインを選んだ。
移動と錬成を両立できるギリギリの速度で迫る。
「それっ」
百春が錬成刃無しで直風を突いてきた。
坊主頭は首を捻じって難なく躱す。
刃無しの突きは基本ノーカウント。
苦し紛れだ。
いいぞ。
やっと思いどおりになってきた。
「ブレード!」
白刃を錬成させた坊主頭が「ん?」と何かに気がついた。
今確か奴もブレードを唱えなかったか?
顔の側面を通り過ぎていった直風の柄が、 みるみる引き戻されていく。
懐に飛び込まれたら短く持ち直すのがセオリー。
実に教科書どおりの優等生。
なのになぜ錬成した?
突きのモーションに入ってないのに。
わざわざ俺の死角で――。
「ヤベエ!」
ステップインを緊急停止。
サイドステップで右へ逃げる。
冷たい刃が線を引くように過ぎていく。
あの位置は――俺の首があったところ。
「おおー超反応」
直風を引き戻した百春は素直に賞賛した。
よく見ると錬成刃に鎌形の枝刃が付いている。
刃無しと油断させといてその実、 首を刈り取りにきていたのだ。
彼女がまた突きの溜めを作る。
攻撃はまた終わっていない。
「チイッ」
坊主頭はあわてて射程外へと逃れる。
彼女は追いかけて来ない。
追撃の心配が無くなってようやく一息つけた。
「これで勝ち確」
自嘲染みた笑いを漏らし、 その場でステップを踏みだした。
さながら浮足立つ己を落ち着かせるように。
反復運動が徐々にメンタル回復を促す。
すっかり頭を冷やして最初に出てきた言葉。
それは「してやられた」だった。
セオリーを隠れ蓑に奇襲を仕掛けてくる手際でよくわかった。
彼女こそが空気を読んでいなかったのだ。
そういえば校門前で絡んできた時も同質のノリだったような……。
「どーしたの小難しい顔して」
「ア? オメーには関係ねーよ」
「レアイベがポップしてたらとりあえず参加してみるものでしょ」
「誰がレアイベントだ! つか何でわかんだよ俺の考えを」
「だって顔に書いてあるもん」
「何がだ」
「舐めた一年で撮れ高稼ごうとしたら思いの外苦戦しちゃった。 反省反省。 だーからこれまでを振り返りながら気を引き締めてるんでしょ。 今までは一〇パーセントの力で戦ってたが次は五〇パーセントでやってやる! ってね。 どう? 図星でしょ」
ふふんと百春が鼻を鳴らした。
もう坊主頭はツッコまずにいられない。
「図星じゃねーよ。 俺はナニモンなんだよ!」
「手下その2」
「やめろその呼び方!」
「えー。 手下Bがいい?」
「どっちもやめろ」
「アルファベットの方がマシと思ったでしょ」
「エスパーかオメーは!」
「トクマツだったらもっと凄いよ」
彼女の言葉に被害者は深く頷いた。
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