百春無双③
「今度は開幕速攻あるかしら」
さりげなしに鴛海が呟いた。
真剣な眼差しを中央に向けながら。
それは冬一郎とて同じこと。
ただ次は試合らしい試合を観たい。
そんな願望が込められていたのだろう。
少しだけ期待が込められた言いぶりだった。
「あるといいなあ」
そう見入ったまま言ったら彼女は「そうね」と返した。
そこへ相対していた百春が突然こちらを向いた。
冬一郎と目を合わせてうんうんと頷いてみせる。
「どういうこと」
不可解な顔をする鴛海。
冬一郎はこっちが聞きたかった。
しかし経験則から一つだけ答えられる。
彼女は勘がいいのだ。
尋常ならざるほどに。
「期待していいかもね」
何かを了承したのなら、 何かをやらかすのだろう。
その点には失望させない彼女であった。
「二人が速攻勝負するのなら、 抑えるべき見所を教えよう」
陸浦は丸眼鏡をかけ直した。
「お願いします」
解説らしくなってきたと冬一郎の声も弾む。
「試合が始まったらまず錬成スピード勝負。 ここまではいいね」
「ええ。 先に刃を構築できた方が先手を取れると」
「そう。 単純に速い遅いと優劣もわかりやすい。 そして後手に回った方は迫りくる初手をどうにかしなければならない」
「基本的に躱す一択ですよね」
「うん。 ではもう一つのパターンならどうするか」
「もう一つ?」
「互角だったら、 だよ」
「言われてみればその可能性もありますね」
「錬成スピードだけじゃ勝敗は決まらない。 その後の繰り出す突きのスピード勝負もあるんだ。 錬成で後れをとっても挽回する余地は大いにある。 そしてまれだが、 錬成が同時に完了して、 同時に突きを繰り出すパターンもある」
「なるほど。 そこで駆け引きが発生すると」
「そのとおり。 錬成終わったら迷わず突きを繰り出すか。 突きのスピード勝負で逆転されたらどうするか。 構わず刺すか。 避けるか。 そして新たな対処法として――防ぐか。 とまあこんな感じで攻防が繰り広げられる。 この意思選択によって相手の性格を推し量り、 今後の戦術プラン策定に役立てる材料とするわけだ」
「凄いですねえ」
冬一郎は「勝負を急がない」という言葉を思い出した。
思っていた以上に相手をよく視ている。
そういえば兄弟子の観察眼も相当だったのを思い出す。
であれば「思惑を読ませない」という選択もアリではないか。
それを飛躍させたのがすなわち「引っかける」なのだろう。
意外なところで話が繋がったと陸浦に感謝した。
「だけど今回に限ってはもっと単純明快になると思うよ」
「どんなです」
「彼女の突きをどういなすか」
「なぜ……って訊くまでもないか」
「如何せん、 リーチ差がありすぎる」
「英莉は安心して先手を取れますね」
「そういうこと。 だから開幕は彼に注目しておくといい」
「わかりました」
秘かに注目されているなど露知らず。
肝心の当人はしきりにステップを踏んでいた。
小気味よいリズムを刻んで前後へ体移動を繰り返す。
飛び込む気満々とだけは誰の目にも明らかであった。
「用意はいいか」
ロン毛が二人に声をかける。
「いいぜ!」
「おっけー」
確認を得て右手を高々と上げた。
「始め!」
「ブレード!」
彼が振り下ろすと同時に詠唱が重なる。
「互角!」
陸浦が叫んだ。
「そーれっ」
リーチ差がある分、 先手を取ったのはやはり百春。
試合前にあれだけステップを重ねていた坊主頭。
誰もが「躱す」を選択すると思っていた。
しかし彼は果敢にも――迎え撃った。
「シャアァァッ!」
独特の掛け声と共に突きを繰り出す。
相手の放った軸線と合わせるように。
結果、 互いのマジックスピアは衝突。
二枚の錬成刃はブレードカートリッジの根元から崩れ落ちる。
カートリッジをセットしたマウントユニットが状態を感知。
即座に初期化措置を発動。
スピア内に蓄えられた生体電気が放射状に解き放たれた。
お読みいただき、ありがとうございました。
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