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イシを継ぐもの

 演舞のごとく魅せていた百春の手が止まった。


 切っ先を真上に上げて直風を縦に持ち直す。


 そしてインターバルは終わったと高く掲げて見せた。


 すると場の空気が変わり拍手も次第に鳴り止んでいく。


 ただ高揚に似た余韻だけは未だに引いたまま、 ざわめきが治まらない。


 そんな中を坊主頭が面倒臭そうに近寄ってきた。


 百春にではない。


 床に転がった敗北者へだ。


「だらしねえ」


 そう言い残すと襟首を掴んで場外へと引き摺っていった。


「ねえー。 次の相手はあなたでしょ」


「あったり前だ! ちょっと待ってろ。 コイツ捨てっから」


「うんうん、 ごくろーさま。 けどいいのそれで」


 枠外に放り出された鼻ピアスを指差した。


「なにがだ」


「配信中でしょ。 撮影どーすんの」


「あっ……」


 二人と、 そして会話が届いた野次馬たちの視線が一点に集まる。


 鼻ピアスが鼻ピアスと呼ばれる所以。


 鼻ピアス型ソーサリングに。


 配信の撮影は機器に搭載された小型カメラで写している。


 このままでは迫力ある映像はおろか、 適切なアングルを求めるのも怪しい。


 だから百春は戦う順番を最後にしたのだが、 懸念は現実のものとなってしまった。


「ここは一つ、 次の手下さんが装着ってことで」


「イヤそれはちょっと……ってか手下言うな!」


「遺志を継ぎなって」


「死んでねーよ」


「クククいいじゃねーか。 継いでやれよ」


 ロン毛は転がっている鼻ピアスの前で屈んだ。


 前髪をわし掴みしにして顔を持ち上げ「さあ」と宣告する。


 愉悦に満ちた邪悪な笑みを浮かべながら。


「テメェ……」


 坊主頭の手がワナワナと震えている。


「モタモタすんな」


 輪っかを指で摘まんで「フンッ!」と引っ張り抜いた。


 出血こそしなかったものの、 ロン毛の人間性に皆が黙ってしまった。


「配信を閉じれば済む話なのになあ」


 当てが外れた百春も直風でコツンと頭を叩いた。


「ほらよ」


 ピアスを投げ渡されて坊主頭は渋々耳に装着した。


「一度拭けばよかったのに」


 その一言で怒りの矛先が完全に定まった。


 もう邪魔するヤツはいない。


 限界だ。


 許せねえ。


 目にものみせてやる!


「いい気になってるのも今の内だぜ」


「さっきも聞いた」


 百春の返し言葉が浮きっぱなしの青筋をヒクつかせる。


 だが坊主頭にとっては怒りを堪える契機となった。


 さっき自分を突き飛ばして先にヤった鼻ピアスはどうなったか。


 欲望に目を眩ませて相手を見誤った。


 その結果が今のザマだ。


 同じ轍は踏まん。


 お楽しみは相手を確実に仕留めてから。


 そのためにじっくりといたぶってやろう。


 坊主頭は手早くマジックスピアを組み上げた。


 そしてズカズカと枠の中央に進むと、 待ちきれんとばかりに構えてみせた。


 スピアのグレードは変わらずスタンダード。


 構えもオーソドックスな中段。


 ステップワークがやや大人しめか。


 飛ぶように跳ねはしていない。


 かかとを上げ下げして小さくリズムを取っている。


 ざっと印象を並べた冬一郎が隣に声をかけた。


「気のせいですかね。 槍が少し長くありませんか」


「そう。 前の彼より少し長いね。 小柄だからリーチを稼いでる」


「なるほど。 距離がネックになると」


「まあね。 素早くても届かせる時間がかかり過ぎてはいけないから」


「せっかくの長所がスポイルしますしね」


「そこを彼はいい感じにフォーム調整してる。 ちゃんと槍術してるよ。 侮れない相手なのは間違いない。 ただ――」


「ただ?」


 言い淀んだ顔を冬一郎は見た。


「留詰の違和感を気づけずに彼女だけをこだわっているとね」


「いると……どうなるんです」


「彼らはこの後も痛い目を見るだろう」


 陸浦は丸眼鏡を指で上げた。


お読みいただき、ありがとうございました。


読者を選ぶ物語だとは思いますが、もし気に入っていただけたなら「ブックマーク」と「↓の評価 ☆☆☆☆☆」をお願いします。


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