留詰②
陸浦は空の手で槍を構えてみせた。
「留詰はね、 普通両手持ちでやる技なんだ」
「英莉のように片手持ちではしないと」
「そう。 後ろ手を一気に押し下げて反動を利用するんだ。 槍は長ければ長いほど重心が先端にかかるからさ」
「確かに。 棒とは違って槍はいろいろ付いてますし」
「そうそう」
「特にマジックスピア」
「そうそれ! マウントユニット」
堪えきれず鴛海が口を挟んだ。
「重いですよねえ」
三人の間に奇妙なシンパシーが芽生える。
そこへ百春が手慣らしのために直風を振り回し始めた。
まるでバトンパフォーマンスでもするかのように軽々と。
もちろん霧の祝福による肉体強化の賜物だ。
しかしここまで自在に扱える人間はそうはいない。
三人は「重いよなあ」と小さく呟き、 各々遠い目つきで宙を見つめた。
「実武さん。 とりあえず話の続きしませんか」
「……うん、 そうだね。 そうしよう」
冬一郎にうながされた陸浦は両手を握る仕草をして見せた。
「さっき話したとおり、 留詰は両手持ちで繰り出す技なんだ。 そして利き腕の腕力が重要になってくる。 だから片手でやってのけた彼女はレアケースと言わざるを得ない。 普通にやろうとしたら腕力の他に強靭な手首が必要になるからね」
「なるほど」
「だから彼女に伝えてくれないかな」
「何をです?」
丸眼鏡の奥が真剣な目になった。
「手首、 肘、 肩の三関節は肉体強化の負荷が特にかかる箇所。 あまり無理をしない方がいい」
「わかりました。 伝えておきます」
冬一郎は心遣いに一礼した。
「とはいってもね。 スカラシップのアレ見た後じゃ、 無用な気遣いかもしれないけど。 簡単に痛めてしまうヤワな強化してないよね。 どう見てもさ」
そう言っておどけてみせた陸浦。
しかしこの忠言は百春だけに向けたものではないのだろう。
「いいえ、 無用なんかじゃありません」
そう訴えてくる感性の声が冬一郎の胸奥で響いた。
神妙に返答された陸浦はポンと手を叩いた。
「ここで一つ補足」
「なんでしょう」
「留詰には裏技があってね」
「なんか急に親しみが湧いてきました」
「実は片手で無理なくできなくもないんだ」
「それはぼくでもできますかね」
「もちろん」
「へぇー、 どうやるんです」
「それはね……槍を蹴るのさ!」
ボールを蹴る要領で陸浦は脚を動かしてみせた。
「脚の力で持ち上げると。 確かに構えが下段ならいけますね」
「しかしおすすめはしない」
「なぜでしょう」
冬一郎の声音には不服の意が含まれていた。
「一つ、 一瞬でも片足立ちになること」
「ぐっ……確かに相手にとっては狙い目ですね」
「一つ、 マジックスピアは精密機械であること」
「乱暴に扱うのは非推奨と。 ええ、 試験前に言われましたとも」
「フレームが凹むだけならまだしも、 中身にダメージがいっちゃうとね」
「仰るとおりです……」
「マジックスピアは自分の命を預ける魂の在り処だ。 戦時じゃ何が起こるかわからない。 そりゃ傷つくし壊れるかもしれない」
「わかります……」
「だからこそ平時では丁寧に扱わなければならない」
「はい」
「これは練習用の六角棒にもいえること」
「はい!」
「敬う心と感謝の気持ちを忘れないように」
「押忍!」
「あれ? 様子が……ちょっと偉そうだったかな」
「いやなんか本当ためになりました。 レアイベに浮ついていた気持ちを恥じるばかりです。 実武さんの金言を有難く頂戴し、 しかと肝に銘じておきます。 押忍!」
冬一郎は九〇度の角度で礼をした。
また悪癖が出たと額に手を当てる陸浦。
それは話し相手に「恐縮」を付加する(異)能力。
しかも自分より上の実力者でないと抵抗は難しい。
こうなってしまってはもうどうしようもない。
とにかく平謝りしてバッドステータスの解除に専念した。
お読みいただき、ありがとうございました。
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