留詰①
「これは御見事」
陸浦の送った賞賛の拍手が拍手を呼び、 場内いっぱいに鳴り響いた。
野次馬達も元は百春のヒバリを観て集まった者々である。
潜在的な百春ファンが熱狂するのは火を見るより明らかであった。
万雷の喝采がなおも続く中、 冬一郎は疑問を一つ口にした。
「なんか相手が勝手に刺さりに来たなあ」
「一見そう見えるけどね。 彼女はちゃんと刺しにいってるよ」
陸浦が左の掌に右の指先を突いてみせた。
「突いては……いないですよね」
「体勢を下段から中段に構え直しただけだね」
「たったそれだけ……。 相手は油断していた?」
「かもしれないけど、 留詰が決まったんだ」
「留詰……?」
聞き慣れない単語に冬一郎は記憶を辿る。
槍遣いではないのでどうしても知識が偏ってしまう。
頼みの綱はスカウティグレポートのみ。
槍技の特集がよく組まれていたのは覚えている。
しかし留詰の紹介は無かったはずだが……。
「マイナーすぎる」
よほど困り顔だったのか。
鴛海が助け舟を出してくれた。
「悪い悪い」と言って陸浦は槍を持ち上げる真似をした。
「留詰とはね。 敵を大きく踏み込ませて狙い刺す迎撃型の技さ」
冬一郎は数少ない予備知識を掬い上げた。
「下段は護りの型と聞きましたけど」
「普通はそう。 上段は攻撃、 中段は攻守バランス。 そして下段は防御が目的なのだからね。 本来なら踏み込む気になどさせてはいけない。 攻めっ気を煽るなど本末転倒になってしまう」
普通はそう。
冬一郎も身をもってそう学んだ。
そして嫌というほど思い知らされた。
幾度となく逆接の接続詞を付け加えてきた人間に。
「ああ、 引っかけ……ですか」
「そうそれ。 彼女は自然体に立ちながら、 実は下段を構えていたのかもしれない」
「いやーどうでしょうね……」
人間性を問うのであれば確実に前者であろう。
幼いころに天涯孤独となって。
人の身では抗えない運命を背負い。
挫折して。
立ち上がって。
己の個を知り受け入れた。
本物も偽物も無い。
全てがわたし。
だから常に自然体。
それが百春英莉なのだ。
共に道を歩んだ冬一郎だからこそ言い切れるし言葉も濁した。
彼女の内面をベラベラ喋る気など微塵もなかったから。
陸浦は一つ頷いて言葉を選んだ。
「彼女は留詰を知ってたのかな」
「それは知らないと思います。 けどもしかしたら……」
「心当たりが?」
「教えた人がいるかもしれませんね」
「それは彼女の師匠かな」
「英莉にはまだそういった人はいません」
「とすると」
「ぼくの指南役と顔見知りですから」
「担当していない人間に教えたと?」
怪訝そうに尋ねられて冬一郎は目を泳がす。
「実はですね……かなりの孫可愛がりでして」
「ああーなるほどね。 その人はじっじなんだ」
「そうです。 血縁者じゃないのに」
容易に想像できたのか。
陸浦は愉快そうに腕を組んだ。
「なるほどなるほど。 君たちが槍技を教わる段階であるのなら、 他流派がアレコレと口を挟むのは不味いかな」
「いえいえ。 ぼくはまだまだ素振りの段階ですから!」
豪華解説付きの最前列試合観戦。
そんな絶好のレアイベントをみすみす手放すなどありえない。
冬一郎は「アレコレ教えてほしい」といわんばかりに素振りを真似てみせた。
鴛海の冷めた視線を強い意思で跳ね返したその上で。
「ハハハ、 わかった。 まあ槍術の基本のキだし話を続けようか」
「やったぜ!」
冬一郎はスカレポ仕込みのガッツポーズを決めた。
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