陸浦実武③
冬一郎は校門で抱いたとある所見を思い出していた。
下手に物怖じしなかったあの態度。
三人組の面構えに見え隠れしていた自信の表れ。
「やっぱり齧ってたか」
己の推量が当たってた。
ただそれだけの無感情な声を陸浦は聞いた。
「とまあ相手のフォームはそんな感じだ。 で、 彼女については君から教えてほしいな。 どうだろうか藪影くん」
「……え、 ああはい」
慌てて返事をする冬一郎。
まるで気の緩みでも指摘されたかのようだ。
当人にそんな気はないのかもしれない。
しかし張りのある声によって否応なく背筋が伸びてしまう。
考えを改めよう。
めったにない生観戦しながら実況解説。
そんなレアイベントであろうとあぐらをかいてはいけない。
気を引き締め直さなければ。
一つ咳払いをしたら鴛海と目が合った。
「なによ」
素っ気ない返事をしたが面と向かって聞く姿勢を崩さない。
どうやら興味があったのは百春だけではなかったらしい。
良かったなと思う反面、 期待には応えられない。
そんないくばくかの心苦しさを感じた。
「英莉のフォームはですね……近代でも古流でもありません」
「というと」
「ぼくと同じです」
「槍自体の経験はないと」
「はい。 護身術で棒を少々」
「なるほどね、 真っ白な状態なんだ」
「素人同然でなんか申し訳ないです」
「いやいや悪くないよ。 これから学べばいいし鍛えれば強くなれる。 実際アカデミーに入ってから槍術を身につけた人はいくらでもいるさ」
「言い訳をするとぼく達はスカウト志望ですから」
「そうだったね失念してた。 スカラシップ観てたのになあ」
「なにを呑気なこと言ってるの! 彼女危ないじゃない」
談笑を遮るように鴛海が声を上げた。
「そうか。 きみは彼女のスカレポを観ていないのか」
陸浦の言葉は彼女の顔を強張らせた。
しかし何かを言い返すこともなく瞼を強く閉じた。
「英莉は大丈夫だよ、 鴛海さん」
気休めにしかならないのはわかっている。
でも今の冬一郎にはそう声をかけるしかなかった。
こればかりは仕方ないと陸浦は話を戻すことにした。
「じゃあ藪影くんのために基本のキから話していこう」
「お願いします」
冬一郎は軽く頭を下げた。
「大前提として槍術は一瞬の勝負を求めない。 なぜかな」
「え?」
下げたまま顎を上げて陸浦を仰ぎ見た。
イケメンが優し気に微笑み返してくる。
実況解説が問答にすり替わっている。
そう非難の視線を向けたはずだが爽やかに躱されてしまった。
いや自分も伊達にスカウティングレポートのヘビーユーザーではない。
しばし思案して二つの回答を用意できた。
「間合いと技の兼ね合い……では?」
「おお、 いいね」
素直な賞賛を送る陸浦。
「棒術もリーチはありますけど基本は体術との組み合わせですから」
「そう。 棒術は棒技から体技、 そしてまた棒技へと技と技の派生がよく馴染む。 だから棒と格闘を兼ねた体捌きをワンセットで習ったはずだ」
「そのとおりです」
「もちろん槍術も体技との組み合わせはある。 しかし槍術ではなく槍そのものの利点として素人でも扱いやすくあること。 これがまあ足枷になってしまうんだ」
「ああ、 刃がありますからね」
「そう。 突き一つで一撃必殺足りうる」
「だから無理に難解な技を覚えなくてもいいと」
「まあ中級者になるとそうも言ってられなくなるけどね。 だから護身術に棒術を学ばせているのはそのためでもある」
「なるほど」
「では、 なぜ勝負を急がないのかというと――」
陸浦の話が止まる。
試合が始まってから睨み合っていた二人に動きがあった。
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