陸浦実武②
陸浦はやれやれといった調子で丸眼鏡をクイと持ち上げた。
「藪影君。 君は指南役がいるかい?」
「ええ、 います」
「ではその方の迷惑とならないように一般論で留めるけどいいかな」
「十分です」
冬一郎の了承を得た彼は中央で睨み合う両者に目をやった。
「では丁度いいからこの試合を引き合いに話していこう」
またしても生観戦しながら実況解説。
今日は視聴者冥利に尽きる。
冬一郎は心の中で「やったぜ!」とガッツポーズを決めた。
そんなほくほく顔を見た鴛海が不満たっぷりなため息をついた。
中央に戻った百春は折り畳まれていた直風を展開した。
スピアモードの形態は長さにして一八〇センチ。
そんな長得物を持った彼女は一度、 二度と素振りする。
それから自身を中心点にして円を描くように振り回してみせた。
野次馬と配信内の両方から歓声が湧く。
そして当然ながら面白くない鼻ピアス。
自分もアクロバティックな映えダンスをしてやろうか。
そう頭によぎった彼だが思いとどまった。
なぜなら――。
「オメー自身がカメラマンなんだからな。 何やっても映らねーぞ」
しなくてもいいのに坊主頭がわざわざ言語化してくれた。
笑いをこらえる声がそこら辺から耳に入ってくる。
生意気な特待生をヤったら次はクソチビだ。
鼻ピアスはターゲットの狙いを定めた。
「おっ、 いよいよか」
冬一郎は注視する先へ向かって言った。
ロン毛と坊主頭が白線の外側に出たのだ。
枠内に残った二人はお互いに向き合った。
そして互いの槍先が届く距離まで離れるのだが……片方は短槍である。
なので実質直風の幅だけ距離を置いた。
鼻ピアスがジャンプして首をコキコキと鳴らす。
そんな姿を冷ややかな目で見つめる百春。
「スカレポで試合は観たかい? 開始直後で即見せ場だよ」
陸浦の言葉に「ええ」と短く答える冬一郎。
立ち上がり如何では秒殺もありうるのだ。
今ここで目を離すことは許されない。
「始め!」
「ブレード!」
ロン毛の合図と共に両者が白銀の刃を錬成した。
電気液体金属スピリルで拵えた業物。
何物でも貫ける最高純度の切れ味を誇る必殺の錬成刃だ。
ただ試合時では安全面を考慮して、 ガラス細工のように脆く設定されている。
試合はこの錬成スピード勝負から始まるのだ。
一早く造り上げた者が先手をうって攻撃する。
これが通常の流れなのだ。
しかし錬成を終えた二人は攻撃のモーションに入らなかった。
「どっちも開幕速攻にいかなかったなあ」
「お互いじっくり戦いたいってことなのかもね」
冬一郎のなにげない感想に鴛海がつけ加えた。
そして彼らの目線に気がついて、 またそっぽを向いてしまった。
しかし彼女の予測は正鵠に射ていた。
戦意旺盛な二人が睨み合いなどするわけない。
戦いの局面は確実に進行していた。
「彼を見てごらん」
陸浦がその発端を指摘した。
鼻ピアスがリズムに乗ってステップワークを始めた。
今にも飛び跳ねそうな勢いで小ジャンプを繰り返している。
「いかにも軽快そうですね」
冬一郎は思ったままを言った。
「あれが今の近代槍術」
「我々古流槍術とは真逆の戦い方だ」
鴛海と陸浦が口を揃えた。
どこか重々しい口調の二人。
どちらも流派の看板を掲げている人間だ。
きっと含むとこがあるのかもしれない。
そういえばと冬一郎はとある映像を思い起こした。
「確かに実武さんはあんなにドタバタしてなかったです。 すり足で滑らかに移動してましたよね。 スカレポで観ましたとも」
「なんかこそばゆいね。 ありがとうと言うべきかな」
陸浦の緊張が解れるその裏で、 顔が暗鬱に沈んでいく鴛海であった。
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