礼儀を欠けば名誉も損なう②
冬一郎はふらふらとした足取りの鴛海を受け止めた。
華奢な身体は軽かったが体全体を預かる格好になった。
体重のかかる特有の重心が腕に伝わってくる。
立つ力を感じない。
足の踏ん張りがきかないのだろう。
さっきまでは普通に歩いていたのに。
「ごめんなさい。 わたしのせいで」
「大丈夫だ。 それよりも歩けるか」
「ええ。 わたしのことより彼女を」
「わかった」
支えていた華奢な身体を離して彼は部屋の中央へと進む。
丁度男の一人が鼻に装着したソーサリングを操りだした。
ろくでもないことを企んでいるに違いない。
歩くスピードが徐々に足早となる。
男共の舐めまわすような視線。
晒し者にする気だな。
どうやら我慢できなかったのは英莉でなく自分らしい。
冬一郎は力一杯声を張りあげた。
「やめろ英莉! そんなことしなくていい」
坊主頭がしかめっ面で行く手を阻む。
「おいクソ雑魚君。 配信の邪魔だ。 すっこんでろ」
「断る」
「何のためにこんな奴の相手してると思ってんだ」
「知るかよ」
「撮れ高しかねーんだよバカ」
「知るかと言っている」
「余興でシバくかコイツ」
「ちょっと待って」
口を挟んだ百春が冬一郎を手招きした。
三人組から離れてお互いのマジックスピアを触れ合わせる。
VSSを起動。
二人だけの秘匿通話回線が確立された。
『俺の見立てが甘かった。 こんなこと付き合わなくていい』
『だーいじょぶ。 任せなさいって』
『お前を晒し者にしたくない』
『ありがとう。 でもね気持ちは冬一郎さんと一緒なの』
『一緒って』
『思惑にのってあげるのはね。 慰謝料の前払いだよ』
「えっ」
思わず声を漏らす冬一郎。
「ふふっ」
百春は笑顔を崩さないまま人差し指を唇に当てた。
「冷静。 冷静にな英莉」
「冬一郎さんこそ」
我慢できなかった人間の言う台詞ではない。
そうはわかっていても彼は声をかけずにいられなかった。
百春はマジックスピアを離して再び三人組の前に立った。
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