礼儀を欠けば名誉も損なう①
各々が一礼して道場部屋へ入っていく。
先頭を歩いていた三人組は中央で足を止めた。
「待ちな」
「なーに」
ついてきた百春が小首を傾げる。
「神聖な霊場に際して土足で上がるとはなんたる不敬!」
ロン毛は正面上座に向かって大仰に叫んだ。
手の平で示した最前部には神棚が祀られていた。
礼に始まり礼に終わる。
相手を敬うための基本精神を表した言葉だ。
しかし武道では他にもう一つ。
道場の出入りには神前に拝礼する礼儀作法の意となる。
ここまでは経験者や上級者の見よう見まねで誰でもやれる。
だが未経験者や駆け出しがうっかりやってしまう落とし穴がある。
それが靴ないし靴下で道場に上がってしまうこと。
意外かもしれないがちょっとだけならという気の緩みを指導者は見逃さない。
「クックック。 裸足で入ってね~エーリちゃん」
「ほらタイツ脱いで脱いで。 は、 や、 くぅ~!」
他二人も調子に乗って煽りたてる。
三人組はもちろん、 鴛海含めファイターらしき者はすべて裸足。
冬一郎もスカレポで知識を得ていたから靴下を脱いでいた。
しかし百春は違った。
アカデミーの制服は迷彩効果を有するのが基本仕様。
なので女子制服には服と同じ迷彩パターンのタイツが用意されている。
スカウトは隠形が命。
うっかりと指摘するには少々酷であった。
「更衣室に行きましょう」
「チッ。 オメーは次に相手してやっからよ」
会話に割って入った鴛海を鼻ピアスが突き飛ばした。
「大人しく待ってなっての」
たたらを踏む彼女に坊主頭が吐き捨てる。
なおも手をかけようとする鼻ピアス。
駆け寄ろうとする冬一郎。
それぞれを見やって百春は呟いた。
「うーん。 それもそうだね」
その一言で三人組は狂喜した。
「ヒューヒュー。 そうこなくっちゃ!」
「喜べ外野共! 今年の新入生はサービス精神旺盛だぞ」
鴛海を放り出したケダモノが集まってきた。
そのまま欲望の餌食にせんと囲い込む。
「おいオレ達も配信すっぞ。 今日は何色? でアンケ取れや。 当たったヤツに豪華生写真贈呈ってな!」
ロン毛の指示で鼻ピアスがソーサリングをいじくりだした。
「これは数字回んゾ~」
ゲリラ配信が始まると視聴者のカウントは跳ね上がった。
お読みいただき、ありがとうございました。
次回は誰かの名誉が損なわれます。不憫。
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