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城門エンカウント

 スカレポ異例の公開説教はまだ続いていた。


 リリィにやり込められる蛇鶏の会が言い訳するたびに視聴者が盛り上がる。


 入学式を紹介する主旨から完全に逸脱してしまったが、


 これもまた撮り直し不可な生配信の醍醐味といえた。


「仲西さんも丘さんも、 野鳥の話になるとああなるの」


 百春がクスクスと笑って言った。


 スカレポから退室した冬一郎はホログラムを閉じる。


 周りはまだ興奮冷めやらぬも大移動は再び始まり、


 二人も流れに乗って歩き始めた。


「そういえば二人とも、 お前のこと狙ってるらしいよ」


「知ってる。 ていうかもう誘われたし」


「あの企み実行しちゃったのね」


「うん。 そして断った。 そーゆー話はアカデミー後にお願いしますって。 だってほら、 わたしのことはわたし一人じゃ決められないからね」


「……そんなことはないさ。 もうお前は自由に飛べるんだ。 あのヒバリのようにな。 だからお前のことはお前自身で決めていいんだよ」


「その点は大丈夫。 決めてるところはちゃーんと決めてるよ」


「へぇ、 何を決めたんだい」


「冬一郎さんとアカデミー生活を満喫する!」


「もしかして家で語ってた浅はかな夢もその中に?」


「浅はかじゃなーい。 テンプレートというのはね、 決して偶然の積み重ねじゃないよ。 ううん、 出発は偶然だったかもしれないけど二回、 三回と繰り返したら、 何者かの意志、 あるいは力が介在するようになるの。 人間ではどうすることもできへん天啓……そんなお約束があるんや! って」


「んなアホな」


「そうセンナン君が力説してた」


「うん。 イントネーションでわかった。 奴は後で誅を加える」


 そんな中身のないオカルト話に花を咲かせていると、


 横から一人の女子生徒に声をかけられた。


「お話し中にすみません」


「どうしましたか」と百春は尋ねた。


 おずおずとしていた女子が勇気を振り絞って彼女と向き合った。


「あの……わたし、 わたし。 ファンなんです!」


「そーなんだー。 初めてだよーファンの人に会ったの」


「スカラシップすごかったです。 優雅で、 力強くて、 綺麗で、 カッコよくて……とにかく感動しました!」


「わーありがとー」


 百春は右手を差し出した。


 そして躊躇いがちに出した女子の手を引っ張るようにガッチリ握った。


「あっ、 あの、 わたし……ありがとうございます」


 感極まった声で女子は言った。


 そんな二人の握手を一同が注目する。


 理由はこの時代特有の環境下にあった。


 誰もが大なり小なり生体電気を生み出せる。


 ということは帯電した箇所が振れる度に、


 電気が疾って痛みを生ずるわけだ。


 無論ただの静電気ではないので、


 意図的に生体電気を抑え込むことは可能である。


 その行為は礼節的には正しい。


 しかし言い換えれば自分を偽る行為であり、


 フランクな関係を築くには適さない振る舞いといえた。


 こうして意義すら見失って気軽にもできなくなった握手を、


 百春がごく自然にやってみせたのだ。


 ただの挨拶を超えた親愛の証に女子はただただ震えていた。


「ハイ! あたしもファンです。 握手してください」


 二人目が勢いよく名乗りを上げた。


「ほんとにー。 いいよー」


 百春も気兼ねなく握手をする。


 さっきと変わらぬ所作なれど二人目はまた違った感想を抱いた。


 微かに、 ほんの微かにだが、 百春の生体電気を感じたのだ。


 彼女の心の機微が生体電気の表情に乗って掌に伝わってくる。


 ――嬉しい。


 ――ありがとう。


 ――頑張らなくちゃ。


「あたし……応援します。 ずっとずっと応援しますから!」


 ただの感謝を超えた親愛の証に、 二人目はただただ震えていた。


 そんな様子をじっと見守っていた一同が、


 三人目を競って名乗り上げるのも致し方ないことであった。


「俺もスカウティングレポート観ました! 握手してください」


「スカラシップの自力飛行すごかったです! 私と握手してください」


「さっきのヒバリも感動しました! 自分も握手してほしいです」


 四方八方から差し出される手、 手、 手。


「うわわわわー何何何? ビックリしたあ!」


 突発的なファンサービスは過熱も恐ろしく早い。


 彼女の隣に立っていた冬一郎は、


 我も我もと押し寄せる人垣に押し出されてしまった。


 人だかりの隙間から覗いてみると、


 百春は楽し気な様子で握手をしている。


 本人が望んでいたのとは少しばかり違ったが、


 笑顔を見れたのだからきっと悪くはないのだろう。


 そう思いながらここにいる全員遅刻も止むなしと腹をくくった。




 依然として握手会は続いてるが百春達は牛歩のごとく進み続け、


 どうにかアカデミーの校門まで辿り着いた。


 そこで待っていたのは先に到着してた生徒達で、


 囲みがさらに厚くなったのは言うまでもなかった。


 冬一郎は迂回して人だかりが減った校門側へ移る。


 後背の河川たる≪二十三区境界ライン≫を城壁と例えるのなら、


 アカデミーはまさに出丸。


 古の大阪城に作られた真田丸的役割を担っている。


 ゆえに元が教育機関の集まりであろうとも、


 今は要塞化された軍事拠点的な色が強い。


 その最たるものが外壁である。


 相手は化物なのだから高くて厚いは当たり前。


 城壁と呼称して差し支えない物々しさだ。


 スカレポで何度も観てきた校門は実際に現地で見学すると城門だった。


 あのときの驚きと感動が再び胸からこみ上げてくる。


 夢であり目標だったこの門を今からくぐるのだから。


 そんな物思いに耽っていると門の端で熱狂から浮いた集団が目についた。


「あれは……いやまさか、 そんなことが――」


 冬一郎は確かに見た。


 仕組まれた筋書きを。


 神の見えざる手がもたらした福音(レアイベント)を。


お読みいただき、ありがとうございました。


校門のイベントといえばアレとコレしか思いつかず、 アレを採用しました。


読者を選ぶ物語だとは思いますが、もし気に入っていただけたなら「ブックマーク」と「↓の評価 ☆☆☆☆☆」をお願いします。


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