春告げる太陽の御子らよ
次にやってきたのは雷電のエフェクトを身に纏った集団だった。
「おおー派手なのきたー」
「雷のオーラも外せないド定番だな」
あくまで彼らのは過剰演出である。
だが、 今を生きる人間なら大なり小なり同様の姿を模れる。
霧の祝福を多分に受けた百春ならばきっと。
一人でエフェクト以上の生体電気を生み出せるだろう。
冬一郎は横ではしゃぐ彼女をチラリとだけ見た。
「冬一郎さん。 あの子!」
不意に声をかけられ慌てて指差した方へ顔を向ける。
「へぇー水たまりを映してるのか。 面白い」
派手さは無いが足が地を踏むたびに、
水面で浮かぶ波紋が描かれて大きく広がっていく。
その円が足跡となって後に続き――そして消えていく。
その様が作り物とは思えない儚さと情緒を生み出していた。
だが静寂にも似た美しさはどよめきによって仕舞いとなった。
「なんかすごいのきた」
雷電のときとは違ったニュアンスの声。
百春自身も感情の置き所に迷ってるらしい。
霧の中から徐々に現す不可思議な存在。
それを視界に入れた観覧者は呆気にとられてしまった。
「踏むたびに地割れを映してやがる。 さっきのと正反対だ」
我に戻った冬一郎が驚きと戸惑いを口にした。
百春も笑いながら相づちを打つ。
「雷のオーラまで出して二演出してるね。 しかも割れた岩盤や小石、 砂塵すら重力に逆らって宙に浮く演出を加えちゃって……ってことはトリプル?」
「いやいやいや無駄に技術力高すぎだろ。 しかもサービス精神旺盛すぎる。 ノリがどっかの関西弁みたいだ」
「ふふっ彼っぽいねー」
長々と続いたパレードの列がここで途切れた。
今のが最終列だったらしい。
興奮冷めらぬ観覧者は思い思いに語り合い、 そしてアカデミーへと向かう。
次のイベントは入学式だ。
二人も流れに乗って歩き始めると道路の反対側からこちらに手を振る者がいた。
「あれ?」
「なんだ知り合いか」
「写場さん。 スカレポのカメラマンさんだよ」
「へーあの人が。 にしても一生懸命振ってんな」
「どーしたんだろ」
百春は不思議そうに首をかしげた。
写場さんのゼスチュアがますます大きくなる。
なにかを急かすように見えなくもない。
冬一郎はソーサリングを起動させて最小サイズのホログラムを映した。
そして人気配信サイト・スカウティングレポートに遷移して中身を確認する。
相変わらず入場制限が敷かれる盛況っぷりだ。
そして場外用の発言ログに見知った名前が連呼されていた。
「配信中のレポートはここで間違いなさそうだな」
彼女にホログラムを見せるとみるみる頬が膨らんでいった。
配信に入場できた有志が発言ログに記載してた。
「百春ちゃんは今日のために特別な演出を用意したらしい」と。
「はあ? なにこれ」
「俺にも黙ってそーんなサプライズ用意してたのか」
「いやいやサプライズって何? わたし初耳なんだけど!」
「けどほらスカレポじゃ予告編まで組んでるよ」
そんな馬鹿なと百春はPVを見た。
羅列された中の最新作に、 自分と瓜二つな少女がキメ顔で写っていた。
いつどこでこんな顔をしたのかわからない。
もうため息しか出なかった。
「弓波さんともう一度話し合う必要がありそうね」
「それよりどーすんの。 この空気」
観覧してたギャラリーまでがいつの間にか二人を注視している。
スカレポの発信力は本当に侮れない。
今ここにリアル非リアル問わず、 全ての人間が「期待」を共有したのだ。
「うう……みんなの視線が痛い」
「前にロータリーで披露した桜の花でいいじゃん」
「持ってきてなーい。 あれは冬一郎さんにしか見せる気なかったし。 てゆーか、 そもそも今日は始めから観覧気分だったよー。 どーしよー」
写場さんのジェスチャーが手を合わせてお願いするポーズになった。
もはや一刻の猶予もないらしい。
「あれをやるしかないんじゃない」
「ああーやっぱりー?」
「そう。 予め用意していたとっておきだ」
「ううーん。 ここで切り札かー」
百春は腕組みをして悩んだ。
「想定と違ったがしょうがない。 切り時は今だと思うぞ」
「ぐぬぬぬぬぬ……ハァ、 そーする」
「頑張れ」
冬一郎に後押しされて彼女は道路の真ん中に立った。
霧を一口吸い込み身体中に巡らせていく。
そして満たされた霧の祝福は生体電気へと変換される。
そのエネルギーを右手に持ったマジックスピアへ流し込み。
ハイパネーションモードを解除させた。
目覚めた銀の槍は折り畳まれた柄を展開させて一本姿の槍へと戻った。
一度二度、 頭上で回してから構え直した百春は短く歌うように詠んだ。
「うららかに照っている春の日よ来たれ」
かけ声と共に槍の先端である穂の部分が地面に突き立てられた。
すると切っ先から銀色の細い糸が疾って地面に模様を描き始める。
大きな二重の円に上向きの正三角形を記したら。
続けざまに下向きの正三角形を重ねて記す。
こうしてあっという間に六芒星を完成させたがパフォーマンスはまだ終わらない。
鮮やかな手捌きに感嘆の声が漏れる中、 線に沿って魔法陣が輝き始めた。
その光はみるみる大きくなって、 陣の中心に立っていた百春を飲みこんでしまった。
『あれは生体電気の発光だねえ丘さん』
『ええ。 電気液体金属のスピリルは生体電気で形状制御を行いますが、 過剰な電力量を流し込むとあのような現象がおこるわけです』
発言ログを眺めていた冬一郎は、 いやに説明臭い書き込みに目が留まった。
記したのは日本蛇鶏の会の二人。
スカレポの解説を呼ばれなかったのを良い事に、
非公式な解説を勝手にし始めていた。
これは面白くなったとホログラムを元のサイズに戻す。
生観覧&実況解説のいいとこ取りにほくそ笑むと、 発言ログが急速に回りだした。
百春のアクションにみんなが注目している。
出来栄えを見て彼は一つうなずいた。
一番の懸念だった次の段階へは、 どうやら失敗せずに移れたらしい。
『光が消えたらスピアの先に鳥がいるね。 あれはヒバリかな丘さん』
『あの後頭の特徴的な冠羽。 色が銀色でも見間違えることはありません。 スズメ目ヒバリ科ヒバリ属に分類されるヒバリですね』
『別名は告天子。 他に叫天子なんてのもあったね丘さん』
『なかなか嗜好を刺激してくるクールな鳥ですよね』
『しかしよくもまあ繊細かつ扱い辛いスピリルで、 あれだけの造形を創り上げたよねえ丘さん。 ほらあれ羽根の模様一枚一枚再現してるし』
『見て下さい彼女の足元。 魔法陣が消えています。 きっとスピリルの細い糸でヒバリを編んだのでしょう。 しかも発した光が生きている間にね』
『そんな芸当、 儂は無理。 できる丘さん?』
『私もできないです……って彼女に動きが』
百春は縦に持っていたスピアを垂直に下ろす。
しばし身体にタメを蓄えてから――勢いよく天へ衝き上げた。
すると切っ先に留まっていたヒバリが持ち上げられる力を借りて空へ飛び上がった。
ただし本当に飛んでいるわけではない。
ヒバリを構成している糸を解きながら上へ上へと伸ばしているのだ。
しかもスピアから糸へ生体電気を流し、
スピリルの形状制御を利用して両翼を羽ばたかせてみせた。
だが、 しかし――。
霧の中へ消えるよりも早く、 限界はやってきた。
「ああ――消える」
誰かのうわ言が聞こえた。
鳥の形を維持できなくなったスピリルは、
最後に細い一本の線となって白い空へ消えていった。
『天に向かって飛ぶ鳥らしく、 高々と舞い上がっていったねえ丘さん』
『あの姿を見た昔の人は、 哀愁を感じたらしいです』
『けど儂は今のヒバリを見て、 そうは思わなかったよ丘さん』
『私もです。 みなさん聞いてください。 ヒバリが空高く飛ぶと晴れ、 という言葉があります。 ではあの飛んでいったヒバリには、 どんな言葉が込められていたのでしょう。 正解は一つではありません。 皆さん一人一人が感じ取った数だけ正解があるのです』
『けどこれだけは言える。 君はは決して一羽で飛ぶわけじゃない。 ここに集まった仲間達が、 みんなで高く飛んでいくんだ。 儂はあの消えていったヒバリから、 そんな希望を見たよ丘さん』
『ええ、 期待しましょう』
二人がそう語り終えると、 割れんばかりの拍手が上がった。
リアルと非リアル両方で蛇鶏の会のコールが巻き起こる。
一人だけ事態が飲み込めない百春はとりあえず遊歩道(舞台袖)へ下がった。
それから写場さんのオッケーサインを貰い、 そそくさと冬一郎の下に戻ってきた。
彼の「傑作」という発言ログを読み返していたら、
とびきりの大物ゲストが書き込みしてきた。
『コラコラコラ~蛇鶏の会。 勝手に進行して勝手に締めない!』
スカレポ配信中の東都リリィがわざわざ場外まで咎めにきてた。
お読みいただき、ありがとうございました。
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