こちらわんぱくの集い~爆発を止めないで~
■登場猫物
・灰猫【蒲田】=冬一郎。
・人間【蒲田その2】=百春。
・三毛猫【八戸】
・ぶち猫【】
・サビ猫【】
・茶トラ【】
・キジトラ【】
・サバトラ【】
・マヌルネコ【松戸】
・パンプスを脱いだ猫【泉南】
「それよりも冬一郎さん。 食べ終わったらご馳走様でしょ」
百春は撫でる手を止めて唇を尖らせた。
夢心地だった灰猫が慌てて返事をする。
「……あ、 あ? ああごめん。 ご馳走様」
「わたしまだ感想もらってないよ。 焼きそばどうでしたか」
「うん、 いいんじゃない。 これならイケるよ」
「はいお粗末様でした。 ふふっ、 やったぜ」
冬一郎のお墨付きをもらって、 彼女は拳を握りガッツポーズする。
「えっ、 カマタくん食べたの。 いーなー」
羨望の眼差しで見つめるマヌルネコ。
そして逆の眼差しを百春に向ける猫が二匹。
「はぁーカマタその2は相変わらず新妻プレイかい」
「プレイ言うな」
「もう見飽きたよ。 倦怠期編見せてくれ」
「見世物じゃないぞ。 あと口にするなそのワード」
百春のツッコミに満足げなパンプスを脱いだ猫。
しかしサビ猫は違った。
前足で顔を洗いながら愚考する。
ヒゲを整えながら違和感を掬う。
尻尾を左右に振って可能性を洗い出しては削ぐ。
その行程を幾度となく繰り返し――とうとう真の答えを導き出してみせた。
「そうか……そうだったのか」
「なんやどうしたんや」
「いつもならカマタその2は、 ンモーそんなことないって(はぁと)って返すはずだ。 それなのに今、 プレイという行為だけを否定したぞ」
「よく覚えてんな。 そんなもん」
「まさか……まさか。 おまえ等は!」
「えへ」
はにかむように微笑む百春。
明るい陽の気に当てられる迷探偵達。
どの顔も灼けた鉛を呑みこんだ苦悶の表情を浮かべていた。
五臓六腑に染み渡る。
ねたみ。
そねみ。
やっかみ。
やきもち。
ジェラシー。
鋭い視線が集まるのを冬一郎は感じた。
少女の膝の上で。
「……裏切者」
最初に口を開いたのはキジトラだった。
「裏切者! 裏切者! 裏切者っす!」
次にサバトラ。
こうなったら非難轟号のドミノ倒しが始まる。
「なんでやねん! なんで抜け駆けした! わい等を置き去りにした!」
「ゴールするときは全員手を繋いでって約束したじゃないですか!」
「誅する? ねえ誅する? 誅しよっか」
「今更ずら」
退屈そうなぶち猫を無視して感情の赴くまま暴れだす嫉妬猫共。
さながら夜中の運動会のように歪んだエネルギーを爆発させる。
「ちょ待てお前ら。 派手なアクション止めろ。 負荷がかかる!」
「問答無用!」
「言語道断!」
「贅沢三昧!」
「酒池肉林!」
マヌルネコの足が一瞬止まった。
踏まれずに済んだサビ猫がワナワナと肩を震わせる。
「許さん……許さんぞイチャコラ共!」
パンプスを脱いだ猫は土管をよじ登った。
そして高らかに宣言する。
「ここを爆破して我々の断固たる意志を示すんや!」
「応ッ!」
「すべての色恋に鉄槌を!」
天を衝いたレイピアに続いて、 怒りの肉球が突き上げられた。
「そんなー色恋だなんて。 うふ」
百春は嬉しそうに火へ油を注ぐ。
「おんのれぇ……これ見よがしに」
「それ以上はやらせん!」
「ええい爆破はまだか!」
「で、 実際に爆破ってどうするの」
茶トラが首を傾げて言った。
「アホか。 細い動作繰り返してなあ、 負荷かけてくんや」
「だから実際にこのにゃんこスタイルでどうするのさ」
パンプスを脱いだ猫は前の足組みをして考える。
飛んだり跳ねたりといった大きな動作をせずに。
その場でただひたすらに効率よく繰り返せる所作。
それは――。
「ヒンズースクワットなんてどうや」
「おめーしかできねーずら」
「チッ、 使えん奴らめ!」
捨て台詞を吐いて自重トレーニングを開始するパンプスを脱いだ猫。
「で、 おいら達はどうする」
「猫で細かい動きねえ……反復横跳びはないよなあ」
「あった。 一つあったぞ諸君。 爪とぎだ」
両の肉球を合わせてた迷探偵が言った。
「あー確かに。 それならいけるな」
「念のため尻尾も振って二段構えにしとくっす」
「じゃー始めっか」
部屋中に響くフンフンと気合のこもる声。
そしてカリカリ掻く音。
なのにこれといった変化は訪れない。
パンプスを脱いでいて本当によかった猫は、 滴る汗を光らせながら呻いた。
「なぜや。 なぜ爆破せんのや」
「いやートクマツがほら、 今も善処しているから」
冬一郎は申し訳なさそうに頭を掻いた。
「ここまで見越して機械知性の投入を?」
「おのれ孔明面しやがって。 モテモテ男子がぁ!」
「くうううう自爆装置はないのか! 自爆装置は!」
爪とぎの回転を速めても焼け石に水。
己の無力さに心が折れそうになる嫉妬猫共。
しかし苦しい時こそ一致団結せねばならぬ。
そう気力を振り絞る中、 ぶち猫とは他に非協力的な一匹がいた。
「ハチノヘ! 何ぼーっとしてんねん。 手伝わんかい」
「えっ、 あっはい」
大人しく香箱座りしていた三毛猫はあわてて爪とぎを始める。
よいしょよいしょと拙い手つきで掻く姿を見て、 百春は灰猫の肉球を握った。
「なんか可哀そう冬一郎さん」
「俺も切なくなってきた。 トクマツ楽にしてやってくれ」
『仰せのままに』
部屋の解体が始まる。
百春が入室した時より崩壊速度が速い。
思っていた以上に猫達の努力は報われていた。
ルームセキュリティが再三にわたって警告を発する。
それでも猫達は止まらない。
不敵な笑みすら浮かべて最後の審判を目指す。
そして臨界を迎えた仮初の世界は、 零へと還っていく。
「フハハハハ我々の勝ちだ!」
「わんぱクラブに栄光あれ!」
「我らの前途に運命の出会いがあらんことを!」
「お疲れずら」
ぶち猫が尻尾をぺちんと叩いて、 画面が暗転した。
お読みいただき、ありがとうございました。
お待たせしました。SFらしく?自爆オチにしてみました。
次回から舞台は現実世界へ。しばらく百春無双をお楽しみください。
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