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こちらわんぱくの集い~百春姫と九人の猫~

■登場猫物

・灰猫【蒲田】=冬一郎。

・三毛猫【八戸】

・ぶち猫【】

・サビ猫【】

・茶トラ【】

・キジトラ【】

・サバトラ【】

・マヌルネコ【松戸】

・パンプスを履いた猫【泉南】

 アカデミーは制服の着用が義務付けられている。


 郊外活動を考慮して白を基調としした霧迷彩。


 その上に黒とグレーの小さな四角形(ピクセル)を散りばめた都市迷彩パターンが彩る。


 シックの落ち着きと現代的なモダンをよく表したデザインだと評価も上々。

 

 そんな初々しい制服姿の百春英莉(ももはるえいり)がやって来たのだ。


 猫達が色めき立つのは無理からぬものであった。


「遅いで。 カマタその2」


「おお来た来た。 真打登場」


「よっ有名人。 次のスカレポ楽しみにしてるっすよ」


 百春は腰に手を当ててごろ寝してる猫達を見廻した。


「おはよーみんな。 初登校前にのんびりしちゃって」


「いーのいーの。 時間までに着きゃいいの」


 サビ猫が伸びをしてまた寝っ転がった。


「ホントやる時はやるくせにルーズなんだから」


「このギャップがええんやろ。 イイ男の条件や」


「場合による」


「えっ」


 前髪をかき上げた足が止まるパンプスを脱いだ猫。


 そんなツッコミどころ満載なイロモノの横に、 一番の仲良しを見つけた。


「おっはよーハチノヘちゃん」


「おはようカマタちゃん」


 香箱座りのまま三毛猫が微笑んだ。


 そして百春は猫の輪の最奥へと目を向ける。


 気まずそうな灰猫が視線を逸らした。


 彼女は部屋の中へ一歩踏み入れる。


「ちょいちょいちょい待って」


「そのままで入ってきちゃダメっす」


 あわてて止めるキジトラとサバトラ。


「だーいじょぶ。 わたし軽いし」


 言葉とは裏腹に部屋の四方が崩れ始めた。


 破片は一ドットに分解されて霧散していく。


 そして壁だった場所からは真っ暗い空間が覗き見えた。


 まるで3Dの部屋以外はデザインしていないかのように。


「この部屋(仮想空間)64メガバイトしかないずら」


「うちら安部屋しか借りれないからねえ」


 ぶち猫と茶トラがあくびをした。


「だから、 ね? リサイズしてちょうだい」


「猫になるっす!」


「部屋がパンクすんねんて。 人型のままじゃ重いやん」


 何気ない一言が余計な前置き(フリ)になる。


 これこそがパンプスを脱いだ猫の天分といえた。


 いかに百春であろうともスルー不可な発動能力である。


「なっ、 わたし重くない!」


「そういう意味じゃないぞ」


「冬一郎さんまで……トクマツ。 いるんでしょ」


『こちらに、 グランドマスター』


 人間観察に勤しんでいたトクマツが応えた。


「善処しなさい。 それとグラマスはやめて」


『仰せのままに』


 と言い終えるや否や、 崩壊はピタリと止まった。


 百春のヒューマンモデルを量子化してデータ圧縮したのか。


 はたまた量子サーバーに新たな仮領域を確保して余計なデータを逃がしたのか。


 とにかく部屋は再構築されて百春も人の姿のまま入室を許された。



「すげぇな。 機械知性体もカマタその2も」


「ほんまスケールのデカい、 ええ女やで」


「おだてたって何もでないゾ」


「一々返しがたまらんねんて」


 茶目っ気たっぷりに指を差されて翻筋斗(もんどり)打つパンプスを脱いだ猫。


 一先ず落ち着いたところで、 猫達は棚上げにしていた核心へ目を向けた。


「にしてもなんだい。 その恰好は」


 百春は制服の上からエプロンをかけていた。


 黄色の生地に蛇鶏の雛鳥が駆けまわるアップリケ。


 丈は膝にかかるくらいで実用性に重きを置く彼女らしさがうかがえる。


 それがまた家庭性をより強調して猫達を悶えさせた。


「あーけしからんわ。 ほんまけしからんわ」


「素朴に見えてマニアックずら」


「いやー制服エプロンって本当にいいものですねえ」


 あれこれとまた落ち着かない中で香箱座りのままな猫が言った。


「朝ごはん何つくったのカマタちゃん」


「焼きそばだよ」


「へぇ。 朝からガッツリくるね」


「濃ゆいので攻めてくるの意外っす」


 マヌルネコが夢見る少年のような目になった


「焼きそばかあー。 いいよねー焼きそば。 ソースかなあ塩かなあ。 カレー風味やバター醤油もアリだねえ。 ナポリタン風も嫌いじゃないよ」


「今日はソース味」


「ソースかあーいいよねーソース」


「どーせ何でもいいぶぎゃ――」


 そしてサビ猫は踏み潰された。


 その背後に動く影が一瞬止まる。


 百春は咄嗟に手を伸ばした。


「目を離したらすーぐどっかいくんだから」


 捕まえたのはこっそり逃げ出そうとした不届き者。


 彼女は首根っこをつまみ目線の高さまで持ち上げる。


 じっと見る目から逃れることはできない。


 冬一郎は観念した。


「いやなに。 挨拶も終わったことだし、 お暇しようかなーって」


「やーっぱり紀伊馬さんの言ったとおりだった」


 パンプスを脱いだ猫は眉をピクリと動かした。


「誰や」


「俺の指南役」


 ぶら下がったまま答える冬一郎。


「藪影のおじいちゃんはよく道草食って油売ってたって。 だから冬一郎さんもしっかり捕まえて離さないようにしなさいって」


「まさに、 じいじって感じやな」


「孫娘が可愛いくて仕方ありませんか……紀伊馬さん」


 二匹の猫はやれやれと言いたげな顔をした。


「まったくもう。 ほんといけない子」


 百春は灰猫とおでこを合わせる。


 それから正座した膝の上に乗せて、 横に寝かせた。


 まずは指先を猫の鼻に近づけて朝のご挨拶。


 ちゃんとできたら顎をコチョコチョとくすぐってほっぺを優しく擦る。


 次は頭。


 毛並みに沿ってゆっくり撫でる。


 耳が後ろに倒れてたらOKのサイン。


 付け根や裏側へ範囲を広げていく。


 首の後ろをカリカリしても嫌がらなかったら背中へ。


 頭から首、 背中、 腰へと、 流れるように手の平で撫で下ろす。


 ここまでが普通の猫の愛で方。


 百春は己の生体電気を活性化させる。


 それを掌に集中させて猫のツボに――。


「ふふっ。 すぐヘソ天にしてあげるからね」


「あっ、 あっ」


 部屋中に出してはいけない声が響き、 うつむく猫達。


「そこまでずら」


「はいはーい」


 ぶち猫はめんどくさそうに伸びをして、 また寝た。


 その裏でヒソヒソと羨望と不満を垂れる、 サビ猫とパンプスを脱いだ猫。


「あの歳で末恐ろしい。 なんて娘だい」


「自然の流れでイチャつきおってからに」


「見てごらんなさいよ。 あの鼻の下伸びきった灰猫を」


「調教済みやんけ。 あの甘えん坊将軍」


「お前らなあ」


 立ち上がろうとした冬一郎を押し留める百春。


 生体電気を止めても手は休めず。


 見てくれと言わんばかりに再び愛で続ける。 


 二匹の猫は地団駄を踏むしかなかった。


お読みいただき、 ありがとうございました。


やっとヒロイン登場ですが、次回オチます。


読者を選ぶ物語だとは思いますが、もし気に入っていただけたなら「ブックマーク」と「↓の評価 ☆☆☆☆☆」をお願いします。


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