こちらわんぱくの集い~食いしん坊の苦悩~
■登場猫物
・灰猫【蒲田】=冬一郎。
・三毛猫【八戸】
・ぶち猫【】
・サビ猫【】
・茶トラ【】
・キジトラ【】
・サバトラ【】
・マヌルネコ【松戸】
・パンプスを履いた猫【】
「あーあ≪禁足二十三区≫はいいよなあー。 腕の立つファイターが集まっててさあー。 大怪鳥・蛇鶏の十メートル級をジャンジャン狩って、 モリモリ食べれぶぎゃ――」
涎を垂らしたサビ猫を踏み潰して、 マヌルネコがズズイと前に出た。
「蛇鶏肉の話待ってました! まずはなんといってモモ肉。 とんでもなく弾力のある肉質でさあ、 一口噛めば旨味たっぷりの肉汁が溢れ、 甘くてコクのある脂が追いかけてくるんだ。 ジューシーとはまさにこの肉のためにある言葉だね」
「マッド……おまぶぎゃ――」
何かを口にしたサビ猫はまた踏み潰された。
「ムネ肉は脂肪が少ないけど、 淡白だなんてとんでもない。 逆に肉の旨味がしっかり味わえるんだ。 蛇鶏肉本来の味を語るにはムネ肉をおいてほかにないよ。 ササミは箸休めにいいかな」
「ササミの扱いなんか軽ぅ」
茶々を入れて一通り笑い終えから、 冬一郎は話の続きを促した。
「いやマツドの。 肉だけじゃないでしょ蛇鶏のよさは」
「そうだよカマタくん。 手羽を忘れちゃいけないよね。 皮と脂が肉以上に集まってるから、 より旨味が強烈なんだ。 揚げ物なんかもいいけど煮込むとんもうすごい。 一口飲むと意識がね……こうボーッとしてくる」
「何を食ってんねんお前!」
ここぞとばかりに輝きを魅せるパンプスを履いた猫。
「煮込むのならモミぶぎゃ――」
這い出したサビ猫がまた潰された。
「そうモミジ! カマタくんはわかってる。 見た目はデカくて臭みもあるけど、 下処理してトロトロに甘辛く煮込めばもう最高。 ぷるっぷるのコラーゲンがおいらの唇と喉に至高の食感を与えてくれる。 そして意識がボーッとしてくる」
「やっぱなるんかい!」
生き生きとするパンプスを履いた猫。
そして苦笑交じりに話を振る冬一郎。
「蛇鶏白湯ラーメンをお忘れかい?」
「カマタくんは本当にわかってる。 肉、 手羽、 モミジ、 全ての旨味がなぜか一つに凝縮された、 爬虫類を連想させる丸々太った尻尾。 これを白濁するまで煮込んだスープに麺を絡めると、 意識が――」
「もうええわい!」
ボケとツッコミが満面の笑みで讃える中、 冬一郎はさらに話を続ける。
「食以外にも様々な使いどころがあるさ。 羽毛は上質でかつ大量に手に入るし、 爪やくちばしなんか削って煎じれば、 解熱鎮痛剤になるってね」
「蛇鶏に捨てるとこ無しずら」
「そういうこと」
ぶち猫は一つあくびをして尻尾をぺちんと叩いた。
「なーんか腹減ってきたよ。 カマタはもう堪能した?」
小さなお腹をさすりながら茶トラは言った。
「ちょっとバタバタしててまだかな。 まあいつでも食べれるしいずれね」
「おいらは食べてるよ毎日」
「マッドォ……てめぇぶぎゃ――」
サビ猫を踏みつけながらマヌルネコは難しい顔をした。
「けどねえ希少部位はなかなか回ってこない。 ハツ、 砂肝、 レバーみたいな内臓系はまだしも、 セセリ、 ボンジリ、 ヤゲンなんかはホント出回らない。 これもうおいら自身で狩るっきゃないだろって、 そう思ってファイター志願したよ」
「わかる。 俺達だって食いたいんだよ1129」
「≪禁足二十四区≫は食えないずらか?」
「ぐうっ! カンクウや……カンクウさえ抑えりゃ、 わい等だって」
いったいカンクウに何があるのか?
疑問は多々あれど……まあいっかと各々触らないことにした。
あれ? という顔をしたパンプスを履いた猫。
それでもめげずにまた土管の上へよじ登った。
「ええかわんぱく共。 わい等は霧と化物とヤツのせいで、 一生リアルの対面は叶わんやろう。 けどなあネットの繋がりであろうとも、 九年間過ごしてきた時間は紛れも無くリアルや。 わい等の友情はこれからもずっと続いていくで。 ええな!」
「いいこと言うっす」
「おいしいとこ持っていったねえ」
「暑苦しいずら」
おいしいという評価にご満悦なところを冬一郎は近づいて言った。
「一ついいかな」
「なんや」
冬一郎はじっと足元を見つめる。
「足……痛くないの」
「今ごろか! シカトされてちょっとショゲてたわ!」
レイピアを抜いて振り回すパンプスを履いた猫。
「えっと触っちゃいけないモノに見えたから」
「触れや! 触ったって! 仮想現実なのにむっちゃ痛い」
「やっぱそうなんだ」
「なんで痛覚再現すんねん! 意味わからんて」
「リアリズムを追求すれば笑いの質も上がるから?」
「そんな品質保証いらんわい!」
レイピアの細いエッジが左右へ揺れるのを見た。
まるで持ち主の意思を継いでツッコミでも入れるかのように。
人と剣がここまで一体化できるなら、 パンプスとだってきっとなれる。
冬一郎は無言で頷き「なんか言えや!」とノリノリのツッコミを入れられた。
大方の話が終わって再びアンニュイな時間が訪れる。
思い思いに寝っ転がる猫達にルームセキュリティが通告してきた。
緊急性はない。
暗証番号を入力しての入室メッセージ。
遅れてきた十人目。 最後の一人がやってきたのだ。
「んもー冬一郎さんったら! こんなところにいたー」
ドアを開いて現れたのは明朗快活な少女だった。
お読みいただき、ありがとうございました。
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