こちらわんぱくの集い~アカデミー入学決起集会~
部屋の中は昼のように明るかった。
暗い道を歩いてきたせいもあるだろう。
だが手をかざして遮るくらいの光は確かに感じられた。
もちろん屋外に出たわけではない。
ただ一切の窓がなく地下室然としている。
そんな密室の所々に外界を模した構造物が散在していた。
レンガ調の地面。
生い茂る草木。
青空に浮かぶ雲。
その全てが正方形のブロックを組み上げた「一塊」であった。
まるでおもちゃの国。
ゲームの世界。
リアリティから程遠いレトロ調な空間。
なのにどこかノスタルジックな温かみを感じる。
そんな部屋の中で猫達が輪を作ってくつろいでいた。
冬一郎は灰猫に姿を変えて部屋に入る。
長い尻尾をピンと上げて四本足を巧みに動かし――猫の集会へ加わった。
「おはようみんな」
「ようカマタの」
「おーっす」
キジトラとサバトラが右の前足をぴょこんと上げた。
「どーよ調子は」
冬一郎は腰を下ろして尋ねた。
「変わんないね」
「いつもどーり」
「今日は霧が薄くて海がよく見えるずら」
猫達が口々に答えていく。
そのアンニュイな空気に耐えかねて一匹の猫が立ち上がった。
「なんやねんなんやねん。 なに当たり前なこと言うとんねん」
パンプスを履いた猫は二本足で立ったまま叫んだ。
「センナンが今からボケるそうだから聞いたってや」
茶トラが茶化すと更なる怒声が飛んだ。
「ボケとちゃうわ! お前らそろいもそろって……ハチノヘ、 言うたれ」
三毛猫が4つの足で立ってぺこりと頭を下げた。
「ご報告です。 例の肉食獣が冬眠から目覚めて、 海峡を泳いで南下する季節になりました。 ツガル・ディフェンス・ライン、 絶賛構築中です」
「ヤツか」
問い直す冬一郎。
「ああヤツや。 霧の祝福をわい等以上に受けたヤベーヤツ」
「野獣は恩恵を電化しないずら。 肉体強化全振りするずらずら」
ぶち猫はあくびをしながら補足した。
「ゆえに雷獣化した中でも最強最悪ときたもんだ」
「ハチノヘ・ホームの皆さんには頭が上がらないっす」
キジトラとサバトラは北の方角に向けて頭を下げた。
「ほんでなあ。 カマタが調子を訊いたのはお前や。 マッド」
「おいら?」
マヌルネコは寝返りをうちながら言った。
「ああそうや。 ええかよう聞け」
意気揚々と土管の上へ登るパンプスを履いた猫。
これがご清聴を願う時のローカルルール。
他の猫達も香箱座りに座り直して顔を見上げた。
「よっ、 待ってました」
「懲りないずら」
掛け声に混じった余計な一言を軽くいなして十八番の演説は始まった。
「わい等の国は永遠に晴れない≪超常的な霧≫に閉ざされて久しい。 あげく化物が闊歩する魔界染みた≪幽玄の国≫になってしもうた。 しかし! 決して人間は負けへんかった! 見よ、 わい等が目覚めた異能力を! 取り込んだ霧は生体電気となって異形共と戦う術に成り、 永遠の課題だったエネルギー問題も終止符が打たれたんや」
「おおーやんややんや」
「お前の手柄じゃないずら」
またしてもぶち猫の一言を斬り割くように腰のレイピアを抜く。
カッコよく突きを繰り出してから切っ先をマヌルネコに定めた。
「さあ、 これからわい等の反抗作戦や! って時にな。 ≪幽玄東京≫≪禁足二十三区≫の北側攻略担当マッド・シティさんは、 いつになったらシバマタ・ゲートを取り返すんですか? って催促しとんのや。 南側攻略担当カマタ・ゲート様は」
「いや別にそういう意味じゃ――」
冬一郎の訂正よりも早くマヌルネコは立ち上がった。
「すぐに取り返すから大人しく待っとれセンナン」
「お、 おう。 ならええんや」
ドスの効いた声に思わずたじろくパンプスを履いた猫。
「センナン・ゲートさんも早く≪幽玄大阪≫≪禁足二十四区≫攻略したってや」
「任っとけい。 足がかりにカンクウ抑えに行くって話や」
調子の戻ったところでぶち猫がまた一言。
「お前が行けずら」
「うっさいわ」
悪態をつきつつも満足げに土管を降りるパンプスを履いた猫。
猫の輪は再び元通りに形成されて話は本題に入る。
「とうとうこの日がきたな」
「ああ」
「規格外教育機関・アカデミーの入学式を全員で迎えることができた」
「約一名、 危なかったずら」
ぶち猫の標的にされて苦笑いする冬一郎。
「せやな。 ネットスクール幼年部からの腐れ縁が、 よもやここまで続くとは思わんかったわ。 まあ、 面子を見れば納得やけど」
「外で遊ぶ楽しさを学ぶネットサークル、 わんぱクラブ初期メンバーっすね」
「そういうこっちゃ。 わい等の行動力なら当然の結果やで。 にしても――」
猫達はたがいの顔を見合した。
言い淀んだ先を冬一郎は繋げる。
「ファイター・プログラム七人に、 スカウト・プログラム三人か。 別れたなあ。 これ知った時ちょっと意外だったんだよ。 霧の中で遊んできた俺達なら、 フィールドワークのスカウトを選ぶのが普通だろうに。 なんでわざわざ戦闘専門のファイターなんかを」
「……1129」
「え?」
「112982418962!」
「まさか……理由はその語呂?」
「そうっすけど?」
「悪いか? 悪いのか? 悪いですか?」
冬一郎の確認にキジトラとサバトラは半ギレで返した。
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