コード1191①
タッチスイッチに手を触れた。
プシューと空気の抜ける音が臨場感を盛り上げる。
手前に押し出されてから右へスライドしていく引き戸。
一枚物の片扉にしてはいやにブ厚い。
まるで宇宙船のハッチみたいに思えた。
しかし、 昔アーカイブで観たものとは少し違う。
記憶に残っている宇宙物の記録映像。
その中では大きな扉の開閉に、 乗組員がハンドルを回していた。
後に知ったエアロックという言葉。
命に係わる箇所は全てが手動で行われていた。
科学の粋を集めたであろうに……なぜ自動でないのか。
当時の自分は不思議でならなかった。
では自動ドアとは何ぞや。
誰の手も借りずに開閉するのが自動ドアか?
そう問われれば否と答えざるを得ない。
現行のドアは生体電気を吸収する機能を持つ。
対象はタッチスイッチに触れた手からだ。
動力源の新たなる獲得方法が、 よもや手動を必要とするなんて。
思いもよらぬ原点回帰。
それが自動ドアの定義を不確かな物にしている。
さらにもう一つ。
自動ドアには故障時に備えて必ず取り付けてある。
――手動用のドアノブを。
ここまでを踏まえてもう一度定義を上げ直してみよう。
自動ドアは勝手に開く。
しかし手動ドアは自分で開ける。
その上で開かなくなれば開ける、 限定的な非常時ドア。
ドア一枚だけでこれだけの意志を介在されられるのならば。
開いた開けたではなくもっと他のところで――。
『手動で開けて自動で閉まるハイブリッド製はどのようにお考えで?』
また揚げ足を取られた。
そんな細かいところまで考えていない。
そう思って藪影冬一郎はため息をついた。
「……四つ目の意志でいいんじゃないかな」
『INできればどれでもいいのでは?』
適当な返事が即答に被せられた。
相手の名はトクマツ。
AIが超々進化を遂げた機械知性体である。
彼の者は悪癖があって人間の頭の中を容易に覗いてくる。
高性能な量子コンピュータを無駄遣いしてまでもだ。
そして大暴露大会をおっぱじめるのがいつもの流れ。
それを足掛かりにして学習機会を得ようとするトンデモナイ存在だ。
現に今も「それを言ったらお終い」的な台詞を無遠慮にブン投げてきている。
「わかってない。 わかってないなあトクマツ」
『と、 いいますと』
「開くという行為に幾つもの意味があるのなら開かれたという要因、 もしくは根拠にも同様のことがあるのではと言ってるの」
入り口を入るとそこは一本の通路が続いていた。
お読みいただき、ありがとうございました。
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