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新手の鳥、 近寄り難く

 東西のエリアを延びる道路は数が限られている。

 その一つ「朝日が昇る通り道」という由来の道路を冬一郎は進んでいた。

 現在位置は東と西の中間くらいで、 周囲は宅地化が成されている。

 それだけに朽ちてない戸建ても数多く点在しており、 死角には事欠かないロケーションといえた。

 しかし裏を返せば開けている土地は限られており、 蛇鶏が小規模のコロニーを形成している期待も持てた。 とにかく今はこの道を真っ直ぐに進む。

 この先に交差した広めの道があるはずなのだ。


「人の子よ」


 不意に声をかけられて冬一郎は立ち止まった。 ここに人間はいない。

 それは間違いないのだが、 視界内に声を発する存在もいない。

 後方を追従しているトクマツと合流すべきか悩みどころだ。

 さりげなく直風を肩に担いで監視の眼を替える。

 マジックスピアの複合センサーがターゲットを捉えた。 また空の上だ。


「……人の子よ」

『無視していいと思います』


 トクマツがソーサリングを通じて意見を申し述べた。

 VSSなので謎の声の主には聞こえていない。

 会話記録が趣味のような機械知性体はめったに他者の言葉を遮らない。

 あまつさえ食い気味で話しかけるなど稀有な行為であった。


「なにか知っているのか」

『三歩歩けば忘れてしまう悲しき存在です。 耳を貸さずに通り過ぎて下さい』


 とりあえず言われたとおりに歩き始めると、 直風がターゲットの移動を検知した。 どうやらこちらに降りて来るようだ。

 速度は蛇鶏の急降下に比べたらスローモーションに等しい。

 直風はターゲットをアンノウンと告げた。

 更に無音のままこちらへ接近してくる。

 冬一郎は緊張感を高めて頭上を凝視した。 霧の天幕に影が映る。


「うわぁなんだアレ。 クッソ派手」


 霧の空から現れたのは大型の鳥であった。

 とはいっても常識的なサイズで尾の長さも含めてせいぜい体長一メートル未満。 人間の肩や腕に乗せても問題なさげに見える。

 特徴的なくちばしをしているが、 それ以上に強烈な印象を植え付けたのは朱赤の体色であった。 しかも羽が黄色、 ライトブルー、 えんじ色と色とりどりときている。

 霧の中で横に居てほしくないトップスリーに入る高い潜在力ポテンシャルを見せつけた鳥が語りかけてきた。


「我は道を司り、 我は試練を司るもの。 汝、 我を受け入れるべし」

『無視しましょう』

「受け入れるべし」

『無視しましょう』

「汝が求めしものを与うるは我なり」

「へぇ」


 冬一郎は口を挟んで楔を打った。 この感覚には覚えがある。

 人間のことは何でも知っていますという超越者の視点。

 であれば話だけでも聞こうと直風をかざすと、 赤い鳥は羽ばたき音を鳴らし始めた。 さっきまで不自然なほど無音飛行していたのに、 よもや接近警報のつもりだろうか。

 思いもよらぬ注意喚起にクスリと笑いながら、 スピアの先端に止まらせてやった。


『マスター!』


 珍しくトクマツが叫んだ。 赤い鳥の目が明減している。


「この白き借り染めの槍は我が光を宿した。 安全にご利用できます」

「ご利用ってお前……素が出ちゃってるぞ」

「さあ不浄なる銀の輪も捧げよ。 我が闇を授けん」


 赤い鳥が槍先から肩に飛び移った。

 着地と同時にとてつもない重量が圧しかかる。


「クソ重ッ!」


 冬一郎の非難をよそに、 赤い鳥は趾を器用に運びながら腕まで下りていった。

 鉤爪がソーサリングに触れるとホログラムが投影された。 ≪注釈バルーン≫だ。


『マスターがご利用のデバイスに対し、 第三者からの不正なアクセスを検知しました』


 トクマツが声に出して読み上げてくれた。

 いつもは無言で粛々と処理してくれるのに、 わざわざシステムメッセージを見せつけてきたのはきっと意味があるのだろう。

 例えば、 当てつけとか。


「ドジでノロマな亀よ。 己が身分を弁えて後に控えるがいい」

『マスター。 鳥頭でハタ迷惑なベニコンゴウインコの甘言に乗せられてはいけません』

「我が降りし偽りの躯はアカコンゴウインコなり。 愚かなミシシッピアカミミガメよ」

『違います亀はオオエドナガクビゾウガメであります。 ですよねマスター』

「いや絶対違うよな。 そんな名前のろくろ首みたいなカメはこの世にいない」

「見よ。 人の子が空しき世に嘆き、 我を求めているその姿を」

「いや人の子は求めてないよ我なんて。 全然まったく微塵もな」

『マスターは渡しません!』

『我が子となるべし』

「つーかそこの鳥。 お前は機械知性だよな……ってあれ?」


 冬一郎は頭に手を当てた。

 直風とソーサリング各々からVSSが生じている。


『fd&jyg¥;fでちg-0あぼjp0-#えpろjがsぴdwf4$』

『53q08jぎおうぇfgん:ふぇあb%gwkj@@fsd-^んjg?』

 人の解せない言葉が金切声となって、 脳に鋭く刺し回しながら響き渡る。


「うっるせえええええ人の頭ん中でキンキン喋るんじゃねえええええええ!」

 二機が操ったのは機械知性体のみに通ずる高等言語。

 翻訳不能ゆえに人々の間ではシンプルに機械語と呼ばれている。

 冬一郎も当然ながら機械語は解し得ない。

 だからこそ無意味に巻き込まれたあげく、 置いてきぼりにされた現状を制止した。

 マスター軽視は許さない。

 機械知性体とペットを躾る基本である。


「人の子よ……」

「マスター……」


 冬一郎は合流したトクマツを赤い鳥共々地面に座らせた。

 黙らせて反省を促すためだ。

 できることなら正座させたかったが、 それは許してやることにした。


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